最終話「ずっと言えなかったこと」

パクは土手へと作業服のままやってきた。



「ほんとだったら、明日だったな決勝。」


「おう、これから仕込み」


「ひとりでもやんのか?」


「あぁ、ダメはダメなりに頑張ってみようと思ってよ。そんなことより大事なこと終わらせとこうと思ってよ。」


「おう、どうしたんだよ」


「お前どうすんだよ子供生まれんのに」


「だから、ラブホの清掃員やってんだよw」


「お前さぁ、もっとマシな仕事つけよ。

バカにされんぞ息子から」


「んなの、慣れっこだよ」


「なんでそんなの選んだんだよ、漏れてくる喘ぎ声でも聞きたかったのかよ」


「そういう理由の方が男らしいよなw」


「本当はなんなんだよ」


「融通きくんだよ、一番

もしかしたら舞香いなくなったらよ。

子供ひとりぼっちだろ。

だから、幼稚園とか学校以外ずっと一緒にいてやりたくてよ。

ダメはダメなりに頑張ってんだよ」


「………お前そういうのちゃんと言えよ!子供に」


「言うわけねえだろ、だせえ。」


「舞香さんがもし……もしほんとに舞香さんが死んじゃったらお前子供になんて言うんだよ」


「そうだなー、お前のせいでお母さんは…なんて言ったら子供があんまりだもんなw

俺が女作って出ていったとでも言うかwww」


「もっとましな嘘つけよ!、嫌われんぞ!」


「いいよ、それも慣れっこだよ

てかさどんだけ嫌われても

俺はずっと愛してっからさ、片想いでも。

産まれてくるガキが元気に幸せに育ってくれればそれだけでいい…」


「そうか、なあ、」


「あ?」


「あのさ………」









決勝戦当日。


そして、僕の生まれる日。


「ロンさん出番お願いします!」


「はい!」



病院の方も、



「真壁さん!舞香さんが陣痛が来ました!」


「おい!舞香!頑張れよ!」


「省ちゃん!最後に……手握って」


「ふざけんな最後とか言ってんじゃねえよ!」


「名前どうすんの、、?」


「そりゃ春なんだから春だろ」


「え、それどっち」


「どっちでもだよ」



弱くなった手でパクの頬をペチっと叩いた。



「いっぱい叩いたねごめんね、省ちゃん。」


「おう、……これからも頼むわw」


「あ、省ちゃん…あのね、チョコ食べちゃダメだよ…?」


「わかった…わかった!」



そして、舞香さんは手術室へと運ばれた。




「頑張れ!!!舞香!!!」





僕の舞台も大詰め最後のマジックが終わった。

観客からは盛大すぎるほどの歓声が聞こえ

そして、病院からは産声が聞こえた。



その瞬間、またあの大きな雷が落ちた。











目を覚ますと土手にいた。

右手にはスマホを持っていて、日付を確認すると2021年だった。



戻ってきたのかと感じていたら電話が鳴った。

警察からだった。


「すいません、真壁さん先程の遺骨なんですが…」


「はい?」


「違う方の遺骨みたいで…」


「は?」


「なんか、変なホームレスに騙されましてね、息子を探してたとかなんとかで…とにかく返還をお願い致します。」



その電話を切った瞬間だった




「よぉ、久しぶりだな」




そこには老けたホームレスが1人突っ立っていた。




「見ねえうちに誰かに似てきたな」


「あんたにだけは似たくねえよ」


「警察が騙されてちゃ世話ねえよな」


「なんでそこまでして俺を探したかったんだよ」


「いやー、俺もよ結構いい歳だからよ。

いつくたばってもおかしくねえだろ?

だから、お前の母親のことちゃんと話しとこうと思ってよ。」


「ちっ、そんなことかよ。あーも損した!

あんなこと言わなきゃ良かったよ」


「あんなこと…?」










~あの日の土手~









「あのさ……」


「あ?」


「ほんとはもっと、前につーか、あーいや。

あとの方か、で、言わなきゃいけないんだけどさ」


「おう」






そう、この言葉が僕はずっと言えなかった

僕はパクに、いや大好きな親父にやっと言えたんだ。






「ありがとう」

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晴雷 岩山竜秋 @Ryu_dra

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