第17話 哀しい記憶
俺と正路は、何か記憶につながるものはないか探し回った。
正路つまり悠太につながる物が、不思議と何もない?なぜなんだ!
聡太のものなら、学生時代のノートから教科書や参考書まであるのに…
机の1番下の引き出しに手をかけると、鍵がかかっていた。
「正路…鍵がどこにあるかなんてわからないよな…」
「そうですね…」
そう言いながら、先ほどの写真を見つめていた正路は、急に何かを思いついたように、写真立てを開けて中身取り出した。
すると写真の間から鍵が落ちた。
「これじゃないか?」
俺は鍵を手に取った。
2人で急いで、鍵を開けてみた。
「開いた!」
俺たちは顔を見合わせた。
中身を確認する正路の横顔を見つめながら、俺は、
「どうしてわかった?」
そう言った。記憶が雪崩のように起きて、思い出しているのではないかと期待した。
正路は視線はそのままで、手を止めずに、引き出しの中のものを弄っていた。
「勘…ですね。俺のものが全くないのに、写真を飾ってるってことは大事なのものなんじゃないかと思って。」
「これ…」
正路が、茶色の皮表紙のノートを取り出した。
「これ…聡太の日記じゃないか?…」
2人で顔を寄せ合い、読み進めて行くと、いろいろな事が書かれていた。
******
7月10日
今日、隣のクラスの女の子に告白された。
高校の学祭で、新一年生ながらミスコンで入賞した子らしい。そんな事はどうでもいいんだけど、俺をどうやら悠太と間違えたらしい。
「悠太を呼んでこようか?」
「大丈夫よ。私はクールな悠太くんの方がタイプだけど、ジェントルマンで有名な聡太くんでもいいわ。顔はおんなじなんだから…私たち美男美女で、お似合いだと思うの。付き合いましょうよ。」と言われた。
なんだよ、それ。
俺たちをバカにするのにも程がある。
外見だけの問題か?
双子だからと言ったって、俺たちは別々の人間だ。それぞれに人格もある。
「彼氏の見分けもつかない彼女なんて、お断りだよ。」
彼女は真っ赤になって怒っていた。
******
9月13日
今日は、久しぶりに栞と悠太と3人で映画に行った。
栞とは高校が違ってから、なかなか会えないでいた。
女子校だから、男ができる心配はなさそうだけど、ますます綺麗になっていく栞に、俺はドキドキした。
いつまでも仲のいい幼馴染の3人でいたい気もするが、俺はもう栞への気持ちを抑えられなくなっていた。
栞の気持ちは?
悠太はどう思っているんだろう?
******
大学進学…
まさか悠太と栞が同じ大学になるなんて…
俺も同じ大学に行きたかった。でも、自分の将来の夢を曲げてまで進路を変える事はできなかった。
気持ちが焦る。
早く栞を俺のものにしたい。
俺と離れてる間、ずっと悠太と栞が一緒だなんて、想像しただけで、落ち着かない。
悠太は弟だけど、冷静で落ち着いているから大人っぽく見える。
俺は…兄貴なのに…栞には頼りなく見えるだろうか?
あー、嫉妬で狂いそうだ。
******
俺は時間ができるたびに、悠太を言い訳に栞に会いに行った。
そんな時だった。悠太から一本の電話が入った。
「聡太、悪いけど時間あるか?
栞がサークルの飲み会で飲み過ぎたらしいんだけど、俺バイト入ってて迎えに行けないから…頼めるか?」
絶好のチャンスだと思った。
俺が迎えに行くと、栞は店の前で男たちに絡まれていた。
俺がそこへ割って入った。
「栞!待った?君たちは?俺の彼女になんか用?」
「なんだよー、お前!生意気な口聞きやがってー」
その後、俺はカッコ悪いことに栞の前で、ボコボコにされた。
最後には力尽きて、栞に覆い被さって守ることしかできなかった。
周りが騒ぎを聞きつけて、栞に怪我はなかったけど、情けない話だ。
「こう言う時、悠太ならうまくやるんだろうな…情けない。」
「何言ってんのよ!聡太、私のこと守ってくれたじゃない。それだけで…嬉しい…ありがとう。」
そう言うと、栞の顔が俺に近づいてきた。
あのキスはなんだったんだ?同情?酔っていたせい?
あのキスの意味を聞きたくても、俺はなかなか切り出せずにいた。
******
やったー!やったぞ!
栞が俺の彼女になってくれるって!思い切って告白してみて良かった。
俺はすぐに悠太に報告した。
相変わらずクールな悠太は、
「あっそ。良かったな。聡太が栞を好きな事はバレバレだったからな。」
そう言うと背中を見せて、手をひらひらと振って、部屋を出て行った。
******
それから、しばらくして何故か悠太は家を出て行った。
俺になんの相談もなく、大学の近くで良い部屋を見つけたからと言って。
実家は、単身赴任で父は不在、俺と母の2人だけになってしまった。
いつも一緒だったのに、俺は片割れが居なくなって、寂しかったけど、その気持ちに気づいてか、栞はよく家に遊びにきてくれるようになった。
母も娘ができて嬉しいと言って、よく2人で台所に立っては、食事を作ってくれた。
「悠太ちゃんと食べてるかしら…」
母がポツリと呟いた。
「なんだかゼミが忙しいみたいで、私も全然会えてないんです…じゃあ、このおかず詰めて、悠太くんに届けますよ。大学に行くついでですから…」
心配する母を気遣って、栞はそう言ってくれた。
******
その日の夜、栞の様子がおかしい。悠太を訪ねていってからだ。
俺が部屋を訪ねると、明らかに泣いていたようだ。
目も真っ赤だ。
何を聞いても、口をつぐんだまま。
もしかして…
「悠太となんかあったのか?」
栞の目が潤んだ。
「何があった?」
俺は気持ちを抑えられず、栞を問い詰めた。
「何もないわ。悠太くんとは何もない…ただ…」
「ただ?」
急に栞は作り笑顔を作ると、
「なんか…研究の方が行き詰まってるみたいで…大変そうだった…だから、すごい悠太くんがげっそりしててびっくりしたの…」
俺はその言葉を鵜呑みにした。
痩せ細って思い詰めるほど…悠太が弱っているとは、俺には想像出来なかった。
悠太が?研究が行き詰まってるからって?
そんなやわなやつじゃないはずだ。
******
でも、後になって気づいたんだ。
悠太が苦しんでいたその理由を…
だから、俺は…せこいと言われてもいい。栞との仲を確実なものにしたかったんだ。
「栞!大学を卒業したら、結婚して欲しい。栞を俺だけのものにしたいんだ。」
俺は焦っていたんだ。
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