2話 帰郷_2

「じゃあ出かけてくるわ。」

「こんな夜中に?」

「趣味だよ。仕事柄、身体動かさないからこうしてないと直ぐに太るんだ。」

「はー。分かったけど、あんた……覚えてるわよね?」

「何が?」


 素っ頓狂な返事を返した俺に母は怪訝そうな表情を浮かべながら、ため息交じりに話し始めた。


「ここからずっと直線で1キロほど北に進んだ場所にある下り坂だけは絶対にいっちゃダメだからね。」

「何でさ?」

「夜に鬼追坂おにおいざかを下っちゃダメって昔から散々言ってるでしょ。忘れたの?」

「ガキの頃の話だろ?いい加減忘れもするさ。それにそんなの迷信だって。結構な急勾配だから気を付けろって話に尾ひれがついただけだよ。」


 理路整然に俺がそう言うと、母は呆れた表情を浮かべた。でも実際にそういうものだ。御伽噺や昔話、それに怪談といった類が真実かどうか定かではないが、その多くが注意啓もうを目的としているなんていうのは民俗学者が良く説明してくれた話だ。


 金になるというたったそれだけの理由で神話から各種伝承から御伽噺に至るまでを擬人化してガチャにぶち込んでギャンブル中毒者から金を巻き上げる仕事をしていれば嫌でも詳しくなる。時々、もっとクリエイティブな仕事がしたくなるが……まぁそれはどうでもいい。だから、鬼追坂おにおいざかも同じだろ。俺はそう高を括ると、背中から聞こえる母の説教を聞き流しながら自転車に乗って夜道へと漕ぎ出した。

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