第27話 七星剣

「す、すごい……」


 目の前の光景にUSAは言葉もなく魅入る。


 光の一撃により、煮え立った地面。消え去ったモンストラス達。


 その中にはコボルド・ジェネラルすらいたというのに、すべてが一撃で葬り去られた。


 ぜんぶ、飛鳥がなしたことだ。


「ふふん。どう、すごいでしょ、USAちゃん」


 振り返りながらそう言う飛鳥の表情は、心なしか自慢げで、そんな飛鳥に向けて、USAはブンブンと首を縦に振る。


「はいっ! す~ごっかったですっっっ、飛鳥さん!」


「………」


 満面の笑みで返したUSAに、しかし飛鳥はなぜかその場で固まった。


「……? どうしたんですか、飛鳥さん?」


「ぐふっ」


 そんな呟きを漏らして、倒れ伏す飛鳥。その姿にUSAは慌てふためていた。


「あ、飛鳥さん⁉」


 まさか、さっきの戦闘でなにかしらの負傷を⁉ と焦るUSAにしかし背後でやれやれ、というような声が聞こえてくる。


「気にしないでください、USAさん。ただただあなたの可愛らしさに打ちのめされただけでしょうから」


「そうだそうだ。きにすんな」


 司、続いて士道がそういうので、USAは目を白黒させながら、はあ、と困惑気味な声を漏らす中、ちらりと見やる飛鳥の表情は恍惚としたものだった。


「……うふふ。USAちゃんの純粋無垢な笑みいただきましたぁ~」


 そんな飛鳥にたいして、だめだこりゃあ、と言う呟きを返したのは士道だ。


「まったく。これで術師のランキングではかなり高位だっていうんだから冗談だよなあ」


 呆れ混じりにそういう士道に、しかし飛鳥はじめグノーシスの面々はなんとも言えない表情を士道に向けた。


「ん? どうした、司さん達」


「……いえ、士道くん。そういうあなたも、かつては七星剣に数えられる凄腕の冒険者だったんですよ?」


 そこらへん、自覚していますか? と問う司に、USAは気になって問いを発する。


「そ、そういえば、七星剣? ってなんですか?」


 その問いに今度は全員の視線がUSAに集まった。


「あー。その、あれだ。世界ランキング上位の面々与えられる称号? みたいなもんだよ」


「それじゃあ説明が不十分でしょう、士道くん。いいですか、USAさん。七星剣……またの名をセプテントリオンというのは、この世界で最も強い冒険者の称号です」


 司がそういうのに引き続いて道目木が言葉を継ぐ。


「代々冒険者の界隈では、不思議なことに世界ランキングの一位~七位までにつく冒険者はそれ以下の冒険者を大きく引き離す実力の持ち主ばかりなのです。ゆえにそれを讃えて、世界ランキング一位~七位の者達を七星剣と言う称号を与え、讃えるというのが冒険者界隈における伝統となっているんです」


 道目木の言葉に、司が、ええ、と頷き、士道を見た。


「そして、ここにいる士道くん、いえ〈黒閃〉黒輝士道は、その七星剣が一人。かつての世界第二位でした」


「ぶっちゃけ、実力だけなら、たぶん士道くんはこの中でも一番上位だよね。なんたって東京にある無限迷宮を七十五層まで踏破した唯一の人なんだから」


「あー、やめろやめろ。もう引退した身だ。今の俺はしがないDランク冒険者だよ」


 うざったそうに手を振り、次々と自分を褒めるグノーシスの面々の言葉を遮った士道。


 しかしそんな士道の言葉を聞いて、ますますUSAは疑問をその表情に浮かべた。


「引退……?」


 首をかしげてそう呟くUSAに、士道は振り返ると、はあ、とため息をつきながら答える。


「……ちょっと、持病が悪化してな。とても第一線で斬ったはったできるような体調じゃあなくなったんだよ」


「あ……」


 言われて、USAはこれまでの士道の行動を思い出す。


 確かに言われて見れば、士道は出会った時から妙に病弱であった。


 少し電車で揺られただけで吐いたし、それにあの更衣室の前。


 あの時士道が握っていたハンカチ。あれを最初USAは見た時、赤色のまだら模様をした奇妙なハンカチだと思ったが……


「……もしかして、士道君。あの時──」


 そうして何かを言おうとしたUSAだが、その言葉はいつの間にか近づいてきた士道が、USAの頭にポンッと手を乗せてきたことで黙らされてしまう。


「ま、そんなことより早く奥へ進もうぜ。まだまだ迷宮は続いてんだから」


 笑みを浮かべながらわしゃわしゃとUSAの頭をかき混ぜてくる士道に、当のUSAは困惑と不満をないまぜにした表情で士道を見やる。


「な、なんか、士道君は私のことを子ども扱いしていない?」


「あー? 子供だろ、チビだし」


 USAの士道の胸元にも届いていない身長を指して告げられ、USAはムカッとした表情をその顔に浮かべた。


「こ、子供じゃないもん! 確かに背は低い方だけど私はこう見えて16歳なんだからね⁉」


「ならやっぱり子供だ。俺は17歳。年上。年長者。アダルティー。年功序列に従って敬いたまえよ、お嬢さん」


「な、な、な……!」


 思わずそんな声を出すUSA。


 たいする士道はニヤリとした笑みを向けながらその横を通り抜けていくので、USAは「ま、待ってよ!」と言いながらその背を追いかけて行った。


 それを遠くから見て、やれやれ、と首を横に振るグノーシスの大人三人組。


「まったく、士道くんは。久々の迷宮で舞い上がっているんじゃないですか?」


「はは。でもよかったではありませんかみたいな感じではなくて」


「ん。そだね。士道君が元気になってくれたのは私も嬉しい」


 司、道目木、飛鳥の順で三人は呟く。その中で飛鳥はポツリと一言。


「でも、それはそれとして──」


 言って、顔を上げた飛鳥の両目はギラリと血走らんばかりに輝いていた。


「USAちゃんの頭を撫でるなんて羨ましい! 私もUSAちゃんの頭を撫でさせろ──‼」


 そう言って、またUSAへと突撃しようとした飛鳥だが、その前にそんな彼女の肩を両側から掴む腕があった。


「あ・す・か・さ・ん?」


 怖い顔で笑う司。


 その反対側、道目木までも飛鳥の肩を掴み、その眼鏡を指であげながら言う。


「これ以上の醜態はさすがの私も看過できかねますよ?」


「……はい」


 うなだれ、飛鳥は二人からの言葉を受け入れるのだった。

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