6話 巫女_2

 彼女の話は確かに面白くなかった。いや、仕方が無いのだ。都会と比較すれば何もないこんなド田舎にそうそう面白い話が転がっている筈も無く、ある事と言えば○○家の誰それが亡くなったとか、後は神社で行われる祭事の話とか稀に通る車が事故を起こしたりとか、とにかくありきたりで何処にでもある話だった。


 確かに退屈だろうなと思う。特に彼女……アキは相当に若い。直に年齢を聞いた訳ではないが、恐らく20歳前後と言ったところだろうか。そんな若い身空で片田舎の神社に縛られていれば刺激を求めるのは必然で、だから周囲をウロウロと鬼がうろつくこの状況で俺に話をしろというのも頷ける。が、そこまで考えたところでふと違和感が頭を過った。


「あのさ。鬼がその辺をウロウロするってのは退屈な出来事なのか?俺の感性からすれば大分常識からズレているんだけどな。」


 この状況はどう考えても日常からとびぬけた出来事だと思うと、そう聞いてみた。


「ウフフ。都会では殺人とか強盗とか物騒な事件が多くて、でも皆様そんな状況に慣れてしまって左程驚かないでしょう?それと同じですよ。私の生活にとって鬼はごく自然な、当たり前に見る存在に過ぎません。ですから驚きはありませんよ。」

「取って食われちまうぞ?」

「ウフフ。大丈夫ですよ。彼女はそんなことしませんよ。精々誰かを驚かすのが関の山。」

「なら俺が追いかけられたのも?」

「さぁ。どうでしょうね。コレばかりは当人に聞いてみない事には、ね?」


 屈託なく笑いながらアキは俺の質問に答えた。だが、俺にはそう思えなかった。アレは脅しか?どう考えても殺意か執念か、とにかくソレに近い何かを感じたのだが。しかしそんな鬼を常日頃から見てきた彼女が言うのだから信じるしかないだろう。


「じゃあ、次はアナタの番。」


 不意に耳元から声が聞こえてきた。ギョッと意識を戻せば目の前には白い何か、ソレが白衣はくえと気づくのに少し時間が掛かった俺が次に見たのは耳元付近にある真っ赤な唇。何時の間にか俺の目の前に座るアキが身を乗り出し俺の耳元で囁いていた。彼女の顔を見れば相も変わらず微笑んでおり、視線を僅かに下げれば白衣の隙間から零れ落ちそうな胸の膨らみがチラチラと覗く。


 が、そんな事よりも俺はその表情に微かな違和感を覚えた。何か違う。先程までの清楚さとは違う、ドロドロとした何かがその笑顔の裏に隠れている。ソレは本能的な何か、抗いがたい何かを必死で抑え込んでいる様な、そんな風に見えた。それなのに、耳元で囁く彼女の声は俺の中に生まれた違和感や疑問を容易くかした。

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