第3話 そうだ、八尺様に会いに行こう!
(SE)チャイムの音
モブ(1)
「きりーつ、れい」
モブ(大勢)
「「「ありがとうございましたぁ」」」
(SE)教室のざわめき、迫る足音
リナ
「ョーーーーーーーーン!」
キョン
「長いのよ! 長すぎて始めの『キ』が聞こえないのよ!」
リナ
「ヨン?」
キョン
「もはやオンなのよ」
リナ
「オンちゃん!」
キョン
「それは北海道のテレビ局のマスコットキャラ!」
リナ
「その正体はヤス――」
キョン
「やめなさい。それ以上言ったら胸の脂肪が溶けるまで揉みほぐすわよ」
リナ
「え!? おっぱいって溶けるの?」
キョン
「試してみる?」
リナ
「遠慮しておきます」
キョン
「ええ。懸命な判断だわ」
リナ
「で、なんの話だっけ?」
キョン
「それは私が聞きたいわね」
リナ
「あ、そうだ! はっさくさま!」
キョン
「私も好きだけど、
リナ
「はっかくさま?」
キョン
「魚の方かしら、それとも香辛料の方?」
リナ
「えっとね、都市伝説の方」
キョン
「それはちょっと守備範囲外だわ」
リナ
「思い出した!
キョン
「はっしゃくさま」
リナ
「田舎に出るらしいんだけど。……とりあえず足立区に行ってみよっか」
キョン
「あんた、23区で田舎とか言ってたら夜道で背中を刺されるわよ」
リナ
「でも、あそこは無人駅が――」
キョン
「シャラーーップ! 本気でその乳を溶かされたいようね」
(SE)胸を隠す衣擦れの音
リナ
「ひぃぃぃっ!」
キョン
「とりあえず23区からは離れなさい」
リナ
「じゃ、じゃあ……多摩、とか」
キョン
「…………」
(SE)心臓がバクバクと脈打つ音
キョン
「セーーーーーフ!」
リナ
「よかったあああぁぁぁ」
キョン
「あっちには『東京の田舎』を自称している自治体があるのよね。正確には西多摩郡だけど、オマケしとくわ」
リナ
「お母さん! 私はおっぱいを守り抜きました!」
キョン
「それは良かったわね。じゃ、そういうことだから。また明日ね!」
リナ
「うん。ばいばーい、ってなんで帰っちゃうの!」
キョン
「ちぇっ。勢いでいけるかと思ったのに」
リナ
「行こうよ! 西多摩郡!」
キョン
「イヤよ。何時間かかると思ってるの?」
リナ
「新宿から2時間くらい」
キョン
「往復4時間は女子高生が放課後に遊びに行く距離じゃないわよ」
リナ
「木更津までは一緒に行ってくれたじゃん。あそこも片道1時間半くらいかかったじゃん!」
キョン
「あれはミステリーツアーみたいなもんじゃない。はじめから目的地が木更津だってわかってたら行かなかったわよ」
リナ
「まあ、海について30分もしないうちに家から電話かかってきたしね」
キョン
「うちの親は目が飛び出すんじゃないかってくらい驚いてたわ。なんでわざわざ木更津に、って変わったモノを見るような目で見られたわ」
リナ
「本当は『きさらぎ駅』を目指してたんだけどね」
キョン
「当たり前だけど、それは隠し通したわ」
リナ
「あたしは正直に話したんだけど、うちの親も目が飛び出すんじゃないかってくらい驚いてた」
キョン
「それは『きさらぎ駅とかマジで言ってんのか』って反応よね。隠しても、隠さなくても、結果は一緒ってことか。なんだか悲しくなってきたわ」
リナ
「で、なんの話だっけ?」
キョン
「八尺様でしょ。だいたいどうして八尺様に会いたいなんて思ったの?」
リナ
「八尺様って、すっごく大きいんだって!」
キョン
「ふーん。八尺ってことは……2メートル40センチくらいかしら」
リナ
「え?」
キョン
「え?」
リナ
「そんなもんなの?」
キョン
「そ、そうね。一尺が約30センチメートルだから、それくらいだと思うわよ」
リナ
「海外のバスケットボール選手の方が高いじゃん」
キョン
「そ、そう……なの?」
リナ
「そうだよ! でも、そっか……そんなもんか。だったらわざわざ田舎まで行くのも面倒だね」
キョン
「う、うん。そうね。鎌倉に大仏様でも見に行った方が有意義なんじゃないかしら」
リナ
「あぁあ。つまんないな。ウルトラマンくらいの身長はあるんだと思ってたのに」
キョン
「40メートル級のバケモノはちょっと遠慮したいわね。でも、ほら。いま調べてみたんだけど、八尺様は子どもをさらう、なんて怖い話もあるわよ」
リナ
「うーん。あたし、別にさらわれたい願望があるわけじゃないんだよねぇ」
キョン
「白い服で『ポポポ』って言うらしいよ」
リナ
「ハトじゃん。それも平和のハト」
キョン・リナ
「…………」
キョン
「帰ろうか」
リナ
「帰ろう」
(SE)二人の足音、チャイムの音
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