第23話 舞い込む報せ

ようやっと、プロットが形となったので、更新を再開します。

しばらくは週1、週2のペースで更新させていただきますので、今後とも「冒険者USAのダンジョン配信復興期!~すたれゆく故郷を救うため現実世界に現れたダンジョンで動画配信を頑張りたいと思います~」をよろしくお願いいたします。


結芽之綴喜ゆめのつづき


―――――――――――――


 ──ピロリン。


「うきゃっ⁉」


 スマホを開いた瞬間に鳴った通知音を聞いて有素はビクリと肩を震わせる。


 放課後の出来事だった。授業が終わり、部活に行く生徒と帰宅する生徒に分かれて散漫とした空気が流れる空間で、何気なくスマホの電源を入れた有素。


 そうして目撃したおびただしい数の通知に有素は顔面を引きつらせる。


『──USAさん、初めまして、私はトライアル・エージェンシーの者です。この度、USAさんには我が冒険者ファームに所属していただきたく、そのためのご連絡を──』


『共に冒険者として羽ばたこう! 我々ヒュッケバインファームは、あなたのような素晴らしい才能を待っている! ご興味があれば、ぜひご連絡を‼』


『USAさん! 我々はあなたの才能にほれ込みました! 幹部級の地位をお約束します! どうか我がトードー冒険者組合に所属してください!』


 エトセトラエトセトラなどなど


 数え上げればきりがないほどの数、そのようなDMが有素も登録している動画配信サイトから送られてきて、いまなお通知音を鳴らすことに有素は涙目となった。


 それもこれもすべて先日の動画配信が原因だ。


 大江町ダンジョン第一層最奥にいた白き竜。


 グノーシスのA級冒険者天道てんどうつかさと共にそんな白き竜を有素こと動画配信者USAが倒したことが原因となって有素の生活は様変わりした。


 連日のように無数のスカウトがDMやメールの形をとってスマホに送られてくる始末で、有素はもはや泣きたくて泣きたくてしょうがない。


「……どうしてこんなことになったのぉ……⁉」


 自分はただ大江町の魅力を伝えるために冒険者となっただけなのに。


 もともと有素──石動いするぎ有素ありすは、故郷である大江町を愛してやまない少女である。


 しかし故郷は十年前に海岸線上でごみ焼却所を建てることとなって以来衰退の一途をたどっており、このままでは、いずれ市町村合併によって故郷の名前すらなくなってしまう、と危機感を抱いた有素。


 そこで彼女が考え出したのは、冒険者となって迷宮──ダンジョンにもぐり、それを動画配信することであった。


 町唯一のダンジョンである大江町ダンジョン。


 動画配信者USAとしてエーテル体に換装し、その中でモンストラスと戦う動画を配信することで、町の話題を作る。


 そんな思いから始めた彼女の動画配信は、有素自信の才能もあってかうまくいった。


 ……うまくいきすぎるほどに。


 結果、大江町ダンジョンが実はEランクなんかにとどまらない高難易度ダンジョンであった、などと判明したり、はたまたそれを攻略できる有素がすごいと褒め称えられたり。


 そうこうしていると、四大ファームの一角であるグノーシス・アドベンチャラーズ・ファームより人がやってきて、その人達が大江町ダンジョンの調査をすると言い出した。


 有素もその調査に協力することになり、その下見としてやったのが先日の配信である。


 ただでさえ、新進気鋭の冒険者として注目を集めつつあったところに、天道司という若くしてA級冒険者にまで上り詰めた人間が一緒に動画配信をやればどうなるか。


 その結果が現下の大量に届くスカウト依頼である。


「もうやだぁ……!」


 いまだピロリンピロリンと音を立てるスマホに、慌てて通知を切りながら、頭を抱えて嘆息を漏らす有素。


 もともと有素は、大江町の活性化をするために冒険者となったのだ。


 冒険者として動画配信をするのは手段であって目的ではない。


 もちろん、有素も動画配信冒険者USAとして活躍するのは楽しいと思っている。


 視聴者からの応援は心強いし、彼らのために戦うのは正直に言って今までの人生で一番の喜びとなっていた。


 だけど、そこから本格的な冒険者を目指すか、というと話は別のわけで。


 現状では有素も高校生だし、愛する故郷である大江町はやっぱり離れたがいしで、こんなに大量に来るスカウトへと答える余裕は有素にもない。


「うぅ、どうしよう……」


「どうしようって、なにが?」


 と、そんな有素の背後からかけられる声があった。


 うきゃっ、とまたびっくりして振り向いた有素の視線の先には一人の少女がいる。


 髪を金色に染め、頭の後ろで結んだ少女──高畷みやびだ。


 有素にとっては長年の友人にして同じ学校に通う彼女は、その身を古風なセーラー服に包んだ姿で有素を見下ろしている。


「なんか、悩んでいるみたいだけど、どうしたの、有素?」


「う、え? えっと……」


 見た目は派手だが、基本的に根はやさしいのが、みやびという少女だ。


 髪を金髪に染めているのだって、別に不良だからとかそういうわけではなく単なるファッションと言い切るような彼女からの言葉に、しかし有素はどう答えていいか迷う。


「……えっと、ね、みやびちゃん。その~……」


 おろおろと言葉を作りながら、脳内でどう言うべきかと発言まとめる有素を、しかしみやびはゆっくりと待ってくれている。


 こういうところがあるから、みやびちゃんは好きだなあ、と内心で思いつつ有素はふう、吐息をしてそれを告げた。


「……この前の動画配信から、すっごいスカウトの話が増えていて、それで困っているの」


 声を潜めたのは、一応自分が動画配信者USAだとは公言していないからである。


 そのために若干ぼかした言い方をした有素だが、みやびにはそれだけで理解できた。


「へえ、それってすごいことじゃないの?」


「うぅ。そうでもないよ……。だって、私大江町を出るつもりはないし……」


 もじもじと指先をこすり合わせながらそう告げる有素にみやびはしかし首を傾げ、


「出るつもりないって、あんた。いや、そりゃあ有素はあたしなんかと違って大江町を愛してやまないんだろうけど、そんな風にこの町へこだわり続けるのもどうかと思うよ?」


 呆れた眼差しで有素を見下ろしながら、そう告げたみやびは、だいたい、と口にして、


「一つの田舎町にこだわり続けると視野が狭くなるでしょ。最終的にこの町で骨をうずめるにしても、いろいろな場所を見て回ってもうちょっと見分を増やした方がいいんじゃないの?」


 みやびのこういうズバズバと言うところは彼女のいい点なのだが、それをはいそうですか、と受け入れられるかどうかは、または別の話だ。


「そうかもだけど……うん、やっぱり、せめて学校を卒業するまではそういうことは別にいいかなって感じなのです」


 だからスカウトを断りたいのだが、それを断ろうにも見る傍からスカウトの通知が大量にやってくるので、返事を返すこともままならない。


 それに、また有素がはあ、と嘆息を漏らした瞬間。


 ピロリン、と止めていたはずの通知がまたなった。


「ひいあッ⁉」


 なんで、通知が⁉ と慌ててスマホを見た有素。


 そこでようやく、いま来た通知が、それまでのスカウトのものとは異なるものだと気づく。


 どうやらメールのようだ。


 恐る恐ると開いたその中身を閲覧。


 すると有素は、それまで暗く沈んでいた表情を途端に明るくした。


「わあ……!」


「……? どったの、有素」


 急に表情を変えた有素にみやびが首をかしげて問うのに有素はにんまりと笑い。


「えへへ! やっとくるの──グノーシスの人達が!」


 それはグノーシスによる本格的な調査を始める旨のメールだった。

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