第12話 再戦

 一週間、俺たちは毎日一試合だけ決闘場で戦った。結果は連戦連勝。そのおかげで、俺たちのチームの人気は鰻登りだ。

 そして、マッシュとの再戦の日がやってきた。

 待合室で試合開始の時間を待っていると、ふと二人の装備に目が行った。

 ミスリルといえど、傷つかないわけではない。二人の装備も度重なる連戦で大分細かい傷が付いてきた。

「装備を新調するか?」

「まだ壊れたわけではありませんが?」

「細かい傷が付いてきただろう」

 俺が鎧を指さすと、カザリは満面の笑みで答える。

「この傷は今まで戦った証です。むしろ誇らしいです」

 そういえば、魔族軍の中にも「傷は勲章」と言って、傷を見せ合ったり、自慢したりする奴がいたな。

 俺は自分の魔法道具に傷が付くのは嫌だったが。

「時間だ」

 見張りの兵士が告げ、俺たちはフィールドへ移動する。

『さあいよいよ世紀の一戦! 勇者スペルビア対、没落勇者候補マッシュ‼』

 俺たちは互いに向き合って武器を引き抜き、構える。まあ、俺は何もしていないが。

『試合開始!』

 実況が戦闘開始を告げると、取り巻きがカザリとエルマに一人ずつ向かってきた。エルマとカザリも俺を信じてくれているのか、守る気がないのか受けるつもりのようだ。

 まあ、二人のレベルは取り巻きと同じくらいだし、装備も取り巻きより格段に良いミスリルだ。まず負けはないだろうし、負けてもフィールド内ならフォローも間に合うだろう。

 という訳で、俺とマッシュは実質一対一で戦うことになった。

「頼みがある」

「安心しろ。手加減ならしてやる」

 マッシュは俺の軽口には反応せず、ゆっくりと近づいてきた。俺はいつも通り《浮遊》の魔法で石ころや剣の破片を浮かせようとすると、マッシュが手で制してきた。

「剣で戦ってみてくれないか?」

「ふむ」

 剣の心得がないわけではないが、マッシュと張り合えるか。マッシュは剣に関しては中々だ。

「いいだろう。だが、死ぬ気はない。負けそうになったら魔法を使わせてもらうぞ」

「ああ、それで構わない」

 マッシュが近づいてくるが、俺は魔法で迎撃しない。聖剣とただの鉄剣じゃおそらく鉄剣が斬れて終わりだ。勝負にならないだろう。

 俺は手加減用に持っていた、闘技場で手に入れた数打ち安物の鉄剣を抜き、構える。

「来い」

「行くぞ」

 マッシュが上段に剣を構え、振り下ろす。単純だが、鋭い攻撃だ。

 俺は剣を使って受け流し、そのまま隙が生まれたマッシュの横腹に剣を叩き込む。だが、マッシュは盾で受けた。

 それからしばらく斬りあったが、俺とマッシュの剣の腕は拮抗しており、中々勝負がつかなかった。

「なかなかやるな」

「初めてお前と張り合えた気がするよ」

「さて、じゃあ本気だ」

 俺は魔法を使う。元々俺の剣術は魔法剣士だ。魔法と剣術を組み合わせる前提で作られている。

「《強化》《防御》《集中》」

 魔法をかけ、踏み込む。今までとは比較にならない速度での踏み込みに、マッシュは着いていけない。

 辛うじて剣で受けようとするが《強化》のかかった剣の頑強さと腕力でマッシュの剣を叩き折る。

「ぐっ⁉」

 マッシュは最後の悪あがきに、近距離で魔法を放とうとする。

確かに攻撃魔法は至近距離で放てれば強力だ。だが、魔法を使う時にはタイムラグがある。

「がはっ⁉」

 俺はマッシュの顔面を殴りつけた。《強化》された腕力で殴ったので、手加減していても勢いよく吹き飛んだ。

 至近距離なら、魔法を使うよりも、体を動かす方が速い。

 マッシュが気を失ったので、辺りを見回してみると、エルマもカザリも既に取り巻きを倒し終えていた。しまった、二人の注意を怠っていた。

取り巻きは死んではいないようだ。二人とも強くなったな。

 ともかく、これで勝敗は決したようだ。

『勝者、スペルビア一行‼』

 観衆からは歓声半分罵倒半分というところか。


 俺たちはジョージと会い、賞金を受け取った。いつもは兵士が賞金をくれるのだが、今回は支配人直々だ。

「いやあ、流石は勇者様。マッシュ様もかなり強いはずなのですが、相手になりませんでしたね」

「マッシュは?」

「はい、一応治療は施しましたがまだ目が覚めておりません」

 あいつは貴族の割には結構タフだし、時期に目を覚ますだろう。

「二人はどうする?」

「今日はもう疲れたし、美味しいものでも食べてこようかな~」

「そうですね。今日はもう戦えないでしょうし」

 意外だな。エルマはともかく、カザリは腕が千切れるまで剣を素振りするとか言い出すと思ってた。これは二人を近くに置いておくいい影響だな。

「そうか、なら楽しめ」

 俺は賞金の中から金貨を一掴みずつエルマとカザリに渡す。

 二人には適当に金を与えているが、あまり二人とも出費をしないので、結果的に俺が管理する流れになっていた。

「うん、ありがと」

「ありがとうございます」

 俺は魔力を回復しておきたかったし、たまには二人の仲を深めたかったので、一足先に宿に帰ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る