5話 巫女
興味はあるが、一方で信じ難いというのが正直な感想だった。科学がはるか遠い宇宙を観測して、原子量子の振る舞いを解析して、あらゆる物事を科学的に証明した時代に鬼の存在を聞かされても困惑するしかないじゃないか。だけど目の前の女は当たり前、ごく自然に、それはもう”今日は良い天気ですね”位のレベルで話すものだから呆気に取られるしかない。
一方で、神社は鬼を寄せ付けない結界だという。より正確には"良くない気"とか"
科学的なように思える一方で説明を聞き終わればどう考えてもオカルト過ぎる話だが、しかし目の前の現象は女の説明が正しいと証明している。
鬼の面を被った女はどう見ても視界に入っているだろうとしか思えない質素な神社に座る俺達を認識できず、相も変わらずその周辺をウロウロとしているばかり。ならば深く考えるのはやめだ。現に助かっているのだから信じる他に道は無いし、それにこういった事象もその内に科学が明らかにするだろう。
「落ち着きました?」
透き通った声が俺に語り掛けた。何というか、とても綺麗な声だ。脳を揺さぶる様な、
「どうされました?」
「あ、あぁ。お陰様で。」
「ウフフ。では夜明けまで暫くお話ししましょうか?」
「夜明け?」
「はい。悪気は恒星の光に弱いのです。つまり、神社や寺社に展開される結界は恒星の光と同じ波長を持つんですよ。」
「成程。つまりアマテラスオオカミ様様ってことですかね?」
「まぁそんなところです。その夜明けまではまだ時間がありますから、良ければアナタのお話を聞かせてもらえませんか?」
「オレ?いいけどさ。あんまりおもしろくないよ?」
「こんな片田舎では面白いことなんてありませんから、ですからお気になさらず。」
女は相も変わらず微笑みながら俺に話をしろと促す。悪い気はしなかった。周囲の光源と言えば周囲に等間隔で配置された5個の
「どうなさいました?」
「い、いや。何でもない。」
どうしてだか妙に気になってしまう。こんな状況だからだろうか、特に口元に引かれた口紅の真っ赤な色に自然と引き寄せられる。血の様に真っ赤な……
「ウフフ。こんな状況でお話といっても中々難しいですよね?」
「あ、あぁ。じゃあ……その、君から何か話してよ。」
「
「は?」
「私のことはアキと呼んでください。」
「じゃあ……アキさん。お願いします。」
俺が渋々その名前を呼べば、彼女は満面の笑みを向けてくれた。その笑顔を見るとどうにも調子が狂ってしまう。屈託のない、悪気の一切ない、表裏の無い笑顔はとても眩しく、同時に魅力的だった。
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