第41話
あれから三日が経ったが、レオンの容態はあまりよくないらしい。
面会もできない状態が続いるが、学園を休んでエリカだけが特別に看病していると人伝で聞いた。
「昨日も出たって、赤い目の通り魔」
「怖いよね……」
どこから広がったのか、通り魔は赤い目をしているという情報が新聞にも載り、噂は一気に広がった。
赤い目をした人物など滅多にいない。この学園では、アメリア一人だ。
そのせいか、ここ最近、一部の生徒たちからは、怯えるような目を向けられるようになってしまった。
「アメリアさん、一緒にお昼食べよ?」
だが友人たちは、変わらず接してくれる。
アメリアのことを心配し、さりげなく元気付けてくれる。彼女たちのそんな優しさに、アメリアは救われていた。
だから陰口を言ってくる生徒たちの前でも、俯くことなくいれたのだけれど。
「アメリア・ガーディナーだな。話がある。学園には許可を得ている。来てもらおうか」
友人たちとランチをとっていた昼休み、騎士院で取り調べを受けるようにと迎えがやってきて、やはりアメリアが犯人だったという噂は、一気に学園中へと広まってしまったのだった。
◇◇◇
「きゃ、赤い目……あの子が噂の……」
「やだ、捕まったんじゃなかったの? なんで登校してきてるの?」
次の日、学園に登校すると、風当たりはますます冷たくなっていた。
結局、昨日の取り調べでは、夜のアリバイを確認されたり、魔女として処刑された母親のことを聞かれたりしたが、決定的な証拠はなにもないので、証拠不十分として釈放された。
デールが迎えに来てくれたのも大きかったかもしれない。
デールにまで迷惑を掛けてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいになったが、デールは気にすることはないと言ってくれた。アメリアの目は魔女の目じゃないと、自分は知っているよと。
「アメリアさん、おはよ~。昨日は大変だったね」
「大丈夫だった?」
「うん、心配してくれてありがとう」
教室に着くと、いつものように友人たちが話し掛けてくれた。
全員に犯人だと疑われているわけじゃない。
そのことが心の支えでもあったけれど、自分といることで、優しいこの子たちも白い目で見られるようになるのではと思うと怖かった。だから……。
その日の昼休みから、アメリアは以前のように、一人で人気のない階段に座り、お昼を食べることにした。
突然避けるようなことをしたら、あの子達を戸惑わせてしまうだろうか。けれど、自分のせいで魔女の仲間だと疑われたりしたらと思うと……。
今まで友達のいなかったアメリアは、こんな時どんな風に対応したら良いのかわからなかった。こんな時こそ、社交的で友人も多いレオンなら、良いアドバイスをくれたかもしれない。でも、唯一頼れる彼は、今いない。
「レオン、会いたいよ……」
まだレオンは目覚めていないのだろうか。命に別状はないと聞いていても、不安になる。
噂では、今朝エリカが登校してきたらしい。なにか動きがあったのかもしれないけれど、さすがに彼女へ直接聞きに行くことはできない。
自分はどうしたら良いのだろう。このまま、黙って事件が解決するのを、待つしかないのか。
でも、もし疑いが晴れることなく犯人扱いされ続け、捕まってしまったら……。
過去のように、魔女狩りに遭って目を抉られそうになったらと思うと、恐怖で指先が震えた。
(大丈夫、大丈夫……だって、わたし、なにもしてないもの)
そう自分に言い聞かせ、ぎゅっと自分の震える手を抑えて恐怖心に耐える。
けれど、その日の放課後に、再びやってきた教会の人間から自宅謹慎を言い渡され、アメリアは暫く学園に通うことも許されず、寮の部屋で大人しくしているしかなくなってしまったのだった。
謹慎を言い渡され四日目。
元々、レオンに引きこもりと言われていた程インドアなアメリアなので、部屋に籠り続けること事態には、なんの苦もなかった。
けれど、自室のドアの前には常に、教会から派遣されている見張りが二名付けられ、監視されている。常にその気配を感じ、正直息苦しさを覚える。
それでも、自分にやましいことはなにもないのだから、こうして見張ってもらうことでそれを証明できたら、きっとすぐに誤解は解けるとアメリアは信じた。
そして五日目の朝、部屋に見張りとは違う訪問者がやってきた。
ようやく誤解が解けたのかと、アメリアは部屋のドアを開けたのだが……。
「おはようございます」
「エリカさん……」
やってきたのはエリカだった。後ろには、聖騎士も引き連れている。
「残念だわ、アメリアさん。やっぱり、あなたが一連の事件の犯人だったのね」
「え……」
なにを言っているのかとアメリアは戸惑いを浮かべた。
だって自分はここ数日、この部屋から一歩も出ていないのだから。けれど。
「あなたに監視がついた夜から、連日起きていた通り魔事件がぱたりと止んだの」
だからといって、アメリアが犯人だという物的証拠にはならないはずだ。
そう思っていても、アメリアは不安になった。
「明日、教会は、あなたを審判にかけるため、魔女裁判が行われます。証言台には、目撃者であるあたしエリカと、被害者であり唯一の生き残りであるレオンが立つ予定よ」
動揺をみせてはいけない。そう思いながらも、アメリアは僅かに震える。
「レオン、意識が戻ったんですか?」
色々言いたいことはあったけれど、最初に口をついて出た言葉はそれだった。
「ええ、あたしが付きっきりで看病したおかげだって。すごく感謝してくれて……あたしだけじゃ心配だから、証言台に自分も立つって言ってくれたの」
エリカは、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「もう、レオンはあなたの言いなりにはならないわ」
どういうことだろう。もし今回の件があって、ずっと看病してくれたエリカに、レオンが心変わりをしてしまったなら……そんな不安と、自分を好きだと言ってくれたレオンの気持ちを、少しでも疑ってしまった自分が嫌になり、アメリアは俯く。
ああ、結局自分の内面は、昔となにも変われていなかったのだなと幻滅した。
「明日まで、大人しくしていなさい。では、ごきげんよう」
エリカが部屋を出ていく最後まで、アメリアはなにも言い返すこともできず、黙り込むだけだった。
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