第5話 そうだ、コトリバコを探そう!


(SE)チャイムの音


モブ(1)

「きりーつ、れい」


モブ(大勢)

「「「ありがとうございましたぁ」」」


(SE)教室のざわめき、迫る足音


リナ

「キョトリバサイコー!」


キョン

「リナ、落ち着いて。今までで一番意味がわからないわ。なにが最高ですって?」


リナ

「最高じゃないよ。『キョン、コトリバコを探しに行こう!』って言ったんだよ」


キョン

「あらためて聞いても全く意味がわからなかったわ」


リナ

「キョン、コトリバコを探しに行こう!」


キョン

「聞き取れなかったわけじゃないのよ。まず、コトリバコってなに?」


リナ

「なんか怖い箱」


キョン

「なんか怖い箱」


リナ

「うん! さあ、探しに行こう!」


キョン

「説明が雑すぎて何ひとつ見えてこないわ」


リナ

「あたしもよく知らないんだよね」


キョン

「スマホで調べてみればいいじゃない」


(SE)カバンの中を探る音


リナ

「キョン、ダメーーーーー!」


キョン

「なになに? どうしたっていうのよ」


リナ

「死にたいの⁉」


キョン

「いきなり物騒になったわね」


リナ

「コトリバコはね、『検索してはいけない言葉』なの」


キョン

「検索したらどうなるの?」


リナ

「体調が悪くなる? とか、不幸になる? とか、そんな感じ」


キョン

「検索してないからそこもとしちゃうのね。……あ、あったわ」


リナ

「なんで検索してるの⁉」


キョン

「(無視して)血反吐ちへどを吐き苦しみ抜いて死ぬ呪いの箱……こわっ」


リナ

「なんで検索しちゃったの⁉」


キョン

「別に信じてないし。むしろ、リナはどうしてこんな物騒な箱を探してるのよ?」


リナ

「ここまで物騒だとは思わなかった」


キョン

「さっき『なんか怖い箱』って言ってたものね」


リナ

「でも大丈夫! あたしね、実は心当たりがあるの」


キョン

「大丈夫の意味がわからないし、リナの心当たりには不安しかないわ」


リナ

「キョンはあたしのことを信じられないの?」


キョン

「自分の胸に手を当てて考えてみなさい」


(SE)胸を手で押す衣擦れの音


リナ

「今日もふかふかだけど?」


キョン

「そういう意味じゃないし、私は殺意の波動に目覚めそうよ」


リナ

「キョンの方が物騒だと思う」


キョン

「まあいいわ。じゃあリナ、その胸部にある脂肪の塊に誓いなさい」


リナ

「もう少し悪意のない表現はないの?」


キョン

「今の私の辞書には載ってないわ」


リナ

「その辞書は不良品だから早く交換してね」


キョン

「うるさいわね。さっさと誓いなさい」


リナ

「なんて誓えばいいの?」


キョン

「私に無駄な時間を過ごさせない」


リナ

「キョンに無駄な時間を過ごさせません」



   ♡   ♦   ♡   ♦   ♡



(SE)チャイムの音、子どもが遊ぶ声


キョン

「うっわあ。懐かしいわね」


リナ

「でしょ、でしょ!」


キョン

「あのウンテイ、よく一緒に遊んだわね」


リナ

「両端から同時にスタートして、どっちが早いか競走したりね」


キョン

「あ、あのジャングルジム! リナがはしゃいで上から落ちたのよね」


リナ

「えー、そんなことあったっけ。……人違いじゃない?」


キョン

「頭もぶつけてたから、きっと記憶が飛んだのね。もしかしてリナがバカなのも――」


リナ

「それはシンプルに悪口。……あ、シーソーが」


キョン

「テープでぐるぐる巻きね。サビだらけだし……撤去されるのかしら」


リナ

「思い出が無くなるみたいで、なんだか切ないね」


キョン

「そうね……、ってなにコレ⁉」


リナ

「ん?」


キョン

「私たちはどうして卒業した小学校に来ていて、しかも思い出話に花を咲かせているのかって聞いてるのよ」


リナ

「あっ! そうだった。懐かしくて、つい本題を忘れてた」


キョン

「あんたの栄養を全て奪い取っている、その胸の巨大な脂肪の命運もここまでかしら」


リナ

「なんだか悪意が増している気がする」


キョン

「悪意の波動に目覚めたわ」


リナ

「波動こわい」


キョン

「いいから。さっさと心当たりとやらに行くわよ」


リナ

「あっちの芝生の方!」


キョン

「もうオチが読めてしまったけれど、最後まで付き合ってあげる」


(SE)芝生を踏む音


リナ

「じゃーーん! 白いナントカ箱!」


キョン

百葉箱ひゃくようばこ


リナ

「コトリバコ?」


キョン

「『ヒャクヨウバコ』だっつってんでしょ。カスリもしてないのに図々しいわね」


リナ

「バコ、は合って――」


キョン

「箱ですらなかったら、さすがに親友やめてたわ」


リナ

「……あぶなかった」


キョン

「あんたの乳の命運は尽きたけどね」


リナ

「ゔっ……どうしても?」


キョン

「どうしても……と言いたいところだけど、正直ちょっと懐かしかったのよね。だから全てが『無駄な時間』だったとまでは言えないわ」


リナ

「じゃあ!」


キョン

乳首さきっぽだけで勘弁してあげる」


リナ

「んん?」


キョン

「んん? じゃないわよ」


リナ

「…………」


(SE)リナが走って逃げる音


キョン

「あっ! 逃げた! こらっ、待ちなさいっ」


リナ

「痛いのはイヤーーーッ!」


(SE)二人の足音


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