第2話 夜の一点鎖線
お母さんは真正面からじっと私を見つめた。1分、2分、それ以上は分からなかったけど、流れをとんとんと切るように歩く音が聞こえた。
「真波だ」
物分りの良い双子の妹、真波。私を追って来たのかな、なんてらしくもなく思った。双子は不思議な何かで繋がっているとスピリチュアルな世間は言うが、私と真波の繋がりは不思議じゃない。ただお互いを分かっているから生まれるものだった。
「ただいま。花見の面倒はうちが見るよ」
真波は足に馴染んでいないローファーを脱ぎながら、至って当然だ、ピーマンは苦いし梅は酸っぱいんだ、とでも言いたげな口調で放った。花見とは私のことだ。春に産まれた私達双子は、花のように美しいものを見て育って欲しいと名付けられた花見と、どんな波が押し寄せようと真を信じて生きて欲しいと名付けられた真波で構成されている。真波は花のように美しい。逆に真波は、私が真なんだと昔言っていた。小学校高学年、アニメや漫画に憧れる年頃だった。
「言いたいことは沢山あるけど、お母さんだって面倒見るわよ」
池に浮かぶ蓮のような笑みを浮かべたお母さんが、おやつを用意している。真波が大好きな強い炭酸と、私が好きなチョコレート。ちなみに相性は最悪。絡まった知恵の輪みたいな雰囲気は無くして、担任のポンコツエピソードを笑いながら話した。私はこの家が好きだ。太陽が眠って、月が挨拶をすると、お父さんが帰ってくる。今晩はその父の好物、もつ煮らしい。ネギを多めにのせてあげよう、なんて思った。
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