第16話 アリステラ・ダークロード

 魔王城の門を潜ると、魔王軍の精鋭(多分)たちが押し寄せてきたが、全て《威圧》で黙らせる。

「わあ、凄いね!」

「はい、とても荘厳です」

 高い天井、巨大な柱、一列に並ぶ騎士甲冑。確かに初めて見れば、美しく感じるかもしれないが、俺には見慣れた景色だ。

なぜなら、前世の頃と何も変わっていないのだから。

「こっちだ」

 もし勇者が初めて魔王城に入ったのなら、マッピングしながら魔王の間を探すことだろう。その間、罠や魔族軍との遭遇戦も考えられる。

 だが、元々ここは俺の居城だ。大きく改築されていれば話は別だが、どうやら前世のままのようだし、魔王の間の位置も変わっていないだろう。

「こっちだ」

 俺は二人を案内しながら進む。

「なんで分かるの?」

 エルマがコメントに困る質問をしてきた。何と言って誤魔化すか。

「魔法でしょう」

 と思っていると、カザリが助け舟を出してくれた。それに乗っかることにして何も言わなかったが、実際は魔王城でそういう魔法は使えないだろう。

 この魔王城には《妨害》の魔法がかけられているはずだ。

 魔王の間まで辿り着き、扉を開ける。玉座には小柄な女の魔族が座っていた。

「よ、よく来たな勇者よ! 我こそは魔王、アリステラ・ダークロードである‼」

 ダークロードの姓といい、魔王の称号といい、アリステラはおそらく俺の子孫なのだろうな。

 裏返った声で何かを叫んでいるが、気にすることなく玉座に近づく。

「さあ、こちらが名乗ったからには、そちらも名乗るがいい!」

「安心しろ、戦う気はない」

 俺は玉座の裏にあるコレクションルームへのボタンを押す。

「え? ちょ——」

 ガコン! と音がして、玉座がスライドし、隠し通路があらわになる。

「行くぞ」

 俺はエルマとカザリを手招きし、通路を進む。

「え、ちょっ、何で知って——」

 アリステラが後ろから何か言っているが、構わず進む。

「ようやく戻ってきた——‼」

 俺の叫びに、皆はビクリとするが、俺はそれどころではなかった。

「な、なんだ……これは……⁉」

 コレクションルームのコレクションが、減っていた。

 そもそも魔王というシステムは、俺が転生するまでの間に、よりこの世界の宝物を収集するためのものだ。

「貴様——‼」

 俺は本気の《威圧》でアリステラを見る。アリステラは失禁し、気を失った。

「はあ、俺のコレクションが……」

 俺が膝をついて項垂れていると、エルマとカザリが肩に手を置いた。

「ルビア、元気出して」

「お宝なら、また集めればいいではないですか」

 俺はため息をつき、立ち上がった。確かに、なくなってしまったものはしょうがない。それよりは、今残っている宝物の管理と、これから手に入れる新たな宝物に思いを馳せる方が有意義だ。

「とりあえず、アリステラを着替えさせてやれ、拘束も忘れるな」


「ん? ここは……」

「目が覚めたか?」

「ひい⁉」

 どうやら、本気の《威圧》を当てたことがトラウマになってしまったらしい。

「落ち着け、ここは魔王城地下のコレクションルームだ」

 自分の知っている場所であることで、幾分か落ち着きを取り戻したようだ。

「宝物庫の場所を知っていることといい、あの魔力量といい……あなたは一体?」

「俺の名はスペルビア・ダークロード。始まりの魔王と呼ばれている」

「何を馬鹿なことを! 大体あなたは人族、それも勇者じゃない‼」

 どうやら俺の名はかなり崇拝されているのか、アリステラは激怒した。拘束を振り解こうと身体を動かしている。

「俺の作った魔法で魂を遥か未来に《転生》させた。人族に《転生》したのは確かに予想外だったが、おかげで魔族では手に入らない聖剣を手に入れることができた」

 アリステラは俺の目をじっと見た。何か分かるのだろうか。魔法を使われている様子はない。

「確かに、それなら王族しか知らない宝物庫の入り方を知っていたのにも説明がつくわ」

 どうやら、アリステラは俺がスペルビア・ダークロードだと信じたらしい。

「拘束を解いてやれ」

 カザリが俺の指示通りにアリステラの拘束を解く。アリステラは俺の前に跪いた。

「スペルビア様。蘇る時を我らの一族は心待ちにしておりました」

「それで、なぜ俺の宝物がこんなにも減っている?」

「はい、武具防具は優秀な騎士兵士に貸し出したり、褒美として下賜したりしております。素材になりそうなものは錬成したりもしました」

「お前の代でか?」

「いいえ、もっと前の代からです」

 なるほど、つまり、俺の個人的なコレクションを、代々魔王が継承する財宝と勘違いして使ってきたわけか。

「それで、スペルビア様はこれからどうするおつもりですか? お望みとあらば、魔王の座を返還いたしますが」

「そうだな、とりあえず、返してもらおう」

 その時、辺りに轟音が響き渡り、地面が揺れた。

「な、何だ⁉」

 地震というものはあるが、この揺れは違う。地下であるコレクションルームまで揺れている。

「上へ行くぞ!」

 もしこれ以上揺れが酷くなれば、ここは崩落するかもしれない。

 地上に出ると、魔族たちが騒いでいた。原因はすぐに分かった。雲が割れ、光が満ち、そこから何かが出てこようとしているのだ。

「我の名は秩序神バウロス。勇者と魔王を兼ねることは許されん。よって、スペルビア・ダークロード。貴様に天罰を下す」

 どうやら、俺の客らしい。

「面白い。今まで色々な奴と戦ってきたが、神とやるのは初めてだ。コレクションに加えてやろう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る