第3話 不信と協調

 早朝。遠くで霞む霊峰から、眩い太陽が姿を見せる。既に起床していたアシュレイは、独り、山の中に居た。学園からそれほど離れてはいないが、人の気配は感じない。人目を忍んで修練するには、正にうってつけの場所だと言えた。



「これからどうやって、アイツらを指導すれば……」



 一晩経っても名案は浮かばない。それは、大瀑布とも言える滝に打たれる今も同じだ。普段よりも冗長になった滝行は、思いの外、精神統一が捗らなかった。気を抜けば、瞬く間に心がささくれてしまいそうで。


 ちなみに制服ではない。上は裸で、下は私物の擦り切れたズボンだ。借り物での訓練は気が散ると思ったからだ。しかし自前の服でも、集中は途切れがちになってしまう。


 次の修練に移ろう。気持ちを切り替えたアシュレイは、刮目し、腹の中に気合いをこめた。



「せやぁぁーーッ!」



 叫ぶとともに、拳を天に向けて突き上げた。すると、頭上に降り注ぐ滝の水が弾け、流れが止まった。


 アシュレイは手を休めない。むき出しになった岩肌を蹴って跳ぶ。そして宙で止まる圧倒的水流に向かって、拳を叩きつける。それを繰り返すと、滝の中心のみ空洞が生まれ、せき止めたようになる。


 一歩間違えば死にかねない、危険の伴う修練だ。こんな無鉄砲な鍛え方を実践するのは、アシュレイくらいのものだ。そして魔術に頼る事無く、身体能力のみで成し遂げられる人間も、そう多くはない。そのため、彼オリジナルの修練法だと言って差し支えないのだ。



(クソッ……そもそも講師とは。なぜこんな事に……!)



 滝と荒々しく戯れる間も、脳裏に浮かぶのは昨日の出来事だ。意識せずとも、様々な光景が蘇る。



(アシュレイ殿は義理堅きお方。きっと給与以上の働きを……)



 その言葉から、奥歯がギシリと鳴る。心の乱れだ。それが技を曇らせ、態勢を崩し、濡れた岩肌で足が滑る。そして真っ逆さま、滝壺に墜落。そこに仕返しだと言わんばかりの、圧倒的水量が押し寄せてきた。アシュレイは猛烈な水流の中で、木の葉のように弄ばれた。


 それしきの事で彼が死ぬはずもなく、手早く脱出。すぐ陸の上に、大した怪我もなく戻ったのだが、その顔には不満がありありと浮かんでいた。



「クソッ。全く集中できん……!」


「アシュレイ様ぁ! 朝ごはんが出来ましたよ、一緒に食べましょう?」



 胡乱(うろん)な瞳がクエンを見る。連れて来たつもりは無かったのに、いつの間にか、火起こしを済ませていた。木の枝を組み上げて小鍋を吊るし、温かな匂いも漂わせる。空腹に直撃するようだ。


 アシュレイは小さく溜め息を漏らし、火の傍に腰を降ろした。



「今日の朝ごはんは、鉄トカゲのすり身団子を味噌汁にしました。野生の強者ニンニクも見つけたんで、輪切りで入れときましたよ」



 クエンは倒木を活用し、木椀と箸まで準備していた。濃厚な汁をよそい、アシュレイの手に渡る。味噌は携行調味料として優秀だ。長期保存が可能で、手軽に塩分が摂れる上に、かさばらない。岩塩よりもずっと扱いやすいのだ。


 アシュレイは一口だけすすり、ようやく眉間のシワが晴れた。寮の食事も悪くないが、故郷の味には到底及ばない。



「何か、ご機嫌ななめですよね。講師の件ですか?」


「そっちはあくまでも手段だ。目的は報酬、魔獣殺しを受け取る事」


「まぁそうなんですがね。やっぱり厳しいですよね。あんな落ちこぼれ、偉業を成し遂げるどころか、卒業すら難しいってのに」



 再び、アシュレイの奥歯が鳴った。理事長のやり口に憤りを覚えたのだ。


 魔獣殺しの譲渡と講師の責務。これは一見するとフェアトレードだ。しかし提示されたものが、達成しようの無い条件だったならどうか。落胆して諦める事を狙っていた、と見なして良い。魚のいない池に釣り糸をぶら下げても、得られる物など無いのだ。


 姑息を通り越して卑劣だ。アシュレイは胸に怒りを宿すが、取り合わなかった。私怨よりも目的の達成が第一である。



「呑気に先生ごっこを続ける気はない。1日も早く、剣とともに故郷へ帰らねばならん」


「でも、どうするんです? 達成報酬でないとしたら……」



 卑劣漢を相手にして、健気に約束を守る意味などあるのか。結論なら既に出していた。



「奪え。幸いにも理事長は不在だ」



 アシュレイは迷いなく言い切った。クエンは汁を誤嚥(ごえん)して、しばらく咳き込んでしまう。



「アシュレイ様。結局はそっちいきますか? 賛成っちゃ賛成ですけども」


「時間が惜しい。なるべく早く実行に移したい」


「お気持ちは分かりますがね。あのジジイ、めちゃくちゃキレるんじゃないです? 老いぼれだけど、結構な達人ですよね?」


「用が済めば返す。礼金や手土産も付ける。それで許されるかは分からんが」


「それとですね、あの剣には多分、結界を張ってますよ。かなり強烈なやつ。解析にすっげぇ時間かかりますけど」


「構わん。少なくとも、特進の連中を育てるより早いだろう」


「まぁ、流石にね。数日もあれば終わりますよ」


「頼むぞ。大事の前の小事。全ては苦境に陥って久しい、オーミヤの同胞を救うためだ」


「分かりましたよぉ……。その代わり、剣が手に入ったら、とびっきり特別な報酬をお願いしますね?」


「考えておく」



 アシュレイは、空になった椀を置き、滝の方を見た。


 自分は間違っていない。正しい決断を下した。そう思いはしても、何か胸騒ぎを覚えてしまう。気を紛らわせようと、水の流れ行く様を眺めても、心は晴れなかった。


 そんな彼の背中に、ねっとり絡みつく視線を送るのはクエンだ。もう既に報酬について考えており、煩悩が呟きとなってダダ漏れる。これはモザイク必須。お子様には見せられない、精力的な願望は、果たして実現するのだろうか。それは彼女の働き次第である。


 やがて陽が高く昇った頃、学園に鐘が鳴り響いた。授業開始を報せるものだ。



「さてと。物が手に入るまでは、役目を果たさないとな。目くらましの意味も含めて」



 特進クラスの扉を開く。すると、中はもぬけの殻だった。5人の生徒のうち、誰一人として座ってはいない。


 アシュレイは、別に気落ちなどしなかった。ただ鼻息とともに眉を潜めただけだ。



「まぁ、別に構わん。ボイコットでも、やりたいようにやれば良い。奴らが成長を止めようが、オレには関係のない事だ」



 アシュレイは教壇脇の椅子に腰を降ろした。体を預ける座り方で、背もたれが音を立てて軋む。気分は悪くない。生徒からNOを突きつけられた事実を、目の当たりにしてもだ。


 やはり人間、足踏みを強いられる時が辛い。方針が定まり、少しずつとはいえ前進出来るのなら、苦痛は苦痛でなくなるのだ。


 そんな事を考えた矢先、教室の扉が開いた。



「あっ……」


「どうした。忘れ物か?」



 その人物には見覚えがある。赤色で長い髪は平凡だが、体格に恵まれているのだ。背は高く、細身に見えるが、しなやかな筋肉が既に備わっている。クラスで1番戦闘向きだと思ったものだ。


 しかしそれを差し置いて目立つのは、彼女の奇癖だ。何もない所で、手洗いでもするかのように、両手を擦り合わせるのだ。初対面も同然なのに、既に3回はその仕草を目撃している。



「ええと、忘れ物とかじゃなくって」


「じゃあ授業を受けに来たのか、手コスリ?」


「それがアタシのあだ名っすか。一応、シャロン・グリシアっつう名前があるんすけどね」


「そうか、手コスリ。授業じゃないなら何だ」


「先生を呼びに来たんすよ。今日は調理実習だから、教室じゃないって」


「調理、実習……?」


「もう皆、先に始めちゃってますから」



 授業のボイコットではなかった。アシュレイがスケジュールを間違えただけである。


 調理実習とは、冒険者とは切っても切り離せない、野外での料理を学ぶためのものだ。アシュレイは不要の授業だと思う。実地において、悠長に料理が出来るシーンなど限られている。追い詰められれば、最悪、生肉をかじる覚悟が要る。戦場に赴く者ならば、誰もが強いられる事だ。


 シャロンが誘導したのは屋外。訓練グラウンドの一角だ。そこでは既に、調理器具を持ち寄り、各々が料理に勤しんでいた。



「あらあらぁ? 先生、こんなに遅刻してくるだなんて、調子でも悪くしましたぁ?」



 ここぞとばかりにサーシャが、ふんぞり返って嘲笑った。ご自慢の耳飾りが、持て囃すようにチンと鳴る。



「少し勘違いしていた。それよりも、料理なんかできるのか、雨漏り?」


「その名で呼ぶの禁止! 切り刻むわよ!」


「そうか。何なら、ここで試してみるか?」


「こんのぉぉ、クソボケ講師がぁぁ……!」


「まぁまぁサーシャちゃん。せっかく美味しいもの作るんだから。楽しくやろうよ、ね?」



 隣からクラスメイトが、とりなすように割り込んだ。やがて説得を終え、料理を進行させていく。


 そんなサポートを、アシュレイは、別に感謝などしなかった。やっぱり肉ダレ饅頭に似てる、と思うばかり。そして彼は、何もやることが無い。せいぜい遠巻きになって、他人事のように作業を眺めるくらいだ。



「さすがに手慣れている。平民の出だからか」



 生徒たちの動きは滑らかだ。肉に野菜にと、丁寧に切り刻み、1所にまとめる。見てて飽きない手際の良さだった。


 ただしサーシャだけは、唯一の貴族であり、未経験である事が確定している。実際、手桶の水で洗うくらいしか出来ない。そのくせ、トマトを洗った程度なのに、達成感に溢れた笑顔を浮かべる。更には「これが労働の歓びね!」などと言うものだから、さすがにアシュレイは堪えきれず、眉間を揉んでうつむいた。 


 

「よしよし。下ごしらえはお終い。次は火の準備だね」


「任せて。薪なら組んである。後は着火だけ」


「じゃあセリス、魔法でお願いできるかな?」


「承知。ファイヤービット」



 セリスは抑揚のない声とともに、杖を掲げた。杖先に術式が文様となって現れ、魔法は発動した。しかし巨大だ。着火どころか、他者を焼き殺しかねない大火が巻き起こり、焔が踊り狂った。



「ひっ、ひぃぃ! 止めて止めて!」



 生徒たちが転がりながら悲鳴をあげる。すると、セリスの杖に新たな術式が走り、炎は幻のように消えてしまった。



「ごめんねアイリーン。薪が炭になっちゃった。また貰ってこないと」


「うん。謝るのはそこじゃないと思うの」


「失敗は成功の母。次は上手くやる。任せて」


「サーシャちゃん。魔法ならアナタも使えるでしょ。お願いして良い?」


「フフン。もちろんよ。私なら間違いなく確実に、適切すぎる火起こしを、輝かしき成功に導いてみせるわ!」


「頼もしいなぁ。じゃあ薪をもらってくるね」


「ステキな薪をお願いね、アイリーン」



 火起こしごときで、この騒ぎか。冒険者暮らしの長いアシュレイにとって、新鮮でありながら、呆れる部分もあった。ただ、ささいな事でも笑顔を見せる。それは自分が失ったものだ、とは思う。



「薪もらってきたよ! メガネの事務員さんだった、笑ってたよ」


「よきよき。じゃあ準備なさいアイリーン。この私が自ら、高貴なる火付けをしてあげるわ」


「頼りにしてるよ、サーシャちゃん」


「見てなさい、ファイヤービット!」



 今度は魔力の調整が為され、小さな火の玉がぶつけられた。しかし小さすぎる。その程度ではボヤにもならない。



「あれ? あれ? おかしいわね。全然火が付かない」


「弱すぎだ、雨漏り。その程度の火力だったら、火口(ほくち)が要る。藁とか、火種と薪の中間に燃やすものが……」

 

「アンタは口出ししないクソボケ! 今に見てなさい、絶対に着火してやるんだから!」


「そうか、大役だな。好きにしろ」



 それからはトライ&エラー。何度目かの失敗を糧に、ようやく完遂した。絶妙な火加減により、薪が緩やかに燃え始める。



「やった……やったわよ! 火が付いた!」


「ありがとう! さっそく鉄板を火にかけましょう」



 途端にはしゃぎだす一同。それを引いて眺めるアシュレイ。そんなにも愉快かと、不思議で仕方がない。



「出来たよ、豚肉とトマトのバター炒め!」


「美味そうじゃん! お昼の前にこんなん食っちゃって、大丈夫かなぁ?」


「えっ、もしかしてシャロン。これとは別にご飯も食べるつもりだった?」


「そうだけど、アイリーンは違うの? つうか皆も同意見!?」



 笑いが起こる。和気あいあいとした空気のまま、漆器の皿には肉が盛り付けられる。木のフォークも添えて、掛け声とともに実食だ。



「先生。良かったらどうぞ」



 肉ダレ饅頭ことアイリーンが、皿の1つを寄越した。アシュレイは始めのうちは理解出来なかったが、自分用だと知るなり、素直に受け取った。


 そして、ためらいもせず頬張る。程よい火加減。塩味を追いかけるように走る、僅かな酸味が、舌に心地よかった。



「どう、ですか?」


「悪くない。普通に食える」


「良かったぁ。こんな不味いもん食わせやがって、なんて怒られるかと不安でした」


「戦場では、まともなメシが食えない事も多い。泥水をすする事だってザラだ。覚えておけ、肉ダレ饅頭」


「肉ダレ……。あのですね、私はアイリーン。アイリーン・ロメオです。いい加減名前で呼んでくださいよ」



 その言葉に、アシュレイは鋭い頭痛を覚えた。針でつつかれた様な痛みだ。何かの光景が浮かびそうになるが、予感だけに留まった。



「名前を覚える必要などない。お前らは、あだ名で十分だ」


「辛辣ですね……5人くらい、すぐに覚えられるでしょう?」

 


 頭痛が強くなる。幻の光景も、ほんの一時だけ、現実のように広がっては消えた。



「オレは事情があって雇われただけの、臨時講師だ。馴れ合う気はないし、関わりたくもない」


「そうですか。じゃあせめて、貴方の名前を教えてください」


「オレの……?」


「どこのどなたに教わったのか、知らないままというのは寂しいです。貴方は、驚くくらいの達人なんですし」



 アイリーンの言葉に、何人も賛同する。口をつぐんだのは、横を向いたサーシャくらいだ。名前くらい良いか。アシュレイは根負けして、静かに告げた。



「オレの名はアシュレイ。アシュレイ・ロード・オーミヤだ」


「ステキなお名前じゃないですか。しかも貴族様だったなんて。もっと早く教えてくれれば良かったのに」


「名前なんて飾りだ。物の名称が、武器を手に取って戦ったりはしない」


「でも、知らないと不便ですよ。私がアイリーンで、この子はセリス。あっちで怒ってるのがサーシャで……」



 その瞬間、アシュレイの脳裏に1つの光景が鮮明に映し出された。


 暗雲垂れ込める不毛な大地。へし折れた武具、朱に染まる大地、虫の音すら聞こえぬ静寂。そこでは若き頃の自分が血の涙を流し、喉を潰しても、なお泣き喚いた。



(ジーク、シズネ、リノ! 死ぬな、眼を開けろ! 開けてくれぇ!)



 仲間の名前を叫びながら、亡骸を抱きしめようとする。しかし、灰と化した遺骸は形を保てず、風に吹かれた傍から消えてゆく。3人分の遺体。その全てが、遺品の1つさえ残さずに消滅したのだ。


 自分以外の全員が。



「先生? どうしました?」



 アシュレイは、不安げに覗く顔に驚かされた。今のは幻だ。乗り越えがたい過去が見せた、幻覚だったのだ。問いかけには答えず、手にしたフォークを皿に置いた。カチリと鈍く鳴る。


 次の瞬間にアシュレイは、自分の心が冷えていくのを感じ取った。



「オレはとある理由があって、ガラにもなく、講師なんて引き受けた。お前たちは、目標達成の駒でしかない」


「駒って……。いくら何でも、言いすぎじゃありませんか!」


「黙って言うことを聞け。名前がどうのとか、実にくだらん。所詮は別れゆく他人同士だ。それでも覚えてほしいなら、成績をマシにしてみろ。落ちこぼれどもめ」


「酷い……。私達は人間じゃないって言いたいんですか。あなたの目的を達成するための、道具でしかないと!」


「今の説明で、他にどんな解釈ができるんだ?」



 怒りに打ち震えるアイリーン。その横から、青髪を揺らしながらサーシャが割り込んだ。眉を吊り上げながらも、どこか笑って見えるのは、言質を取れた喜びに誘われたからだ。



「ほら見なさい。やっぱりロクでもない男だったじゃないの! 皆、行くわよ。理事長に直談判して、コイツを学園から追い出してやりましょう!」



 サーシャの強い言葉に、一同は多様な顔色をぶら下げたが、結局は全員が付き従った。その場に居残ったのはアシュレイだけである。



「……ご馳走様」



 1人きりで、かすかに呟く。それからは、放置された調理器具を洗った。元の場所に戻そうと思った所で、どこに片付けるべきか知らない事に気付く。結局は、偶然通りかかっただけの、顔なじみの事務員に押し付けた。

  

 そして時間は流れ、昼休みが終わる。アシュレイは一応、特進クラスに足を運んだ。破綻寸前とはいえ、役目というものがあり、責任を全うせねばならない。決定的な事態に至るまでは。



「まぁ、こうして起きた訳だがね。決定的な出来事が」



 またもや教室は、もぬけの殻。今度は勘違いではなく、魔術の授業を行う予定だった。しかし座席に生徒の姿はない。全員が「欠席」の状態である。



「剣が手に入るまでは、講師を続けておきたいんだが、厳しいだろう……。それならそれで、やり方を変えれば良い」



 その時、扉が開いた。そして何事もなかったように、1人の少女が入室し、席についた。金髪のサイドテール。小柄で華奢、無表情。グレーの制服。


 それは見覚えのある生徒であった。



「お前は……」


「私はセリス・スフラン。魔術科の2年目。覚えてもらう事は期待しない。でも一度は名乗っておく。よろしく」


「何しに来た」


「私は生徒、あなたは先生。色々教えて」


「オレの話を聞いてなかったのか。お前の友達連中は怒り混じりに、どこか他所に行ったろうが」


「聞いてた。余すこと無く、徹頭徹尾」


「だったら何故だ?」



 ここで、セリスは瞳を細めた。これまで無表情であったのだが、この時ばかりは確かな気迫が籠められた。



「私は強くなりたい。その為なら、悪人相手だって教えを乞う。貴方は強い。だから教えて」



 その瞳は真っ直ぐだった。アシュレイを見据え、眼(まなこ)を射抜くかのように。




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