13:溢れ出る母乳(馨の眼)

「胸を出してください」


 ブラを外すのがこんなに大変だったなんて誰が想像できるだろう。とにかくあちこちに引っかかってしまう。

 ボヨンと言う音がしそうなくらい上下に揺れるそれが解放されると一気に重力でカラダが持って行かれる。この時点で巨乳はご免だ。憧れていた自分を張り倒してやりたい。


 聴診器を当てられるけど、こんな分厚い脂肪があって音が聞こえるのかと思う。


「ふむ、特に内臓に異常はないと思われますが、この胸は今でも成長しているのですか」

「はい、恐らくは」


 測っていないけど、Tカップ?Uカップ?位はあるんじゃないの。スポブラで抑えるのがやっとだし、それだってもう既にハミ乳をしている。歩くことはできても飛んだり走ったりは厳しそうだし、水泳なんかもってのほかだろう……あ、胸のせいで沈むことはないかも。


「そうですか。さすがにこれ以上大きくなると手術で脂肪を取った方が良いかも知れませんね。あと十センチ増えたら真剣に考えましょう」


 淡々と怖いことを言っている。


「でも…そうか、そういう可能性もあるか」


 ブツブツ言いながらビーカーを用意して、私の乳首をそこにあてがった。


「ちょっと我慢してね」


 軽く力を入れられたら、あ~ら不思議、大量の母乳がビーカーに溜まっていく。まるで蛇口の栓を解放したごとく勢い良く放出されている。それと同時に肩が軽くなっていく感覚がある。

 でも子供を産まないと母乳って出ないものでしょ、どうして。


「エルフになってカラダが変わったからかな。普通は子供を産んでいないと滲む程度にしか出ないんだけどね」

「あの~、胸が膨れているのは全部母乳が溜まっているということですか」

「そればかりじゃないだろうけど、かなりの部分はそうかな」


 エルフの女性ってそういうものなのだろうか。だとしたらカラダの負担が凄く大きいはずだけど。


「そろそろおしまいかな」


 一リットル近くは優に溜まっている。それでもバストの形崩れがないのが凄い。

もう片方からも同じように母乳が絞られていく。先程と同じくらいの量が溜まる。


「ふむ」


 そう言いながら、先生がペロリと乳を舐めると「濃い」と言った。

 自分でも舐めてみたけど、あまり美味しいとは思わない。牛乳よりも濃厚に感じるけど、人肌の温度だからか妙な臭みを感じる。


「これを低温殺菌して、母乳の出が悪いお母さんにあげてもいいかな」


 勿論異存はない。自分で飲む気もないし、悠生や先輩に飲んでもらいたいとも思わない。

 悠生相手なら私の身体から直接飲んで欲しい。


「お尻も大きくなってるよね。ここは問題ないけど…」

「尻尾ですよね」

「うん、ここに神経が集中してるね。ここは男も女も一緒みたいだ」


 悠生もそうなっているのか。だとしたら先輩にされたみたいに尻尾を攻めれば気持ちが良いのだろうか。いや、そんなことをしたら彼はすぐに意識を失ってしまう。

 やはり悠生とはもうスキンシップが取れないのだろうか。


「あなたは彼と違って普通に生活していて意識を失うこともないだろうから、とりあえずはこのままで生活してみて下さい。問題があればいつでも私達に連絡を頂ければ対応します」


 最後に大事なことを訊いた。


「いつになったら元の身体に戻りますか」

「正直わからないです。男性の方にも申し上げましたが、未知の薬の効果なので明日なのか一週間なのか。それとも一年か。ただ、あなたの方が男性よりも貧血などの危険は少ないと思います。ですから経過観察をきちんとしながら、今までどおり身体を動かすようにしていれば大きな問題はないと思います」


 結局、元に戻るのかどうかも怪しいのか。

 恨み辛みを言いたいけど、言ったところで何かが変わるわけじゃない。中学生からの短い間だったけど、悠生とも色々経験できた。

 そして、悠生と一緒にエルフになって……


 身体の繋がりがなくても幸せになれることを証明するのも一つの人生なのかも知れない。


 この数日で私は随分精神年齢が上がったと自分で自覚した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る