第6話 告白

そして萌が、登校するようになって数日後、

「ねぇ、沙織ちゃん。うちの萌と一緒じゃない?」

私の携帯に、萌のお母さんから電話がかかってきた。

「え?どう言う事ですか?」

「萌が学校から帰ってこないの。携帯も繋がらないし、どこに行ったかも全く連絡もないし、暗くなってもうちに帰ってこなくて…陽介君のこともあって心配で…。」

「わかりました。みんなに声をかけて、探してみます。お母さんは、家に居てください。何かわかったら連絡しますから。」

そう言うと、友達に声をかけ、学校や放課後よく立ち寄るカフェなどみんなで探し回った。


「どこに行ったんだろう。こんなに探して見つからないなんて…。」

いつのまにか、仲間内で情報が拡散され、野球部員や永島さんも集まって、一緒に萌を探してくれた。


「まさかとは思うけど…」

永島さんがそう言うと、みんなで陽介君の事故現場に向かった。

「萌!」

萌は事故現場に花を手向け、両手を合わせていた。

みんな、とりあえず安堵した様子だった。永島さんは、萌のお母さんに無事を連絡してくれていた。


「萌、みんな心配してるよ。」

「沙織…みんな…ごめん。今まで、怖くてここに来られなかった。どうしても悔やんでも悔やみきれなくて、陽介が手紙を残すために学校に戻ったのなら、事故にあったのは私のせいだ!もっと早く帰ってれば、事故に遭わなかったかもしれない…もっと私が早く陽介に気持ちを伝えてたら…、もしかしたら、まだここに陽介がいるんじゃないかと思って…謝りたいと思って…私…私…」


萌は、その場に崩れるように力なく座り込んだ。

そこにいた野球部員のみんなも、萌に声をかけることもできず、降り始めた雨に濡れながら、その場に立ち尽くしていた。

雨なのか、涙なのか、みんなの頬を流れ落ちた。


   ******


家へ帰ると、無言で母は私を抱きしめた。

リビングのソファに私を座らせると、温かいミルクティーを入れてくれた。

私の側に座ると母はゆっくりと話し始めた。


「…萌。予期せぬ別れでも、わかっていた別れでも、つらいのは同じなの。

残された時間を例え共に過ごせたとしても、あの時こうすればよかったんじゃないか、こう言えばよかったんじゃないかと、必ず後悔するものなの。

その人がもし天寿を全うしたとしても、何とかできたんじゃないかって思うものなの。

悲しさのあまり自分を責めたり、どうするのが最善だったのかわからず迷ったり、でも正解はないの。

だからこそ、悔いを残さないために、日々精一杯、正直に生きる事が大切なのよ。

好きな人には好きって、嬉しい時はありがとうって、悔やまれたなら、ごめんなさいって口に出して言う事が大切なの。」


「私…私…陽介に好きだって言えなかった…ありがとうって言えなかった…伝えたかったのに、伝えることが一番大事だったのに…いつかまた…今度って引き伸ばして…いつでもいいわけじゃなかった…」

そう言って私は号泣した。いつまでも泣き続ける私の背中を、母はいつまでもいつまでもさすってくれた。


その夜、泣き疲れてそのままリビングの

ソファで眠ってしまった。

久しぶりの深い眠りだった。

「萌…萌…」

誰かに優しく肩を揺さぶられた。

「う〜ん、何?」

目をこすりながら開けると、陽介がそこにいた。

「陽介!陽介!」

私は飛びつくように抱きついた。

「やっぱり生きてたんだ!陽介!」

陽介の匂い、温もり、今までと変わらない。私は陽介の胸に顔を埋めた。夢じゃない。本当に陽介だ!

「陽介!聞いて!話したいことがいっぱいあるの。」

「そんなに慌てなくても、ちゃんと聞いてるよ。」

いつもと変わらない笑顔を見て、私は安心した。それでも、2人で手を握り合ったまま離さなかった。また、陽介がどこかへ行ってしまわないように。

そして、私は一息大きく吐くと、ゆっくりと話し始めた…

「…いつもいつも陽介と一緒にいて、たわいもない話をしたり、笑いあってるのが、楽しくて…自分の気持ちを話すのが怖かったり、勇気が必要だったり、真面目に話すのが照れ臭かったり、何となくどこか素直になれなくて…でも、今回のことで私、ちゃんと言わなきゃって気づいたの…

…陽介!私と出会ってくれて、

ありがとう。

いつも一緒にいてくれて、

ありがとう。

私の事、可愛いって言ってくれて

嬉しかった。

中学の時、陽介が入院して1週間も会えなくて、すごい寂しかった。

なのに、陽介!漫画の話ばっかりするから、悲しかったんだよ。」


陽介は黙ったまま、私の頬に手を当てて、優しい笑顔で見つめてくれていた。


「永島さんのこと、誤解して避けたりして

ごめんね。

私の気持ち…なかなか素直に言えなくて

ごめんね…。

私…私…陽介のことが大好き!」

そう言って、陽介の胸に抱きついた。

陽介は優しくギュッと抱きしめ返してくれた。


「萌。」

呼ばれて顔を上げると、2人の目が合った。

「萌…悲しい思いさせて、

ごめんね。

誤解させて、苦しい思いさせて

ごめんね。

俺も萌とずっと一緒にいれて幸せだったよ。

俺こそ、直接言えなくて

ごめんね。

萌…

大好きだ。」

見つめあったまま、私の目から次から次へと涙が溢れた。

陽介は、優しく涙を拭ってくれた。

「陽介…陽介…」

陽介は黙ったまま私を抱きしめてくれた。

「あったかい…」

 

私はなんとも言えない安堵感と幸福感に酔いしれていた。



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