第15話 魔族領

 マッシュに別れを告げ、決闘都市を出発し、魔族領に入った。

 人属領と魔族領の間にはほとんど町や村がなく、自然のままの荒野が広がっている。

「あ~もっと調味料とか持ってくればよかったな」

 よく分からん魔物を丸焼きにして食べる。調味料がなくなったので味付けはなしだ。転生したばかりなら、こんな食事も新鮮だと思ったが、何日も連続だと流石に飽きる。

「ルビアなら調味料も作れるのでは?」

「大雑把なものは作れるだろうが、繊細なものは無理だな。それに魔法で作ったものを食べるのはあまりよくない」

「なぜですか?」

「《作成》の魔法の手違いで毒を作成してしまった場合、危険だ」

 当然のことだが《作成》は毒物も作成できる。そして、いかに俺が腕に覚えのある魔技師だとしても、ミスがないとは言い切れない。

 万が一、調味料を作成したつもりで毒物を作成してしまった場合危険だ。

「二人は不味いと思わないのか?」

 食の進まない俺に対し、エルマとルビアはバクバクと食べているので、気になった。

「特に気にならないかな。スラムでは調味料なんて手に入らなかったし」

「私もです」

 まあ、二人が満足しているのならいいか。俺が我慢して食べればいいだけだ。


 そんなこんなで人族領と魔族領の間の荒野を抜け、村に辿り着いた。

「ここからの話だが、できるだけ魔族には危害を加えずに進みたい」

「何で?」

 俺が元魔王の転生者だからとは言いづらい。そんなことを思いながらチラリとカザリの方を見た。

 すると、エルマは何かを察したような顔で頷く。

「わかった。なるべく殺さないようにする」

 大方、カザリが半人半魔だから、魔族を殺したくないとか俺が思っていると勘違いしたのだろう。

「ルビア。私のためでしたら気にする必要はありません。私の父も母も既に亡くなっています」

「違う。俺が殺したくないんだ。分かったな」

「はい」

 カザリは照れたように頬を赤らめる。勘違いなんだがな。


 村に入ると、魔族の姿が目に入った。角が生えていて肌が紫色だが、それ以外は人族と変わらない。

 不意に魔族の子供と目が合った。

「やあ」

「ゆ、勇者だ‼」

 子供が叫んだのと同時、一斉に魔族の視線が俺に集まる。

「きゃああああああ!」

「勇者が攻めてきたぞ!」

「殺されちゃう!」

 辺りがたちまちパニックになり、村人が逃げ出す。だが、一方で武器を持って立ち向かってくる者たちもいた。若い男たちだ。といっても、持ってる武器も農具ばかりだ。

 俺は《威圧》で村人全員を気絶させる。さて、これでゆっくりと村の中を見て回れるな。

 辺りを見回すが、そこまで文明が進んでいるようには見えない。家も木造だし、農業で生活している。いや、農業も必要ではあるが。

 まあ、末端の村ならこんなものか。


 あれからいくつかの村や町を経由した。村はどこも似たような感じだったが、町には煉瓦や石造りの建物も見られた。

 前世の時代よりも進んでいるようなものは見受けられない。いいところ前世とトントンぐらいの文化レベルだ。

 妙だな、文化レベルの上昇があるとしたら、衣食住が最も最初に来ると思ったのだが。

 魔王城に近づくに連れて、段々と魔族軍の抵抗を受けるようになった。まあ、俺の《威圧》に耐えられるような骨のある奴はいなかったが。

 大きな町には流石に巨大建造物も見られたが、いいとこ人族と同レベルだ。

 前世でも人族とは戦争をしていたし、勇者は退けたが文明レベルは同じくらいだった。とはいえ、今世に蘇るまで全く発展していないというのも妙だ。

「明日はいよいよ魔王城に入る。準備はいいか?」

「うん、いつでもいいよ!」

「私も大丈夫です」

 明日はいよいよ魔王城だ。

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