第14話 圧倒的な勝利

「USAぁ~、チャンネルぅ~!」


 久しぶりにこの口上を口にしたなあ、と思いながら明るく有素──いな、動画配信冒険者USAはエーテルドローンへと向かって笑顔を振りまく。


「みなさ~ん、ごきげんよう~。動画配信冒険者のUSAですっ!」


 そんなことをUSAが口にすると同時に配信を見ていた視聴者から次々と返答が。


《よっ! 待ってました!》


《今日も可愛いよ、USAちゃん!》


《肩にちっちゃい兎の妖精さんでも乗せているのかい⁉》


 エーテル体の機能でUSAの視界上に表示された画面にはすさまじい勢いで視聴者のコメントが流れていく。


 前回急増した登録者数と視聴者数はいまも変わらず数が多く、それにUSAは内心で喜びを得つつも、こほん、と一つ咳払い。


「さてさて、今日もここ! 大江町ダンジョンを攻略していくよ~……と言いたいところだけど。本日みなさんにお知らせがありますっ!」


《お? なになに?》


《とうとうプロになるのか⁉》


《それとも収益化⁉ 何か知らないけどフライングでおめでとー!》


「わわ! みなさん、先走りすぎ! 私が言いたいのはそういうことじゃありません! 本日はなんと! このチャンネルにゲストの方が来てくれているんですっ!」


 先走ってUSAへとおめでとうを呟きだしたコメント欄へ慌ててそう告げるUSA。


 思わず彼らの言葉を否定してしまったが、視聴者たちは不快に思っていないだろうか、とUSAが心配する最中、視聴者たちから返ってきたのは次の通りの反応だった。


《おおー、ゲストォ!》


《ゲストォ‼》


《ゲェェェェエエススススゥゥゥゥトォォオオオオオオ(超絶巻き舌)‼‼‼》


 なにか知らないが異様な盛り上がりを見せている視聴者たちへ、不安を払しょくされたUSAは苦笑を浮かべながらも、腕を振り上げ、そちらを示す。


「では、本日のゲストを紹介いたします! グノーシス・アドベンチャラーズ・ファーム所属のA級冒険者〝天道司〟さんですっ!」


 瞬間、エーテルドローンのAIがUSAの動作に従ってカメラを転身。


 そうして写したのは、怜悧な美貌を持つやはりコートのような衣装に身を包んだ女性だ。


 天道司である。


 有素とは違う刀剣型の武装を腰に吊るしながらたたずむその姿が映った瞬間、視聴者たちの反応があからさまに変容した。


《ふぁっ⁉》


《はっ? ええっ〈剣姫〉⁉》


《最近ガフが売り出し中な若手のエースじゃねえか⁉》


《えっ、本物⁉ 本物どすか⁉》


 そうして視聴者達が驚きを露わにする中、司はににこりと笑みを浮かべエーテルドローンのカメラへと視線を向ける。


「はじめましてみなさん。USAさんより紹介にあずかりました、天道司と申します。本日はこのウサチャンネルさんにお邪魔させていただきますので、以降お見知りおきを願います」


 丁寧な所作で一礼する司に、湧くコメント欄。


《UOOOOOOO! いま最も七星剣セプテントリオンに近い攻撃手!》


《この前の九楽ダンジョン単独踏破おめでとうございます!》


《えっ、ていうか、なに。USAちゃんのチャンネルにガフさんとこのエースが出てくるってことは、USAちゃんグノーシスに入るの⁉》


「わわ! ち、違うよ~。私はいまのところグノーシスとかのファームには入るつもりはありませんッ! 今回司さんは、大江町ダンジョンの調査にやってきたからその下見ついでに私からお願いして動画にでてもらっているんです!」


《私としては、君には是非ともうちに所属してほしいがね》


 コメント欄に流れた〝まこてゃ〟の発言に、ピシリと固まるUSA。


 たいして同様のコメントを見ていた司が、おや、と眉根を上げ、


「どうやら、代表もこの動画を視聴しているようですね。代表~、見てますか~」


《ああ、見ているよ》


《ええっ⁉ ちょっ、ガフさんんところの代表さんも見ているの⁉》


《このまこてゃってそういうことか⁉》


《ああ。住良木誠だから、まこてゃ!》


 まこてゃ! まこてゃ! と次々とコメント欄に表示されて、もはやUSAのチャンネルなのか誠のチャンネルなのかわからない状況になってきた。


《まあまあ、落ち着きたまえ。いまはUSAさんの動画配信に注目すべきだろ?》


《あ、はいっ! 落ち着きました。動画配信に集中します!》


 そのコメントを皮切りに落ち着きました! というコメントが次々と流れてきて、そうして一度静まり返るコメント欄。


 これは、自分が注目されているな、と内心で冷や汗をかきながらUSAは元気よく腕を振り上げ、さ~て、とことさら明るく発言する。


「本日はこの司さんと一緒に大江町ダンジョンを攻略していきます! 新必殺技も身に着けたので、皆さん、是非とも最後までご覧くださいね~!」


《うおおお! なんか情報量多すぎて、うおおお!》


《うおおおお!》


《うおおおお!》


 ……ノリの良い視聴者である。


 では、とUSAは司へ視線を向ける。


「司さん。本日はどうしますか?」


「そうですね。私としてはまずはUSAさんの戦闘を見せてもらいたいかと。動画は視させてもらいましたが、やはりあなたの戦い方を直接目にしてみたい」


「わっかりました~! では、いつも通りコボルドくん達がいるお部屋で戦闘かな? 視聴者のみなさ~ん、いつもと同じになるけど、大丈夫~?」


《俺は構わないぜ! 是非ともグノーシスの奴らに君の実力を魅せてくれぇ!》


《いいぞ、USAちゃん! やってやれ!》


《そこまで強くなるのに、眠れない日もあっただろう!》


 さっきからボディビルディングの掛け声を入れてくる人がいるけど、なんなんだろう、と思いつつUSAは踵を返す。


 そうして彼女が向かったのは、今いる場所から最も近い大広間だ。


 相も変わらず、というか、そこにはコボルド・ソルジャーたちが待ち構えていた。


「さあ~て、いっくよ~!」


 言ってUSAは走り出す。


 エーテル体が持つ力を余すことなく発揮して大広間を駆け抜けたUSAにコボルド達も武器を構えて迎撃の姿勢を見せた。


 そんなコボルド達へ真正面から突っ込んでいくUSA。


《ちょっ! USAちゃん、危ない!》


《うわ~、コボルド・ソルジャー相手になんてことぉ~!》


 さすがの視聴者たちも真正面から突っ込んでいくUSAにそういう反応を返すが、USAは笑みを浮かべて、それを流す。


 そうしてUSAとコボルド達が交差した。


 轟音。


 USAが振るった《紅蓮》とコボルド・ソルジャーの振るった剣が打ち合わされる。


 そうして鍔迫り合いとなったUSAとコボルドの一体を囲む形で、他のコボルド達が素早く散開し、USAの背後をとった。


 包囲し、背後から滅多切りにしようというのだ。


 さすが、モンストラスというべきか。


 こういうところが、いわゆるゲームの中のモンスターと、モンストラスの違いである。


 見事な連携を瞬時に行ってみせた犬面のモンストラス達はそのまま剣を構え、USAへと反撃する間も与えんとばかりに速攻。


 そうして迫ってきたコボルド達へ、だが、USAの表情は崩れない。


「ここ!」


 その瞬間、USAの背を囲うようにして半透明の青色をした障壁が現れた。


 エーテルで編まれたその壁はオプションクラフト〈シールド〉だ。


 USAの新必殺技が炸裂し、コボルド達は目の前に展開した壁にその攻撃を阻まれる。


 同時にUSAは足を振り上げて、鍔迫り合いをしていたコボルドの一体へ蹴りを叩き込む。


 彼女が叩き込んだ蹴りによってコボルド・ソルジャーが体勢を崩したのと同時に、USAは天へ向かって勢いよく飛び上がり、さらに空中で身をひるがえして上下反転。


 そのまま天井へと着〝天〟するUSA。


 上下反転した視界の中でUSAはコボルド達を見上げ、刀を腰だめに構えた。


「セェェェェイィィィイイヤアアアアアッ──!」


 クラフトアーツ〈ヴォーパル〉を発動。


 裂帛の気勢と共に振るわれた刀から、勢いよく活性化エーテルが噴出する。


 そうして空中を奔るエーテルの一閃。


 コボルド達はそれを前に、しかし冷静な態度で回避を試みようとしたが──USAがそれを許すことはない。


「───」


 視線だけで位置情報を確認。


 USAの脳内で正確に空間がイメージされ、瞬間USAはそれを展開した。


〈シールド〉だ。だが、展開した位置は目の前ではない。


 コボルド達の行くて。


 そこをふさぐようにして薄く、しかし足止めをするには十分は半透明な壁が生まれる。


 唐突に現れた障壁に阻まれ、退避が遅れたコボルド達。


 そこへ襲い掛かる〈ヴォーパル〉の一閃。


 一刀両断。


 哀れにも逃げ道を防がれたコボルド・ソルジャー達は〈ヴォーパル〉に薙ぎ払われ、エーテルの光と化して、USAに吸収されていく。


 同時に軽やかな動作で着地したUSAはそのままカメラへ向かって決めポーズ。


「いえ~い! 討伐完了!」


 圧倒的な勝利だった。

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