第20話
「はぁ……」
今日の放課後は、久しぶりにレオンとゆっくりと過ごせる予定なのに、アメリアは浮かない顔で溜息を零した。
昨日、デールから、来週末に行われる王族主催の、社交界への参加を命じられてしまったのだ。
今までは、人前に出るのが苦手だと言うアメリアの気持ちをくんで、そういった話は極力避けてくれていたようだが、さすがのデールも王族からの招待を、足蹴にはできなかったのだろう。仕方ない。
パートナーは、アメリアが選んで良いと言われたけれど、自分とパーティーに参加してくれる、奇特な男性などなかなか見つからないだろうことは予測できた。
レオンがパートナーになってくれたなら良いのだけど……。
アメリア自身、今まで何度もレオンには、パーティーの同伴をお願いされ断ってきた。特定の相手がいなかったレオンは、その度結局は妹と同伴していたが、最近は、エリカとパーティーに参加する機会も増えているようだ。
それなのに、今更自分が困っているからと、お願いしても良いのだろうか。
でもレオンなら、了承してくれるんじゃないかと、そんな気もする。
どちらにしても、自分には他に誘える相手がいないのだから、ダメ元でも声を掛けてみるしかない。
そう決意したアメリアは、今日の放課後に頼んでみようと腹を括った……のだが。
「アメリアさん、こんにちは!」
「図書館で大きな声を出すなよ」
「あ、そうだったわね。ごめんなさい」
レオンに注意され、ペロッと小さな舌を出してリアクションするエリカの姿に、アメリアは固まってしまった。
「ごめんな、アメリア。今日は、コイツがどうしても一緒に勉強するってきかなくて」
「ちょっと、なにその言い方。まるであたしが無理矢理ついてきたみたいに」
「違うのかよ」
「偶然よ! たまたま図書館に用事があって来たらあんたがいて、アメリアさんを待ってるっていうから」
いつものように軽口を言い合う二人を、立ち尽くすようにしてアメリアは見ていた。
誰にも邪魔されない二人だけの特別な場所だったのに。ついにエリカに侵略されたような気持ちがした。
「あ、ほら。そんなところに立ってないで、アメリアさんも座って?」
いつもアメリアが座っているレオンの隣の席に、当たり前のように鎮座して、エリカはアメリアへ向かいの席に座るよう促す。
悪気のなさそうな笑顔で。
微かな苛立ちを覚えながらも、アメリアは黙って向かいの席へ腰を下ろした。
チラッとレオンの顔を伺ってみると、申し訳なさそうに「ごめんな」と口パクで伝えてきたので、アメリアは不満を表情に出さぬよう、気にしないでと首を横に振って伝えたのだった。
その後は、三人とも黙って各々の作業に集中して過ごした。
エリカも、自分の調べものがあって図書館に来たというのは本当だったようで、ここでしか読めない聖女の文献などに目を通している。
そして、夕暮れ時まで勉強をし続け、エリカが「疲れた〜」と大きく伸びをした頃、閉館のベルが鳴りその日の勉強会は終わったのだった。
「ねえ、この後どうする? 外で食べてから帰らない?」
「「えっ」」
図書館を出てすぐエリカからの提案に、アメリアとレオンは目を泳がせる。
「学園近くに美味しいごはん屋さんがあるの。たまには食べていくのもいいでしょ」
断るにしても、二人してこれから用事があるなんて言うのは、不自然な気がして言いづらい。
レオンも同じ気持ちなのか、ちらっとアメリアに視線を送ってきた。
「どうする?」っと言いたげに。
「なによ、もしかしてこんな時間から、なにか予定入れてるの?」
エリカに訝しげな顔をされ、ますます二人して用事があるとは言いづらい。
それに、エリカに嘘をついて別れ、その後二人だけで夕食を取るというのも、罪悪感が芽生えモヤモヤしそうだ。
二人で食べに行くのはまた今度にしよう、と彼にだけ分かるよう合図を送ると、レオンは少しだけ不満げな表情を浮かべながらも、アメリアの気持ちを汲み取り頷いてくれた。
「分かったよ。じゃあ、今日はエリカオススメの店で食って帰るか」
「そうこなくっちゃ!」
エリカの表情が嬉しそうに華やぐ。
「そうそう、今日キャサリンも、クルトとそこでデートだって言ってたの。二人がいたら冷かしてやりましょう」
「それはそっとしといてやれよ」
あの二人が付き合うことになるとはね、などと二人は話しだしたので、なにも知らないアメリアだけ話についていけず黙り込む。
どうやらその店には、二人のクラスメイトもいるかもしれないらしい。
二人のノリを見るに親しい間柄なのだろう。きっと見つけたら、皆で食べようという話になる。
そしたら、自分だけまた話についていけず、蚊帳の外になるのが目に見えていた。今でもエリカが話し出すとそうなるのに。
「アメリアも来るよな。アイツらにも、オマエのこと紹介したいし」
紹介って、レオンは自分のことを、なんと紹介する気でいるのだろう。
また変なふうに話が広がり、レオンが魔女の娘と一緒にいたなどと、噂されたらいやだ。
「……わたしは、研究所に用事があるからいけない」
「え、そう? なら仕方ないわね」
エリカはあっさり受け入れてくれたけれど、レオンは、またなにか言いたげな目でこちらを見てきたので、アメリアは居心地悪そうに視線を逸した。
だが、これから二人が行く店と、王立研究所は同じ通りにあるらしく、結局途中までは三人で移動することになってしまった。
(パーティーのお願い、今日のうちに、レオンにしようと思ってたのにどうしよう……)
とても今言える雰囲気ではなく、アメリアはこっそりとため息をついたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます