第10話 同級生女子の家で勉強会②
あれからは何事もなく、問題を解き進めている。
マジで何もないから、さっきのことも勘違いだったのかもしれない。まぁ、普通に考えてあんな美人がそういう意味で良かった、なんて言うはずないよな。
最初は数学、それから化学。これだけで2時間弱。今から一旦休憩を挟んで、国語をやるつもりだ。
「やっぱ2時間ぶっ通しでやると疲れるな」
「そうだね」
泡羽が机に突っ伏した。
ぐでん、と伸びた腕から疲労感が伝わってくる。
しばらくそうして脱力したあとに、急に泡羽は顔を上げた。
「クッキー焼いたの。持ってくる」
「えっ、マジ? すごいな」
「料理は得意なの」
泡羽が立ち上がる。トタトタと階段を下がる音が聞こえて、しばらくしてまた上がってきた。その手には、クッキーの入ったお皿がある。
プレーンのクッキーと、チョコレートクッキー。あとはクマやリボンが描かれた、アイシングクッキーが乗っていた。
「食べよう」
「うん。ありがとう。いただきます」
「いただきます」
2人で手を合わせる。
まずは普通のクッキーに手を伸ばすと、泡羽はアイシングクッキーを手に取った。
「めっちゃうまいな。これ。こんなうまいクッキー食べたことない」
「そうかな……ありがとう」
クッキーはサクサクの食感で、なのに少ししっとりしている。巷でよく見る表現しか出てこないけど、お店の味に引けを取らないほど絶品だった。
ほのかな甘さが勉強で疲れた体に染み渡る。
そうやって頭の疲れが取れてきたところで、しばらく疑問に思っていたことが、ふと頭に浮かんだ。
「そういや泡羽はさ、なんで俺が頭いいと思ったの?」
「……え?」
「あっほら、前に言ってたじゃん。頭いいから勉強教えてほしいって……」
「あれは……なんとなく……それに、頼れる人、いなかったから」
「そっか」
そう。あのときの会話をしばらくしてから思い出して、不思議に思っていたのだ。うちの学校に、テストの順位を張り出す制度はない。かつ、俺は誰にも自分の成績を話したことがない。
だから、泡羽は確実に俺の成績を知らないはずなのだ。
泡羽は女子の友達がいるだろうし、俺の成績が悪い可能性も十分ある。なのに、なんで頼んできたんだろうって。しかも、頭がいいというような内容まで付け加えて。
でも、適当だったのか。なら良かった。もし成績が漏洩されてるのかな……なんて思ったら、ちょっと怖かったから。
「映画、見よう」
「あっ、そういえば言ってたな。どんな話?」
「お化けの話」
「ホラーかぁ」
勉強の休憩で見るにはまた奇抜なものを……
泡羽が近くに置いてあったタブレットを起動する。
動画配信サービスのボタンを押し、マイリストから探し当てた。
「これなの」
動画が始まった。
どうやら高校生同士の話らしい。女子が男子に片思いをしている、というのが示唆されたところから始まる。2人は無意識に心霊スポットに行ってしまったことから怪奇現象に悩まされることになり、しかし、それがいい感じにスパイスになって、2人は晴れてゴールイン。ついでに幽霊の正体も明かされて、怪奇現象も解決した。
よくあるようなないような話だけど、出てくる妖怪みたいなのが結構怖いし、しかも急に出てくるから心臓に悪い。あと、幽霊の過去の話の部分で、なぜかラブシーンもどきが出てきた。気まずい。
泡羽は何かが出てくるたび、より密着してきた。腕にしがみついているから、完全に
「けっこう怖かったな」
「うん。怖かった」
映画が終わって、ほっと一息つく。
終わったタイミングでクッキーを口に運ぶと、なんだか安心した。現実に戻ってきた感じがする。
泡羽も隣で同じようにクッキーを食べていた。
「これ、飲んでみてもいい?」
「あ、うん。いいけど」
指をさされたのは、俺のジュース。
元々2種類あって、俺がオレンジジュース、泡羽がブドウジュースを選んでいた。まだ中身は半分くらい残っている。分かる。このくらいの量だと味変したくなるときあるよな。
ストローを外して泡羽に渡す。
「……なんでストロー外したの?」
「嫌かなぁ、と思って」
「嫌じゃない」
「そ、そっか」
食い気味に否定された。
でもこのまま飲んだら、間接キス……とかそういうのになるよな。友達同士なら飲み回しっていうので済むけど、男女同士になるとどうなんだ? てか、そもそも泡羽って友達なんだろうか……
泡羽は不服そうな顔をしたまま、ジュースを飲んだ。
「春野くんって、なんで何もしないの……」
「えっ、何が?」
「なんでもない」
泡羽は不服そうな顔のままだ。拗ねたのか、なんなのか。
女子の気持ちって全く分からん。
残り1時間ちょっと。ちゃんと乗り切れるのだろうか。
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