第9話 宝箱
迷宮に潜り始めて数週間が過ぎた。装備にものをいわせて第五階層まで進み、すでにエルマとカザリのレベルは三〇近くになっている。
そろそろ一人前の冒険者と言っても遜色のないレベルだ。
「ルビア、何かあります」
「何かっていうか……」
「宝箱だ!」
迷宮の道端にドンと宝箱が置いてある。宝箱を見つけるのを楽しみにしていたが、まさかこんな風に見つかるとはな。
開けようとするエルマを手で制する。
「待て、罠かもしれない」
《感知》を使って魔物が化けていないか、罠がないかを確認する。
「大丈夫だ。開けろ」
エルマが宝箱の蓋を開ける。
「これって……」
入っていたのは一振りの剣だ。手に取って《鑑定》を使うと、《切断》の魔法が付与されているらしい。
正直、迷宮産の宝だというからどんな物が出てくるかと楽しみにしていたが、人間が作った魔法道具と大差ないな。
「宝箱も見つけたし、そろそろ次に進むか?」
「そうですね、レベルも上がりましたし」
「そうだね。魔王も倒さないといけないし」
そうだった。二人には俺が始まりの魔王、スぺルビア・ダークロードの転生体だということを話していなかった。
正直言って、俺は今代の魔王を殺すつもりはない。魔王城の地下のコレクションルームにある俺のお宝を回収さえできれば、そのまま魔王を続けてもらって構わない。
俺が魔王に返り咲くことも考えたが、魔王っていうのは何かと忙しいからな。魔王城に集めた研究資料も頭の中に入っているし、どこかにまた拠点を作って、魔道具の研究に没頭したいものだ。
今日は宝箱も手に入ったし、早めに切り上げ、部屋で地図を広げて三人で囲む。
「次向かうとしたら、決闘都市になるな」
「「決闘都市?」」
「決闘場が目玉の場所だ。昔から腕に覚えのある剣士や騎士が修行に来る都市として有名だった」
「そこにしようよ!」
「それしかないと思います」
まあ、そうだな。もう一つのルートは小さな村落を通るルートだから、修行にはならないだろう。
だが、危険もある。
「決闘場に出場したら、自分か相手のどちらかが死ぬまで出られない。その覚悟があるか?」
実際は、王侯貴族が試合を止めれば両方生き残れるが、コネがない限り自分の試合を止めてくれる保証はない。
そして、コネがあるものは剣闘士や奴隷になんかならない。
だが、まあ、決闘場にはチーム戦もある。俺が介入できれば何とかなるだろう。もし俺より強い奴が出てきたら奥の手を使おう。
「出発はいつにする?」
俺たちは賃貸ではなく宿屋に泊まっている。いつでも引き払うことが可能だ。
二人は口を揃えて言った。
「「明日」」
若いとはいいものだ。行動力がある。
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