第11話 同級生女子の家で勉強会③
柊一が女心の厄介さに頭を抱えていた一方で、風花もまた頭を抱えていた。
(全っ然そういう雰囲気にならない……)
既成事実を作ろうという計画を立てていた風花である。
数日前から、インターネットで『彼といい雰囲気になる方法』だの、『エッチなムードの作り方』だの調べていたのだ。
(カーテンも閉めた。密着した。目も見つめた。映画では、もっとくっついて、胸も当てた。ラブシーンもどきもあったし、ジュースで間接キスも狙った……失敗したけど)
ただただ柊一が紳士なのか。それとも、風花に女子としての魅力がないのか。
そもそも、付き合ってないのがよくないのか。
色々な意見が頭の中で回り出す。
学校の噂では、付き合ってないのに性行為をしたという話をたまに聞く。ありえないことじゃないのだ。
風花は自分の胸に目を落とした。隣では、柊一が国語の勉強に熱中している。ちなみに、柊一の成績を知っていたのは風花のリサーチや休み時間の様子などから編み出した結果である。
風花は、決して胸が小さいわけではない。
一応Dカップはある。
平均はCカップくらいだと言うし、世間的に見れば大きいほうだろう。
スタイルだっていい。
身長はそれほど高いわけではないが、モデルのように服を着こなすし、なんなら下着姿になったほうが映えるまである。
(もっと
風花の頭に浮かぶのは、友達の姿だ。推定Fカップ以上。彼女の胸は制服を押し上げ、ボタンが今にもはち切れそうだった。いや、背伸びをしたらいくつかボタンが外れていた。
彼女みたいに色気と暴力的なスタイルがあれば、この作戦も成功していただろうか……
(いや、もっと小さいのが好きな可能性も……!)
考えれば考えるほど分からなくなる。
せめて彼の性癖が知れたらどうにかでき……そうにはないけど、また違う作戦が立てれるのに。
風花は本格的に悩みだした。
もうこの際はっきり言った方がいいのだろうか。でもそしたら、気持ち悪がられる可能性もある。
何より『今からセックスしましょう!』と、オブラートに包んだとしても言うような女子は、絶対に正気だと思ってもらえない。あと恥ずかしい。
風花はアイドルをしていたせいか、今まで男性との関わりはあまりなかった。男女の交際について知識としては知っていたものの、その知識は乏しかった。同じグループのうち1人が謎に知識が豊富で何度も聞かされていたものの、欠片も興味がなかったから、ほとんど覚えていない。それを後悔しはじめたのは、柊一のことを好きになってからである。
柊一を好きになってから彼女は、恋愛に関することはなんでも調べあげていた。しかし、所詮はネット上の話。
実際口にしようとすると、恥ずかしすぎて言えない。おそらく直接的な誘惑も無理である。
風花は悶々とする。もう手は尽くした。
貴重な機会ではあったけど、今回は見送るか、まだ挑戦してみるか。
付き合えたら問題ないのに。柊一と風花はそこまで仲良くない。だからこそ抜け駆けされないためのこの作戦だった。今のところほぼ確実に彼女がいないみたいで安心だったけど、この先どうなるかは分からない。
友達になってしまったら、彼女になれる気もしない。でも、距離も詰めたい。
誘惑が足りないような気もするが、もうこれ以上は思いつかない。風花は諦めて、ただ隣にいる柊一の肩を叩いた。
☆
「ここ、分からない」
「ん? どれ?」
残り30分ほど。あまりにあっという間で、自分でも実感がない。
泡羽に肩を叩かれ、隣のノートを見る。自分の勉強に集中しすぎていたようだ。
「ここ。えりこの気持ちのとこ」
「あっ、そこか。えりこのやつは、げんたの発言を受けての内容だから……」
「悲しい?」
「そう。それにプラスして、状況説明したらいけると思うよ」
「ありがとう」
相変わらず泡羽は飲み込みが早い。かつ、するする解いていく。ほんとに赤点近いなんて嘘みたいだ。
「じゃあ、俺帰るね」
「うん。今日はありがとう」
30分も簡単に経過して、気づけば5時になっていた。
荷物をまとめ、玄関まで行く。
今日はだいぶ勉強できた。
泡羽の赤点も回避される……はずだ。
玄関の扉に手をかけたとき、泡羽にそっと手を握られた。
「ね、ねぇ。春野くん」
「なに?」
「今日初めの方に、春野くんと仲良くなりたいって言った」
「うん。言ってたけど……」
「あれ、本気だから」
「え?」
「春野くん。もっと仲良くなろう」
これは友達になりたい、ということだろうか。
俺は高校で、友達を作るつもりはなかった。
中学時代のことがトラウマで、しばらく人と関わりたくないのと、人と関わらなければ問題に巻き込まれることもないからだ。
だけど。
だけど、泡羽は優しい。
たぶんだけど泡羽は人を傷つけないような人で、それに波長も合う。
何より、こんな俺と友達になりたいなんてありがたいお願いをしてくれているのに……断るわけにはいかない。
「ありがとう。仲良くなろう」
こくり、と泡羽は頷いた。
「じゃあ、バイバイ。今日はありがとう」
「うん。バイバイ」
手を振って、歩き出す。
途中はどうなることかと思ったけど、本当に距離を詰めたかっただけなのか。それを異性だからどうとか言われたら、たしかに怒るよな。彼女がいなくて良かったって言うのも、彼女がいるときの女友達ってややこしいからか。なるほど。
大きく伸びをすると、首が鳴った。
もうすぐ夏休みだ。
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