第20話 激戦
──GUAAAAAAAAA‼‼‼
絶叫。
空気がビリビリと震えるほどのそれを上げたのは、天井より降ってきた白き鱗を持つ竜だ。
「あのモンストラスは……」
見たことがない種類のモンストラスだ、とUSAは思った。
そんなUSAに司も警戒と困惑をないまぜにしたような表情で言う。
「わかりません。私も初めて見る種類のモンストラスです」
A級冒険者である司も知らないモンストラス。
そんなものと対面して、警戒度を引き上げるUSA。
「ど、どうします、司さん?」
「……私が一当てします。それで様子を見て、いけそうなら倒しましょう」
司はそう言うと《ギャラハッド》を構える。
彼女の頼もしい言葉に、USAも顔に笑みを浮かべて頷き。
同時に、白き竜もまたこちらへと向かって突進してきた。
──GUAAA‼‼‼
咆哮を上げ、迫る白き竜。
その勢いはすさまじく、巨体も相まってさながらダンプカーが突っ込んでくるようだ。
「───ッ‼」
そんな白き竜を前にして、司が剣を振り上げる。
クラフトアーツ〈
一閃された斬撃が、遅れてこちらへと突っ込んでくる白き竜の目の前へと生じた。
鼻先をかすめ、両断するような斬撃の発生に、はたして白き竜は対処できず、そのまま顔面を切りつけられる。
だが、
「堅いッ──!」
弾かれる斬撃。
司のクラフトアーツはしかし白き竜の鱗をわずかに傷つけただけで、本体へのダメージを与えることができていない。
「なるほど、防御力が高いタイプですか──‼」
「司さん‼」
USAが叫ぶのと白き竜がこちらへと突っ込んでくるのは同時だった。
慌てて二人は跳躍する。
そうして回避しながらUSAはとっさの判断で〈ヴォーパル〉を発動。
首筋へと精確に叩き込まれたUSAによる斬撃は、しかし強靭なその鱗に弾かれてしまい傷一つつけられない。
「嘘……⁉」
まるで鉄のような堅さだ。
おおよそすべてのモンストラスの弱点と言える首筋ですら、これほどの強度を誇ることに、思わずうろたえるUSAへ、ギロリと、白き竜の眼差しが向く。
「───‼」
とっさに身構え、〈シールド〉を目の前へと展開するUSA。
そこへ打撃がぶち込まれる。
白き竜が身を回し、そうして振るった尾による一撃だ。
元の巨体を高速で振り回し、そうして発生した遠心力をさらに尾自体をしならせることで増幅した上で叩き込まれたその一撃はUSAに想像以上の衝撃を与えた。
吹き飛ぶUSAの体。
そのまま彼女は100メートル以上も離れた先にある壁へと激突する。
「USAさん⁉」
「……っ! 大丈夫です!」
衝撃が叩き込まれる寸前〈シールド〉を展開したのが功を奏した。
それによってほとんど衝撃は吸収されたものの、それでもなおこれほどの威力が叩き込まれたことにUSAが戦慄する最中、白き竜の眼差しがUSAへと向く。
「………ッ‼」
衝撃を受けて、まだ体勢が整っていないUSAへとさらなる追撃を加えようとした白き竜。
だが、そんな白き竜の背後で動く影があった。
司だ。
彼女は白き竜の死角を取ると、そこから後背へと向けて飛び込んでいく。
「ハアッ‼」
同時に発生する無数の斬撃。
自分自身の振り下ろしとその前に生じさせていた〈陽炎の刃〉を組み合わせた合計9つの斬撃が、一斉に且つ多方向から白き竜へと襲い掛かる。
額、首筋、足の関節、翼の根元、足首、手首、眼球、背中、尾っぽ。
それぞれに叩き込まれた斬撃は、しかしその大半が鱗に阻まれ弾かれてしまった。
だが唯一、背中だけが深く斬撃が通り、そこからエーテルの流出が巻き起こる。
「そこが弱点ですか‼」
ならば、そこへと連撃を叩き込むのがA級冒険者というもの。
そういう決意のもとに、司が続く斬撃を叩き込もうとした──まさにその時。
───。
ジロリ、と竜の瞳がこちらへと向く。
「───」
肌が泡立つような感覚と共に、司は不吉な直感を覚えた。
瞬間、司はほとんど反射的な動きで後退を選択する。
結果として、それが功を奏した。
吹き荒れる颶風。
それは、エーテル粒子が噴出する竜の背中が突如として割れ、そうして現れた無数の刃によって空間を切り裂くものだった。
触手によって背中と接続した合計六本の刃。
突如現れたそれが鞭のようにしなって振るわれ、司へと襲い掛かる。
「厄介な──‼」
舌打ちを漏らしながらも、十分は距離を取って〈陽炎の刃〉を発動しようとする司。
そこへ。
──ッッッ‼
絶叫を迸らせ、竜が背中よりはやした触手の刃を振るう。
合計六本のそれが、しかし触手の元の体積を無視するようにして伸び、それはそのまま司へと向かって殺到。
「───‼」
ギョッと目を見開く司の目の前へと刃が迫る。
斬撃を叩き込む姿勢に入っていた司にとって、いまから回避行動に移ることはできない。
そこを狙いすましたように──否、実際に狙いすませて振るわれた白き竜の刃。
六本の刃が、一斉に、しかし角度を変えて襲い掛かる様に司はどうすることもできず。
(ここまでですか──!)
内心でそう司が歯噛みした──まさに、その時。
「やああああああああああああああああああああああああああッッッ‼」
絶叫を上げ飛び込んでくる影。
同時に振るわれた斬撃により、司を襲わんとした触手が弾かれ、明後日の方向へ。
そうして司の前に立ったのは白き髪に赤い瞳の少女。
USAだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます