第23話

「オマエ、なんでこんなところに?」

「な、なんでって、招待されたから……」

 仕方なく。という言葉は、せっかく招いてくださった人に失礼なので、飲み込んだ。


「だからって、あの社交界嫌いのアメリアが?」

「王族からの招待だし……断ったら、デール様に迷惑が掛かると思って」

「……オマエ、賢者様のお願いなら、こういう場にも顔を出すのな」

 レオンは、なにか言いたげなじと目で見てきた。


「な、なに?」

「別に……で、その賢者様はどこにいるんだよ。オレも、せっかくだから、挨拶させてもらおうかな。いつもアメリアが、お世話になってますって」


 どうやらレオンは、アメリアが今日、デールと一緒にこの会場へやってきたと、思い込んでいるらしい。


「あ、違うの、わたし」

 今日は、カインという錬金術師と来たのだと説明しようと思ったのだが、その前にアメリアの声を遮り、誰かが割り込んできた。


「ちょっと、レオン! あたしを一人にして、いつまで油を売ってる気?」

 現れた可憐なご令嬢の姿を見た途端、ずんとアメリアの気分が重くなる。


 そうだ、レオンは週末にエリカとパーティーに出る予定と聞いていたのだから、彼がいるということは、彼女もいるに決まっているのに……。


「オマエが知り合いを見つけたっていうから、気を遣って二人きりにしてやったんだろ」

「も~、あたしは彼女にもレオンのこと紹介したかったの! あら、アメリアさん?」

 やっとこちらの存在に気付いたエリカが、驚いている。


「ど、どうも……」

「あなたも招待されてたなんて。一体どなたとご一緒に来たの?」

 パートナーと思しき男性の姿が近くにないため、エリカが不思議そうに首をかしげた。


 その時だった。


「アメリア君、突然姿を消されては困るよ」

 ちょうど良いタイミングで、アメリアを探しに来たカインが現れた。

「あ、この方がわたしのパートナーになってくださった、カインさんです」


「まあ!」

「は?」


 目を輝かせるエリカと、明らかに表情が険しくなったレオンに「やあ、どうも」と一言だけ挨拶をすると、カインは慌てた様子で、すぐにアメリアの背を押し会場へと連れて行く。


「王族の方が、君と話がしたいと言っているんだ。急いで会場へ」

「え、は、はい!」


 待たせるわけには行かないと、慌ててアメリアもバルコニーを後にしたのだった。



◇◇◇



「きゃあ、今の見たレオン! とってもお似合い!」


 はしゃぐような声を出すエリカに返事をすることなく、レオンは無言で人混みの中へ紛れ消えて行く二人の背中を見つめている。


「レオン? レオンってば!」

「……なんだよ」

「だから、お似合いだねって! アメリアさんとあの男性!」


「どこが?」

「え?」

 エリカがお似合いお似合いと連呼する意味が分からない。


 言いたいことは山ほどあるが、まず客観的に見て、服装だけでなく髪型までピシッと整え、容姿に気を使っているカインと、慣れないドレスを着こなせておらず、その上野暮ったい髪型で顔を隠し俯くばかりのアメリアの、どこがお似合いに見えると言うのか。


「あれじゃ、誰がどう見ても、アメリアはあの男に華をもたせる引き立て役だろ」


 自分なら、アメリアの可愛らしさや聡明さが、ちゃんと引き立つようにドレスを選んで、エスコートしてやるのに。そんな悔しさを滲ませてレオンは呟いた。


「やだぁ、そんなこと言ったらアメリアさんがかわいそうよ」

 エリカはそう言いながらも、クスクスと笑い出す。本当は釣り合いが取れていないと、エリカだって内心思っていたのがバレバレだ。


「それに年だって……離れてるようだし」

 あり得ないと騒ぐほどではないだろうが、一回りは男性のほうが年上に見える。


「あたしは素敵だと思うな〜。ほら、アメリアさんってちょっと……内気でしょ? 同世代の子たちとは、上手くやれてないんだし、あれぐらい年上の男性の方が、リードしてくれて合うと思う」


 レオンは、饒舌に話すエリカに内心ムッとした。

 アメリアのこと、なにも知らないくせに知ったようなことを言うなと。


「勝手に囃し立てるなよ。パーティーに同伴しているからって、必ずしも恋仲ってわけじゃないだろ」

 オレたちだってそうなんだから。そう言おうとしたレオンに気づかず、エリカが言葉を被せる。


「人付き合いをしないアメリアさんが、同伴を頼めるような間柄の男性よ! 今、一番親しい人と思って間違いないと思うんだけど?」


 自信満々にそう言われ、レオンは先程から一番考えないようにしていた現実を、突きつけられたような気持ちになった。


 そうなのだ。自分はアメリアに、パートナーの件で声を掛けてもらえなかった。

 この社交界に招待されていたことすら、教えてもらえていなかった。


 こういう時、アメリアが一番に頼ってくれる存在は、自分しかいないと思っていたのに……。


 内心ショックで、なにも言えなくなっていたレオンの様子に気づかず、エリカは「あの二人を応援する!」と張り切り出す。


「やめろよ、余計なことするな」

「余計なことじゃないわ。もし、アメリアさんが本気であの男性を思っているなら、レオンだって応援したいって思うでしょ?」


「それは……」

「思わないわけないわよね。だって、幼馴染みなんだから。さあ、行きましょ」


 こうなるとエリカは、自分が納得するまできかないだろう。彼女はそういう性格なのだ。


 レオンはなんとも言えない気持ちになりながらも、エリカに続いてアメリアたちの元へと向かった。


 だが、応援なんてとんでもない。なんとしても阻止しなければと内心ヤキモキしながら。

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