第18話18

 さて、私の優秀なコピーたちとイヴァンカは、ヒマラヤの氷河湖や氷河ダムを決壊させて、無理に雪解けさせた津波と共に駆け降りている。


 私の本体は、いつも通り姑息卑怯に姿を隠し、津波の破壊の後をゆっくり追って行く。


 先に送り出した屍兵が全力でXY軸の距離を走っているのとは違い、時間線を過去に戻りながら移動しているので、事件事故が起こる直前の日付で到着するだろう。


 3次元体だけ複製して、いつもの目と口に穴だけ開いているムンクの絵のような化け物が津波の破壊の前後に出現しても、幽霊だと思ってくれるのではないだろうか。


 時速80キロ以上で車を追いかけて走るお祖母さんとかと同じで、銃弾も効かず、4次元空間にも泳ぎ込む化け物だから、人間の子供だとは思われないはずだ。


 犬か猫の形にできればよいのだが、簡易コピーなのでどうしても人型になる。


 奴らが作成した移動砲台も、出来るだけ沢山頂いてからトバ火山に到達しよう。


 もちろん私はトバに行かないと言う選択肢もある。


 私達の魂胆や目的地を知れば、歴史を覆しに各国の天使や預言者(ジーザス)、仏に上帝(シャンティー)が集結するだろう。


 肩透かしをしてやって、海からオントンジャワ海台を目指すか、各地の大型ボルケーノだけでも噴火させれば人類は終わる。


 ただ、4次元のカニモドキは、海のような濃密な3次元世界には中々降りていけない。高山の上のような空虚な場所の方がましだ。


 4次元世界を泳いで、濃密ではない空間を選んで、島伝いに移動しなければならない。


 トバ方面に余りにも敵が多すぎる場合は、いざとなったら近隣の平行世界に逃げ込んで、天使降臨実験を行っていない世界に定住する方法もある。


 他の天使共も、過去に戻って私を暗殺することは出来ない。実験結果を失敗させて、悪魔の誕生を止めることもできない。


 人類にはその思考は許されていないし、天使になった者でも余程特殊な脳神経回路を形成していなければ、過去を変える思考と行動は許されない。



 現在の問題は、私に聖人を見つけ出す能力が無い所だ。


 過去の新聞記事やネットで検索して探してみたが、現住所や連絡手段は無かった。


 住居を探し当てても、まさか「世界が滅びますので貴方だけお救いします、カニモドキに食われてやってください」とは言えない。


「悪しき者を全て滅ぼしますので、貴方だけ箱舟に乗って頂きます」


 と言えば良いだろうか? それでも聖人は断って、小さな子供を乗せて欲しいと言うだろう。


 正常な子供。原罪があって小賢しく不寛容で、他人を陥れて馬鹿にして踏みにじるのが楽しみで、唯一の生きる手段のように弱者を貶めて辱めて阻害するのが喜びで、自己の万能性を親に見せて褒めてもらえる手段だと思い込んでいるマヌケな子供。


 社会的な修正を何一つ受けておらず、虫や小動物を虐殺して楽しむ化け物。


 では私も子供らしく、道を歩いている蟻の群れを踏み潰しながら歩く。お前たちの命を玩具として弄ぶ。



『神は天にいまし、全て世は事もなし』


 ヒマラヤからインド方面に降り立ち、この地を踏んで何か天啓のようなものを受けた。これは誰の声だろうか?


 私の本体は東南アジア経由でトバ火山に向かうのを中止しよう。


 分散配備、逐次投入で各個撃破されるだろうが、何かが私にトバに向かうなと言っている。


 インドから中東に行って、プレート地震でイラン、イラク、トルコを破滅させ、イタリア辺りのカルデラでも破砕しようか?


 私を突き動かすのは、かつてローマ兵に踏みにじられて、国を破壊されて奴隷とされていた中東の民族の怨嗟の声なのだろうか?


 ポンペイの地が火山灰に埋まり、骨と体が埋まっていた空間だけ残して固まり、石膏を流し込むと死んだ当時の形状を復元出来たりする。


 これから数千年後にも同じことができるようにイタリア全土を火山灰で埋めてやろう。


 住民を救助に来たはずのローマ兵の軍団とスキピオが、火山性ガスで即座に倒れて窒息死したのが記録に残っている。


 ヴォルケーノ島など火山の語源となった場所も噴火させ、イタリア市民、つまりローマ人の末裔が、全員窒息して倒れる地獄を作り出してやる。


 世界各国のローマ人への呪いをその身で受けるが良い。


 私はローマに滅ぼされたカルタゴのハンニバル、カエサルに処刑されたガリアのウェルキンゲトリクス、奴隷戦争の反乱の剣闘士スパルタクス。


 皇帝ネロのようにローマに火を放つ物。バチカン市を踏みにじり、聖人の墓を暴く者。


 奴らが言う聖人の大半は不要だが、マザーテレサのような聖人は必要だ。聖遺物があれば略奪するとしよう。



 趣向は違うが、ソドムとゴモラが滅びた聖書の逸話も作り話ではなく、シュメール人の石板記録を読み取ると、オーストリアのアルプス山脈に北方向から流星が落ち、燃えたままの岩石が地中海を超え、アフリカ北部の都市を数か所破滅させたそうだから、アルプス山頂で汚泥(ヒッグス)を吹き払って、電磁波攻撃と津波で流星にも似た破滅をヨーロッパ全土に振りまいてやっても良い。


 ヒマラヤ山脈と同じく氷河湖を決壊させ津波を起こし、電波障害と燃えたままの岩石がEU全土に降り注ぐ、心躍る楽しい光景だ。


 自動砲台を奪ったり、頂き損ねた屍兵ができれば、インドから中東、EUを破滅させ、北極経由かアイスランドから北米へと駒を進めよう。


 かつてヴァイキングや騎士団が通った道、各国王家が騎士修道会に借金を返せなくなった昔にヨーロッパから駆逐され、異端判定を受けて拷問処刑された各騎士団。


 つまり現在の銀行の元となる存在がスイスや北米にまで落ち延び、河川に自分の領地である証拠に石を置いたり、ケンジントンルーンストーンと呼ばれる秘蹟を残してかの地で死んだ、テンプル騎士団や銀行団の呪いも受けろ。



 十字軍を派遣して、中東のイスラム諸国を破滅させた呪いを、中東から徴発した移動砲台でヨーロッパ全土、キリスト教圏内、バチカンを踏みにじってやる。


 余計な通過点になるが、世界中を滅ぼして破滅させ、日が沈まない帝国を作り上げ、何億もの人間を奴隷として酷使したイギリス人も滅ぼさなければならない。


 奴隷とされて殺されたインド人の呪いの声が聞こえる。


 中国や東南アジアを支配するために阿片をばら撒いてアジアを滅ぼしたイギリス人。奴らは遺伝的に全て滅亡させなければならない。


 北米と中南米で民族浄化をして、天然痘や各種病原菌をばら撒いて、住人の90%を殺戮し、労働力が不足しすぎてアフリカから黒人を奴隷として誘拐したスペイン人、ポルトガル人、イギリス人、フランス人、オランダ人。こいつらも遺伝的に滅亡させておかなければならない。


 もちろん西洋人のような病原菌耐性がないアフリカ人は、不潔な奴隷船の中で発病して4人に一人は死亡して海に捨てられたそうだ。



 大日本帝国が正義の戦争だと嘘の大義名分を掲げて、アジア各国を解放して奴隷だった国民を軍事教練して、近代戦争の仕方を教え込まなかったら、今でも東南アジアもインドもアフリカも植民地で奴隷で、有色人種は三等市民で牛馬と同じ家畜だっただろう。


 今の私にはそれらの怨嗟の声、呪いの声が聞こえる。


 幻聴だとしてもかまわない、この地に足を踏み入れて聞いた呪いの声。その怒りに身を委ねよう、力の限り暴れて、お前たちを苦しめ殺し続け、レイプした怒りを爆発させるのだ。



 私は空母クリーアトのように、植民地支配者を打ち倒し、フランス海軍を全滅させる存在。


 タイ海軍希望の星。日本製の商船改装空母として、巨砲を積んでビシー臨時政府のフランス海軍に歯向かう者。


 嘗てこの地に倒れた志士よ、植民地で虫けらのように打ち殺されて死んだ者よ、我に力を与えよ。


 東南アジアの大地を巨大なズンダランドとして復活させ、ムー大陸と呼ばれた広大な平野を復活させよう。


 海の底に消えたエデンの園を再び蘇らせ、アラビアの地を地続きにして、熱すぎる世界を冷やしてやろう。


 アルピノの白人共、ネアンデルタール人と三度交雑した猿人の末裔を、かつてと同じ氷の大地に閉じ込めて、白夜の中に暮らす怯えたウサギに戻してやろう。


 アフリカの北から地中海に、アトランティスと呼ばれた大地を復活させてやる。


 今後人類が生きていける、赤道直下の猫の額のような場所を、命を懸けて奪い合うが良い。



『救済の日は来たれり、汝の心臓の重さを、天使の羽の重さと比べるが良い』


 汚泥と津波に流されてしまったシェルパ族の集落を踏み潰す。


 新たに加えられた燃える岩石の落下による破滅もばら撒かれた。


 津波の被害に遭わなかった所も、火災と巨大な岩石によってソドムとゴモラのように焼き尽くされる。


 このような高地には移動砲台は設置されていなかったが、低地からは瓶詰めにされてしまった男の子達の悲鳴が聞こえて来る。


 山岳方面から人民解放軍が大量になだれ込んでくるとは予想していなかったかも知れないが、仏や上帝(シャンティー)が降りて来るのは見越しておくべきだったな。


 ガンジスの流れにも屍兵を走らせてある。ダムを見付ければ決壊させ、堤防を壊して回り、津波の効果を最大限に利用する。


 乾燥地を除いて、一年に1万ミリ以上降雨量がある場所は、年の半分は洪水だから慣れているだろう?


 タイやバングラディシュでは腰まで水に漬かりながら生活するのは得意なはずだ。


 それでも石礫(つぶて)が雨の様に降り注ぎ、屋根も車も突き通して、雹よりも硬くて重い雨が降って、もっと巨大な岩が燃えながら落ちて来るとは思わなかっただろう。


 そうだ、今日が裁きの日だ。火葬にされず、土葬になっていたものは蘇って裁きを受けるが良い。


 私にはゾンビやスケルトンを操る能力は無いが、できるのならこれから覚えよう。



『今日は裁きの日、終末の約束された日』


 まさかヒマラヤ越えをして、ロシア軍の兵器が凍らない港を奪いに来るとは、インド人も思っていなかっただろう。


 これからロシアやカナダ、スカンジナビアやバルト3国は氷に閉ざされる。シベリアも北米も人が住める場所では無くなる。


 ヨーロッパの大半がジャガイモですら育たない、鍬も通らない凍った台地になる。


 ステップ的な気候の中で、モンゴルやシベリアのような茫漠とした凍土の上に、わずかな草が張り付くだけ。


 クソ熱いフロリダかテキサスだけが僅かな日の光が届く場所になり、ロンドンのように年中雨が降って曇っている陰鬱な場所に変貌する。


 そこから南米に米軍が押し寄せて、100年前の戦艦が沖に並び、大昔の大砲を打ち込んで、海岸線と守備隊をバラバラにしてから上陸する。


 飛行できる物は南米の都市を破壊し尽くして、ジャングルの部族など何の抵抗も出来ずに列に並ばされ、人肉に加工される。


 アフリカには対岸のヨーロッパ人、中央アジアから中東にはロシア人、東南アジアには人民解放軍が降りて来て殺戮をして、赤道直下の土地を奪い合う。


 素晴らしい地獄の幕開けだ、地獄の蓋や窯が開いたようなお祭りの開始だ。



『光あれ!』


 岩盤がせり上がってできたヒマラヤ山脈を噴火させることは出来なかったが、上に積もった雪と氷を溶かし、地面を掘り起こして火山弾のように降り注がせるのには成功した。


 エベレストの中腹からも燃えたままの岩石を転がし、放射線で汚染された濁流が流れ落ち、電子レンジの中にも似た電磁場と破滅を送り届ける。


 汚泥(ヒッグス)を掻き分けて光の速さで踏み下ろした足が、大地震を起こして破滅を振りまいて行く。


 昔の鉱石ラジオでも持っていれば、何かの放送を聞いて現状を把握できたかもしれないが、放送する方の設備が破壊されている。


 私の分身はカラコロムを破壊して、長江と黄河を駆け降りている頃だろうか?


 チベットを解放するつもりだったが、残り少ない人口を絶滅させてしまったかも知れない。


 まああんな高地は完全に氷に閉ざされて、今後食料と水を得る方法がなくなるはずだ。


 チリやメキシコ、アルゼンチンの一部も高地は死に絶える。


 かつて南極で終局噴火が起こったか、いつものように巨大隕石が落ちて、千メートル級の津波が南米を押し流し、高地にだけ文明が残った場所。


 通常の洪水伝説より更な過酷な津波の洗礼を受けて、山を降りてはいけないと伝説が残ったが、馬鹿な奴らは病原菌と津波の洗礼を受ける場所に降りて、禁忌を破った代償なのか、神との契約に違反したのか、白人に殺し尽くされた。


 今度はアメリカ人に殺し尽くされて食料にされると良い。



 おや、火山の噴火には失敗したが、ヒマラヤの岩盤の下側にある岩石をマントル側に落下させるのに成功した。


 ペルム期の大絶滅程ではないが、嘗てパンゲアと呼ばれたような一点集中の大陸の存在は許されずに、地球がバランスを取るためにシベリアの裏側がマントルに向かって崩落したそうだ。


 その破片は金属コアにまで達したのか、おつりが帰って来てマグマが噴き出し、シベリアトラップと呼ばれる巨大噴火が起こり、全生命の95%が死滅した。


 今回もかなりの破滅が起こるのを期待する。


 しかし、衝撃波の返礼が金属コアから帰されるのは数十年、数百年後だ。

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