第17話17

 捨てた死体を追走する振りをして、鈍足の砲台にはできない速度で追い掛ける、異常な速度で移動する「中国軍友軍機表示」の天使で仏。


 特に区別する表示がないのか、移動砲台が天使の速度で行軍しても誰何されていない。


 まだ操縦席を汚泥(ヒッグス)より上には上げていなかったが、軍人の体が蒸散する前に、脳に侵入して記憶を盗んでやる。


 瓶詰めの死体の方なら本体と再融合してしまう可能性も無くも無いが、普通の人類には無理だろう。


 衝撃波で耳と目から血を吹いて半分以上死んでいるが、脳みそを食らってやる。


 寄生体の触手を一本捩じりこむが、共産党への忠誠とか余計な物を拾って来ないでくれよ。


(おとうさん、こわいゆめを見たんだ、車に鬼がのりこんできて、たべられてしまうゆめ)


 いきなり余計な記憶か。それは夢じゃない、お前はもう悪魔で鬼に食われてしまったんだよ。


 それだけ親にまで愛された人生を送って、大学まで卒業して共産党にも軍にも合格? さらに優秀な兵士として上帝(シャンティー)機の搭乗者にまで選抜されたのか。


 そんな幸せな人生なら、今ここで死んでも悔いはないよなあ?


(やったよ母さん、俺が新兵器の搭乗者に選ばれたんだっ、喜んでくれっ)


(ああ、良かったねえ、お前は自慢の息子だよ、これからも国と人民に奉仕するんだよ)


 クソッタレ、お前の自慢の息子は私が食い殺してやったところだ。もうすぐ脳死するから悶え苦しんでから死ね。


 さあ、お前の「お母さん」の質問に答えろ、上帝機の配備数は? 本物の上帝で佛(ほとけ)に成れた奴の人数は?


(え? 俺が乗ってるのは上帝機342だよ? 配備数までは教えられてない)


 中国人は軽く300人も瓶詰めの子供を製造しやがったのか? 鬼はお前らだ。


 国境に近い僻地のダムにまで配備されてるはずだ。せめて100番台から配備とか、200番までは実験機で失敗続きと言ってくれ。


 仕方ない、私の本体とイヴァンカ、その300機以上、一機残らず乗っ取るんだぞ。



 中国語も覚えた、さっきから通信機が何かがなり立てているのも、何とか聞き取れるようになってきた。


「上帝機342、応答せよっ、何が起こっている? 追撃中の敵機を破壊せよっ」


 クソッ、喋れっ、瓶詰め。


 瓶詰めにも操り糸を垂らして、死体に無理やり通信させる。


「おじさんたち、みんなやられちゃった、ぼくがおじさんたちのかたきをとるんだ」


 取り合えず、そう言う事にしておいてくれ。始動にかかわる技術者、軍人、操縦者、砲手、全員死亡、健気な瓶詰めが危険を顧みず、ロシア製の天使で上帝を追い掛けているんだ。


「了解、作戦行動認可、自爆装置解除」


 チッ、中国語を覚えて助かった、拾ったアイフォン使ってアクティベーションロック食らうところだった。盗品なんか使うもんじゃない。


 その装置はどこにある? 馬鹿か、操縦席に置いてあるだけだ。もう私はそこに居ない。上から操り糸で操縦者と瓶詰めに繋がってるだけだ。


 人類では配線ができないから、4次元から降ろしてもらった上位生命体に寄生体を付けて、瓶詰めの男の子ぶら下げてそのまま使ってるのか? 防御力ゼロの安物め、ロシアの廉価品以下のモンキーモデルだ。せめて寄生体か瓶詰めだけでも上にあげろ。


 瓶詰めから伸びた寄生体の触角、寄生体、触手から上位生命体、長々と操縦席まで引き回してあったが、寄生体も上帝カニモドキに収容して、操り人形の3次元体だけを操縦席に置く。


 高速移動で操縦席ごと暴れて、人間の死体が転げまわってシートから外れた手足と血飛沫が飛ぶから、搭乗口を開いて死体を捨てる。


 瓶詰めは固定してあるから通信機代わりに置いておくか。



「坊や、すぐにそっちに向かう、一人でやろうと思うなっ、叔父さんが行くまで待つんだ」


 自由に移動できる奴、本物の上帝(シャンティー)がこっちに向かっている。なんか気の利いた事言え、瓶詰め。


「うん、ぼくがおじさんたちのかたきをうつんだ」


「良い子だ、でも今は我慢するんだ」


 やがて「友軍機」が走って来て合流した。さっき放流した死体から外した棘を発射する触手は隠さないとな。


「坊や、歯牙弾は撃てるか?」


「え? できないよ」


 射撃管制には人間の砲手の判断を必要とする。瓶詰めが反逆したり、背後に納税者や人民がいると困るんだな。


 瓶詰めの子供は緊急時でも、手綱が外れた後の退却や移動しかできない。鹵獲されないためと負傷した搭乗者保護だ。


「じゃあ、叔父さんが奴の足を狙う、倒れたら伸し掛かって締め上げてやれ、ナイフは使えるか?」


「うん」


 ああ、そんな便利な物も持っていたのか、人海戦術で4次元物質を降ろして来て、骨を刃物にしたか。


「ようし、行くぞ」


 停止して射撃姿勢に入ったエビモドキが油断したところで、直近から殻がない腹に歯牙弾を叩き込み、喋る前に脊髄にナイフを突き立ててやった。


「うおああぁ……」


 射撃数がカウントされていても、死体から外した方の足だから数えられないだろう。


「おじさんっ、おじさんもやられちゃった」


 ヘリや航空機に積んだ監視装置程度では、4次元空間の出来事を観測できまい。早期警戒機の機材なら見えるか?


 救援に来てくれた親切な叔父さんの上帝機は、悪逆非道なロシア製の天使(ジヤボール)に倒され、名誉の戦死をしたのだ。


 助け起こす振りをして、こいつの装備も頂いておく。戦闘糧食や手榴弾まで持ってるのか? 


 チッ、所詮三次元用の地雷程度か? こいつの腰にもぶら下がっているが、核地雷だと好都合なので補充しておこう。


 使い方も砲手の脳から引き出した、そうだ、4次元生物に通常攻撃はないよなあ。やはり核地雷だ、現在6個所有。


「おじさ~んっ!」


『ヒ~~ッヒッヒッヒッ』


 通信機では瓶詰めの子供として泣き、4次元空間では笑いが止まらない忙しい私。


 そう、忙しいんだ、有線で死体に繋いで川沿いに走らせ、都市やダムがあれば破壊してから進む。


 上帝機から取り外した投射機と核地雷は死体の方にも持たせて、いざとなったら自爆でもさせる。


 上帝の方は上級士官だったのか、頭が不自由になった志願者だったのか、多少物事を知っていて配備場所や軍事基地の所在地も知っていた。


 やはりこいつも4次元のミトコンドリアに接触したり、3次元世界全ての知識は持っていなかった。


 私と言う存在は、ある意味特殊なのだろう。この叔父さんもエリカやマリアのように、触角の先に偶然繋がってぶら下がっているだけの端末でゴミだった。肉体部分も完全支配しているとは思えない。


 こいつらも寄生体から拾ってもらったか、触手が偶然脳神経に触れて接続した程度の失敗体。


 自ら接続して破壊して乗っ取り、上位生命の脳内最重要区画や、天に届くまで上り詰めて支配した寄生者ではない。


 福者になった時に4次元世界からの解説書を読破して、未解読の解説まで読み取って理解した奴は居ないようだ。



 私のコピーか本体に通信する手段があれば良いのだが、この上帝(シャンティー)の死体を置いて行けば情報も収集できるだろう。


 現在中国とインドの全土にわたって携帯電話は不通だ。私に電話しても通じないし、携帯を持っていない。


 米軍でも低高度の軍事衛星でも飛ばして情報収集中だろうが、ヒマラヤ発の電磁場攻撃だから、高高度核爆発に匹敵する通信障害中だ。


 こいつは「友軍機」の場所も知っていたから、少し足を延ばして砲台を略奪して来いよ、私。


 数日で死ぬ死体にもコピーを何体か忍ばせておくんだった。そうすれば「友軍」に合流して、次から次に乗っ取ってやれたのに。


『千里を駆(ライドオン)け抜(チャイナ)けてやるっ!』


 津波が到着すればレイプオブチャイナだが、鈍足の津波より先に東南アジアまで走り切ってやる。


 この体は低速移動しかできない砲台だったが、移動訓練や射撃訓練はしていたのだろう。


 燃料は勝手に捕食するか、別の奴が捕まえて来るのか、泥の底にいる平べったい人間の残骸や残飯でも食わせていたのだろう。死にかけのガタガタの体と違って良く走れる。


 もうダムがある傾斜地は過ぎたようだ、堯帝、舜帝でも治水できなかった黄河と長江。現代でもよく堤防が決壊して大洪水が起こる場所で、堤防をガタガタにしながら走り、都市があれば破滅させる。


 そんなことをしないでも千年に一度の大災害の前には堤防など何の役にも立たないだろうが、平野部では川が詰まれば土石流の勢いが落ちる。


 橋で瓦礫が詰まれば左右に決壊する、広範囲を破滅させるには良いが、突進力が減る。

 


 この中にも聖人は沢山いたかもしれない。せめて中国のマザーテレサと呼ばれた老婆だけでも誘拐しておくんだった。


 ゴミ捨て場に捨てられた赤ん坊を40人以上拾って育て上げた聖人がいたそうだが、子供を無計画に生んで捨てるクズの子供、クズになるに決まってるだろうが。


 アメリカで養子を貰って育て上げた恵まれた夫婦がいたそうだが、教師の母親の遺伝を受け取った子供は、大学にも通って正しく成長したにもかかわらず、黒人の子供は成長すると拳銃で殺人をして武装強盗をしてレイプでも逮捕、クズの子供は遺伝子から腐っているんだと見事に証明された。


 育ちでは決して解決しない遺伝子のエラーと、蛮族で狩人としての殺人の遺伝は、農耕生活後の数千年にも及ぶ遺伝子淘汰、つまり、犯罪者は広場に連れて行って高い所に吊るし、その子供は徹底的に迫害して、生きる意志すら持てないよう、決して結婚などできないようにして遺伝子ごと殺して潰しておかないと、犯罪者で狩りを好む旧人類の遺伝子は消せないのだ。


 その淘汰済みの世界でも、私は人類を淘汰する。


 壊れた後の世界で聖人を見つけて、聖人と聖人から生まれる子供だけを生かす。


 私と言う悪魔は、その世界で悪魔として君臨し、悪行を犯した者の遺伝をさらに摘み取る。


 庭師として穢れた人類を殺して間引き、この世に本当の楽園(エデン)を建設するのだ。


 そこには私のような欠陥品すら不要。足りない、何の役にも立たない、使い物にならない欠陥品も間引く、社会負担になるだけでなく、力を手に入れた瞬間にホームグラウンドテロで答える私のようなクズは世界には必要ないのだ。



「移動中の敵機へ、今なら寛大な処置を約束する、直ちに停止して武装解除せよ。繰り返す……」


 ヘリから馬鹿どもが屍兵に呼びかけている。本当の敵はその後ろを追走している私なんだよ。


 そろそろ行動がバレたか、瓶詰めしか応答しない友軍機に異常を感じる頃だろう。


 さっき私がお前達の上帝(シャンティー)を殺したのを見たか? 4次元空間での出来事だから、お前には見えなかっただろう。


 攻めて移動砲台の瓶詰めとか、別の上帝がいれば話は別だが、まあバレたらバレたで、罠に掛かったり破滅したり息が絶えそうなら、核地雷を数個使用して自爆する。


 それも大都市の中心で自爆させてやる。私は高みの見物としゃれ込もう。


 敵がロシア製なのはもう確認済みで、大使館だとかホットラインだとか、抗議が殺到している頃だろう。


 この認知機関、世界から「観測された」事実は必要になる。


 まだ上帝や天使に逆転されて全てを無かったことにされる可能性もあるから、じっくりと世界に認知させて、しっかりと観測させる。


 長江に行った私のコピーも、そろそろ三渓ダムを決壊させて暴れている頃だろう。


 あれだけの要衝なので、複数の移動砲台と瓶詰め、上帝まで配置してあるだろうが、姑息卑怯に核地雷だけでも船で流して自爆させている事だろう。


 もう抗議では済まずに宣戦布告か? よくあるアネクドートみたいに、中国とソビエトが戦争になり、初日はソビエトが圧勝、一千万の捕虜を獲得。2日目もソビエト圧勝、また一千万の捕虜を捕らえた。3日目もソビエト圧勝、一千万の捕虜を…… そこで毛沢東から電話があって、「そろそろ降伏するか?」と言うオチだ。


 ロシア人は中国人を人類だと考えていないから、捕虜は全員殺すか食料にして、長平之戰のように、捕虜に自分で穴を掘らせて、そのまま穴埋めにする。



 これから私のコピーの誰かがトバ火山の噴火に成功すれば、凍り始める世界から、全軍が南に侵攻するだろう。


 ヨーロッパは中東を目指してアフリカに上陸して、ロシアは中央アジアから中東、インドを目指す。


 中国は東南アジアに侵攻して、アメリカは南米諸国を蹴散らして、赤道直下の唯一人類が生き残れる場所を取り合って殺しあう。


 もちろん原住民は、貴重な食糧として加工される。


 人間を共食いをすれば、必ずクロイツフェルトヤコブ病を発症し、脳海綿症状を発症するが、それは老人になってからだ。


 かの聖人孔子も、人肉の塩漬けが大好物だったそうだが、かなりの高齢になっても脳海綿症状を発症しなかった。


 人類は豚と同じ雑食で、共食いの記録が多く残されていて、遺跡には必ず人骨から肉片を削り取った跡が見つかり、骨を割ってまで骨髄を取り出して食った跡まである。


 儀式的にも食人の記録があり、勇者や長老の亡骸があれば、分け合って食し、勇気や知識を受け取ろうと食べた。


 記憶や知識の伝達は、書物も文字も無かった時代には、そのような儀式的な食人によって伝えられたのではないかとも推察されている。



 実はロシア情勢を探るためにも、ロシアの北にあるスーパーボルケーノと、アイスランドにあるスーパーボルケーノにも屍兵を派遣してある。


 そちらはホームグラウンドテロは控えて、人がいない場所や海を、こっそり移動している。


 そちらを噴火させるのに成功しただけでも、核の冬のような氷河期は訪れる。

 小さい付属品の火山が噴火しただけでもヨーロッパ全土の航空管制は麻痺、欠航して移動不能になって経済も停滞。


 1800年頃の「夏が来なかった年」のような大飢饉が発生したり、ジャガイモの病気でアイルランドが死滅しそうになった頃の様な地獄が到来する。


 その後に北極経由かアイスランド経由で、バイキングの足跡を辿って北米にも上陸して、ラ・ガリータ・カルデラとイエローストーン・カルデラを目指すように言ってある。


 そちらは預言者(ジーザス)達が待ち構えていて実行は不可能だろうが、こちらへの派兵を止めさせることは出来るだろう。


 スーパーマン光の速さで地球を7回り半することも無く、無能な司令官や大統領が、グアムやハワイ配備の天使まで本国に引き返させて、極東を破壊し放題になるかもしれない。


 地球を守ろうとした有能な指揮官まで解任して、大統領令で命令してくれると非常に有難い。

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