第11話 決闘
と、いうわけで翌日の朝から俺たちは決闘場に来ていた。
「よう、よく来たな」
兵士が気さくに俺たちを案内する。決闘場では武器を使うし、奴隷も戦っている。兵士が必要なのは当然だろう。
しばらく廊下を歩くと、地下に繋がる関係者以外立ち入り禁止の通路があった。
「こっちだ」
兵士の案内に従って進むと、小奇麗な部屋に出た。壺や絵画、ソファなどがある中に、武器や防具などが並んでいるのが印象的だ。
「ここは試合に出る者の為の待機部屋だ。そこに並んでる武器や防具は数打ちの安物だが、武器を用意できなかった奴や、奴隷なんかが好きに使っていい。そこに通路があるだろ?」
俺たちが部屋の反対側を見ると、確かに両開きの扉があった。
「あそこから決闘場のバトルフィールドに行ける。鐘が鳴ったら、あそこから出て行ってくれ」
「分かった。何から何まですまない」
「いいってことよ。俺は決闘者や奴隷が逃げ出さないための見張りでもあるからな」
さて、では準備に取り掛かろう。
「二人とも、装備の調子を確かめておけ」
二人にはミスリル製の装備を与えているし、レベルもそれなりにある。いざという時は俺がカバーに入ればいい。これだけ安全マージンを取っていれば流石に大丈夫だろう。
俺は部屋にずらっと並べてある剣を手に取った。確かに、どれも普通の鉄製。《付与》もされていない数打ちの安物だが、手加減するには丁度いいかもしれないな。聖剣を使えば流石に死人が出かねないし、あれはできるだけ綺麗に保存しておきたい。
「おいおい、立派な聖剣とミスリル装備があるのに、そんなのを持っていくのか?」
「手加減用だ」
「ヒュー。自信満々だねぇ」
兵士は口笛を吹きながら言う。俺たちが逃げ出すとは心にも思っていないのだろう。まあ、良い装備を買えるということは、それだけ懐が潤っている証拠だ。中には貴族だからとか、実家がお金持ちだからとか、そういう奴もいるだろうが、俺たちはそうじゃないと知っているからな。
そんなことを話していると、鐘が鳴らされた。
「さ、選手入場だ。じゃ、頑張れよ」
「ああ」
扉を開け放ち、フィールドへ出る。相手はバンデッドアーマーを着込んだ盗賊風の男。地面は砂だが、あまり整備されていないのか、手の平サイズの石ころはゴロゴロしているし、刃物の破片も落ちている。
これなら《浮遊》と《射出》を使ったコンボは使えるだろう。
だが、問題はそこではない。
「なんで敵は六人もいるんだ?」
「ハンデだよ。ハンデ」
まあいい。俺がその分片付ければいいだけの話だ。
『さあ始まりました! 今回の試合は凄いぞ! な、な、なんとあのマッシュを破った今代の勇者の登場だ‼』
俺たちの紹介が終わると、相手の紹介が始まった。どうやら、あの六人は元盗賊の犯罪奴隷らしい。
『それでは、試合開始!』
俺は石や刃物の破片などを《浮遊》で浮かせる。
「魔法使いか⁉」
まあ、盗賊じゃ魔法使いを仲間にするのは難しいだろうし、仮にいたとしても、魔法使いの奴隷は貴重だ。死と隣り合わせの決闘場なんかに出すわけがない。
弾数は四。二人にも見せ場を用意しておかないとな。
「気をつけろ! 何か来——」
リーダーらしき人物が注意し終わる前に《射出》で弾丸を飛ばす。綺麗に四人の頭に命中した。本気なら頭に穴を開けて貫通させることもできたが、俺と相手の実力には手加減しても問題ないくらいに差が開いている。
ある者は頭に石が当たり、ある者は刃物の破片が刺さっている。
「さて、エルマ、カザリ。残りは二人で頑張ってみろ」
俺がそういうと、二人は嬉しそうに微笑んだ。
「うん! 任せといて‼」
「はい、分かりました」
カザリは剣を抜き、エルマは杖を構える。そこまではよかったのだが、先に飛び出したのはエルマだった。
「とりゃああああああ‼」
杖で相手の頭を殴りつける。相手は慌てて剣で防ぐが《強化》が掛かっているミスリル製の杖だ。
《付与》もされていないただの鉄の剣では、本気のエルマを止めることはできない。剣は半ばから折れ、その破片が相手に降り注ぎ、追撃でエルマの杖がフルスイングされる。
「がはっ⁉」
相手は訳も分からず吹き飛んだ。エルマも強くはなったが、やはり神官の戦い方ではないな。まあ、回復役としてだけの神官より、戦いもできる殴り神官の方がいいこともある。なにより、自分の身を守れるから、俺としてはありがたい。
「手伝おうか?」
エルマは得意げな顔でカザリに言う。
「不要です」
カザリはいつになく冷たい声で返す。まあ、エルマは攻撃一辺倒な戦い方だったのに対して、カザリは剣による攻撃だけでなく、盾による防御も加えてバランスよく立ち回っている。実戦で役に立つのはこちらだろう。
盾で敵の視界を塞ぐと、剣で死角から足を切りつけた。
「あぐっ⁉」
転倒する相手の頭に、カザリは容赦なく、ミスリル製の片手剣を突き刺す。
ミスリルの剣の切れ味はとてつもない。頭蓋骨をもろともせず、勢いよく突き刺さった。
『勝者、スペルビア一行!』
実況が俺たちの勝利を宣言し、試合が終わる。
「大丈夫か?」
俺とエルマは相手を殺すことなく勝利できたが、カザリは殺してしまった。殺しを体験させるために決闘させた面もあるとはいえ、気分のいいものではない。カザリがもうやりたくないといえば、別の道を探すつもりだ。
「はい。どこも怪我していません」
だが、意外にもカザリはケロッとしていた。返り血も少なからず浴びているのだが、余り血を恐れていない。
「いや、そういうことじゃなくて。人を殺しただろう?」
「私は今まで人から奪ったもので生活してきました。殺す覚悟も、殺される覚悟もしているつもりです」
カザリの腹の決まり用には感心した。
「エルマ、お前はどうだ?」
「殺す覚悟があるかどうかは分からないけど、スラムでは刃傷沙汰は日常茶飯事だったから、血を見るのは慣れてるよ」
「そうか……」
元々の性格ではないと思いたい。性格は顔に出る。醜い性格をしていれば、顔も醜くなっていく。連続殺人鬼の顔を見たときに俺はそう思った。
二人の顔は綺麗で無邪気だ。ということは、性格も綺麗だと思いたい。
とすると、環境が悪かったか。まあ、スラムで環境がいいというのはあまり聞かないが。
とりあえず、二人は人殺しを忌避しないようだから、この決闘場でも、やっていけるだろう。
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