第15話 USAの真価
「………」
もはや、言葉もなかった。
目の前で繰り広げられた光景に圧倒されるまま、何も言えなくなる司。
(……これが、USAさんの実力ですか……)
正直想定以上だ。
そうして恐ろしい才能に司が冒険者として、ただただ圧倒される中、コメント欄からこんな発言が飛び込んできた。
《ふむ。見事な戦いだった。司。君もそう思うだろう?》
まこてゃこと
「ええ。すばらしい戦いでした」
そうUSAを賞賛したうえで、司は視聴者に向けてUSAの戦い方を解説しだす。
「彼女の戦い方はいわゆる〝跳躍機動型〟と呼ばれる戦闘方法ですね。その名の通り、縦横無尽に床や壁、天井などを飛び回り、常に起動し続けることで相手を攪乱して、その隙をつくというヒットアンドアウェイの戦闘法となります」
《主に我がファームにかつて所属していた元
司の言葉に答えるようにして補足を入れてきた誠に、そうですね、と頷く司。
「はい、代表の言う通りです。黒輝君はどちらかと言えば速度重視。それに対してUSAさんは跳躍に重きを置いているように見えますね」
そこで一度言葉を切った司は、視聴者が理解する間を置いたうえで、こう発言する。
「今の戦闘を見るに。彼女は跳ね回ることにより、相手の陣形を攪乱し、その上で動きを制限しすることで一点にモンストラス達を集め、そして死角に回り込むことによって、それらを一網打尽にする……おそらくはそういう戦い方を得意としているのでしょう」
司の言葉に、おお! なるほど~! という声であふれるコメント欄にしかしそこで司は、ですが、という言葉を挟み込む。
「一方で、彼女の真価はそこではありません」
《??? それはどういうことですか?》
おもむろに司が呟いた言葉へ、疑問のコメントが返ってくる中、司は笑みを──その裏に薄く戦慄をにじませたその表情を浮かべ、言う。
「彼女の恐ろしさは、そのエーテル体とクラフトの天才的な操縦能力にあるのです」
言って司はUSAの方を示した。
それまで司が解説してくれているから、と黙りこくっていたUSAも、いきなり水を向けられて驚いたのか「うえっ」という変な声を出し、そんなUSAを見やりながら告げる司。
「冒険者をしている皆さんならわかるでしょうが、エーテル体とは生身と同じように動かせるようでいて、生身と異なる部分が多い。特に常人の30倍という身体能力は、わかっていたうえでも制御を誤るのが初心者冒険者の常です」
《ああ~。そういえばそうだったな~》
《俺もなあ、若い頃はエーテル体を誤って操作してそのまま壁に真正面からぶつかってな~》
《私なんて、走った状態から止まり切れずにすってころりんしましたわよ⁉》
そういうのはおそらく冒険者なのだろう視聴者達だ。
彼らの言葉を同意として得て、勢いをもらった司はさらに言葉を続けた。
「ええ、そうなのです。普通の冒険者はそうなる──でも、USAさんはそうじゃない」
《確かにそうだ。USAちゃんの動きは初心者離れしている!》
「はい。USAさんの動きは明らかに初心者のそれではありません。そして皆さん、気づいていますか? USAさんはアーツを〝発声無し〟に発動している、と」
司がそう告げると同時に、視聴者達からは一声に気づきの反応が返ってきた。
《あっ!》
《そういえば!》
「えっ、えっ?」
なぜ視聴者達がそのような反応をするのかわからず困惑を浮かべるUSA。
なので彼女は、視線を司へと向けてそれを問うていた。
「あ、あの。司さん。アーツを発声無しで発動している、とはどういうことですか……?」
首をかしげてそう質問するUSAへ、わかっている、というように司は頷き返してきて、
「いいですか、USAさん。本来アーツはその名称を発声して発動するものなのです」
そう言うと司は、物は試しと得物を抜き、USAへ見せつけるようにして構えをとる。
「──〈ヴォーパル〉!」
司の叫びに呼応するように刃からエーテルの噴出が置き、それは何もない空間を薙いだ。
「見ましたか、USAさん。普通の冒険者はいまのようにアーツの名称を叫ぶことで発動させることが常です。これも一種のモーションアシストですね」
そんな風に〈ヴォーパル〉を発動して告げる司に、しかしUSAが浮かべたのは疑問顔だ。
「えっ。でも、動画で見た冒険者さん達は技名なんて叫んでいませんでしたよね?」
USAが冒険者になるにあたって参考とした動画の多くでは、アーツの名称を叫んで発動、なんてしていることはほとんどなかった。
なのでそんな疑問を浮かべたUSAへ、はたして司は、
「ええ。その通りで別にアーツの発動には技名を叫ぶ必要はないんですよ」
「??? えっと、それってどういう……」
まるで先ほどの前言を翻すかのような司の物言いにUSAは意味が分からず困惑をその表情に浮かべる中、司は苦笑めいた表情を浮かべながらそれを告げた。
「これは、ある種の高等テクニックなんですよ。アーツの名称を叫ぶことなく発動する、というのは、おおよそ上級者と言える冒険者が習得している技術となっています」
言いながら、司は〈ヴォーパル〉のリチャージタイムが終わったのを確認して、得物を構えると、今度は無声でアーツを発動した。
先ほどと同じく光を迸らせて溢れだすエーテルの奔流。
「いまご覧になったように、上級者になるとアーツの技名を叫ばずとも発動することが可能となります……ですが、これを習得するには、いくらかの鍛錬を必要とするのです。にもかかわらずUSAさんは、それをすでに習得しているようだ」
そう司が告げるも、しかしUSAは恐縮したような表情になって、
「い、いやっ! 私だって、そんなすぐに習得したわけじゃないです! えっと30回ぐらい失敗してようやく〈ヴォーパル〉を発動できるようになりましたっ!」
あわあわ、と慌てながらそう告げるUSA。
なるほど、確かにUSAは〈ヴォーパル〉の無声発動には苦労したのだろう。
だが、司は知っていた。USAがとんでもないことをしてだかしていることを。
「USAさん。〈シールド〉は今日初めて使いましたよね? それはいつ練習しましたか?」
はたして、司の意地悪な質問に、USAは戸惑いながらこう答えた。
「え? えっと、いまさっきはじめて、ですっ!」
「……聞きましたか、視聴者の皆さん。いまさっき初めて使ったはずの〈シールド〉を無声で発動したのですよ、USAさんは」
《やべ~、まじやべ~》
《ほんと、いやですわねえ、奥さん。これだから天才は》
「えっと、私がやっていることってそんなにすごいことなんですか?」
そうひそひそと言葉を交わす司と視聴者達に、USAは自分がヤバいことをしたとようやく自覚してきたようだ。
なので、司はダメ押しとばかりに、それを告げる。
「……いいですか。通常〈シールド〉というのは〈ヴォーパル〉のように武器を振るえば発動するようなアーツではありません。その発動には強固なイメージを必要とし、視界の補助を受けたとしても、無声で発動できるようになるまでには上級者でも大変な苦労を伴うのです」
「は、はあ……」
いきなり説教じみた言葉が始まったことに引き気味になるUSA。
そんなUSAへ司は指を振りあげて、揺らしながら、なお言葉を続ける。
「たいしてUSAさんは、それをあっさりと習得してのけた。それどころかモンストラスの足止めに使うなどという応用までぶっつけ本番でしてみせたのです。これを天才と言わずして、なんというのでしょうか」
司にそこまで言われればUSAも自分がとんでもないことをしでかしたのに気づく。
なので、ごくり、と息を飲みながらUSAは司へ一つ問いかけをした。
「わ、私ってすごいんですか?」
はたしてUSAの問いかけに司は真顔となり、
「……視聴者のみなさん、言っておやりなさい」
《USAちゃん、マジ天才!》
《いま動画配信している冒険者の中で一番すごいのは間違いなくUSA! 君だ!》
《その才能に俺達は惚れ込んでるんだぜ!》
《もっと俺達に魅せてくれ! その才能を‼》
そうだそうだ、と次々と返ってくるコメントにUSAは目を回すような思いを抱き、あ、え、と要領の得ない声しか出せなくなった。
でも、USAだって褒められて嬉しくないわけじゃない。
「え、えへへ。えっと、そういう風に言ってもらってありがとうございます! 皆さんにそう言ってもらえると私、嬉しいですっ!」
ほおを緩ませてそう告げるUSAに、いったん静まり返るコメント欄。
《可愛い》
《やっぱり可愛い》
《ほんと可愛い》
《USAちゃん、マジ可愛い》
そうして、可愛い、可愛い、可愛い、という言葉で埋め尽くされるコメント欄。
と、そこで。
「おや?」
なにかに気づいた司が視線を向けると、そこにはUSA達のいる大広間に侵入する影が。
「どうやら、モンストラスのおかわりが来たようですね」
「わわ! じゃあ、戦闘ですね!」
そうして戦闘態勢を取ろうとするUSAを、しかし司は腕を振り上げることで押しとどめ、
「お待ちください。USAさん。ここは私が出ます」
「え?」
驚くUSAへ司は自身の得物を隙なく構えながら、それを告げた。
「USAさん。そして視聴者のみなさん。ここからはA級冒険者の戦い方というのをご照覧くださいませ」
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