第16話 〈剣姫〉
「……A級冒険者の戦い……」
司の言葉にUSAはそんな呟きを漏らす。
同様にコメント欄も異様な盛り上がりを見せていた。
《おお! A級冒険者の戦いが見られるのか!》
《これは盛り上がってまいりましたー!》
そうしてコメント欄がやんややんやの大騒ぎとなる中、司は迫ってくるモンストラスへと視線を向けて、さて、という呟きを一つ。
「USAさんは、そこでご覧になっていてくださいね。A級冒険者にして世界ランキングにて
言って司は自身の得物──両刃式刀剣型アタッチメント《ギャラハッド》を抜き放つ。
USAが使う《紅蓮》よりも、幅広な刃を持ったそれを構える司。
その姿はさすが一流冒険者というべきか、様になっており、ゆるやかなながらも隙のない構えで獲物を保持しながら司は目の前のモンストラスを見やる。
司のそんな後姿を見やるUSAへ、コメント欄から誠がこんなことを言ってきた。
《USAさん。見ておきたまえ。一流冒険者の戦い方、というやつを》
そんな誠のコメントを司も見ていたのだろう。彼女はその表情に苦笑を浮かべ、
「あはは。代表に期待してもらっているところ申し訳ありませんが、私はUSAさんのように派手な戦い方はできませんよ?」
言いながら司はモンストラスへ視線を固定したままに声だけ市長たちの方へ向けた。
「さて、これは配信動画ですし、少し解説しながら戦いましょうか」
律儀にも自身を撮影してくれるエーテルドローンへと司は得物である《ギャラハッド》をかざして見せながら言う。
「私がメインアームとしている武装は英国スミス&ハーキュリーズ社が開発した《ギャラハッド》となります。USAさんの使う《紅蓮》とは違い、両刃式で、より大型である、ということが特徴の刀剣型アタッチメントですね」
しっかりとカメラへ見せつけるようにしながら、その幅広の刀剣を構える司。
「もともとS&Hは初心者向けの刀剣型アタッチメント《パーシヴァル》の開発元ですから、《ギャラハッド》はそれの正統後継機とでもいうべきでしょうか」
《〈パーシヴァル〉! 俺も初心者のころお世話になったわー!》
《あれって、他の刀剣型に比べて刃筋立てなくていいから、楽なんだよね。まあ出力不足が否めないからある程度経験積むと他の刀剣型に走っちゃうんだけど》
視聴者達がつぎつぎとそう告げてくるのを聞きながら、司は、ええ、と頷き、
「視聴者の方も仰るように《パーシヴァル》は〝どこの部位で当てても必ず切れる〟というのが特徴のアタッチメントでした。これは《ギャラハッド》も同じ。むしろ、出力が向上した分だけ威力も増強しています……まあ、それに比して扱いは難しくなりましたが」
苦笑を浮かべて告げる司の言葉を聞いて、感心の声であふれるコメント欄。
《へえ~。なるほど、そういう違いがあったんだ~》
《ちなみに〈ギャラハッド〉と〈紅蓮〉だったらどっちが強いの?》
純粋な疑問というようなその視聴者の言葉に、司は片手をあごへと当てながら考える。
「……そうですね。《ギャラハッド》と《紅蓮》。一概にどちらかが強い、とは言えません。純粋な威力ならば《紅蓮》の方が上です。ただし、その威力を十二分に発揮するにはきちんと刃筋を立てねばなりません。一方取り回しと出力は《ギャラハッド》が上です」
「……? あの、司さん。《ギャラハッド》は出力が上なのに、にもかかわらず《紅蓮》の方が威力は上なんですか?」
USAから向けられた当たり前と言えば当たり前な質問に司は頷きを返し、
「そこは、よく勘違いされがちなんですが、ここで言う出力とはアタッチメントが纏うエーテルの総量と考えてください。たいして威力は攻撃時にモンストラスなどへぶつけられる活性化エーテルの総量ですね」
「???」
USAが疑問の顔を浮かべたので、苦笑しながらも司はそれを解説する。
「要するに、種類の問題です。アタッチメントはエーテル体と同じくエーテルで構成されますが、その中でも攻撃に使われるエーテルのことを活性化エーテルと言います。この活性化エーテルの量は《紅蓮》の方が大きいので威力が強いのですが、一方で《ギャラハッド》は純粋な出力が大きいので、《紅蓮》に威力こそ劣れど、その頑丈さには定評があります」
《なるほど~》
《それは知らなかった~》
そうコメント欄で言う視聴者と同様にUSAも理解の表情を浮かべたので、それを確認した司は、さて、と呟きながらその手に持つ《ギャラハッド》を構える。
「そろそろ交戦距離にまで近づきましたね。それでは私の戦いを見てもらうとしましょう」
言いながら司は一歩を踏み出した。
だが、足取りはあまりにものんびりしたものだ。
「ちょっと、司さん⁉」
まるでちょっとそこへ買い物にでも出かけてくる、というような感じのゆったりとした動作でモンストラスへ向かい歩いていく司に面を食らって彼女の名を叫ぶUSA。
しかし司は、大丈夫、というように肩越しに手を振るばかりでその足取りは変わらない。
「───」
すると、なにを思ったのか、司は唐突に《ギャラハッド》を振り上げると、そのまま何もない空中に斬撃を叩き込むではないか。
モンストラスとの交戦距離からはあまりにも遠いにも関わらず、なぜそんな意味もないことをするのか、と有素が目を見開く中、さらに驚くべき行動を司はおこした。
「──さて」
くるり、と踵を返す司。
あろうことか、司は背後へと振り向き、そのままモンストラスへと背を向けるではないか。
「……っ! 司さんっ! 危ないです!」
モンストラスはもうすでにかなりの距離まで近づいている。
あと一歩を踏み出せば攻撃の範囲内だろう──そういう距離にいながら、しかし司は背を向けたままで、さすがのUSAも顔を真っ青にする中、そんな中で彼女はにこりとを笑い、
「ん? ああ、大丈夫ですよ、USAさん」
だって、
「──もう終わってますから」
斬ッ‼
瞬間、司の背後にいたすべてのモンストラスが滅多切りにあった。
「は──?」
何が起こったのかわからず、唖然とするUSAの目の前で全身をズタボロに切り裂かれた十数体のモンストラス達が、バラバラとなって地面に落ちる。
そうして吹き上がるのは広場全体を覆いつくすほど膨大な量のエーテル粒子だ。
一瞬にしてすべてのモンストラスが倒されたという事実にUSAも視聴者も唖然と固まる最中、司はその怜悧な美貌に笑みを浮かべながら言う。
「──刀剣型アタッチメント専用クラフトアーツ〈
空中に浮かぶエーテルドローンへ《ギャラハッド》を掲げて見せながら、告げる司。
「任意の場所、任意の時間に振るった斬撃を発生させる、というアーツです。これによって私は未来を切り裂き、モンストラスを退治させていただきました」
そう告げると、しかしそこで司は眉尻を下げるような表情をして、
「まあ、見たらわかるようにUSAさんのような派手さはありませんので、視聴者の皆さんには物足りないかと思いますが、これが私の戦い方となっています」
そう申し訳なさそうに司は言うが。
USA……いや、有素はA級冒険者の強さに息を飲まざるを得なかった。
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