第16話16
黄河を駆け降りている間に、どこかから射撃を受けた。自動兵器か、それとも低速の移動砲台か、まさか?
『私を撃ちやがったのはどいつだっ?』
これがもし鈍足の移動砲台なら、4次元方向に泳ぎ込んで、過去未来へとステップしてやれば人類には観測不能になり、移動力の無さからも、私の全力走行に追従もできないで簡単に振り切れるだろう。
『眠れ良い子よ~、神の御手に全てを委ね、安らかな眠りを~』
周囲を大音量で制圧してガラスや鼓膜を破って回り、浮いている足で地面を穿ち、汚泥(ヒッグス)を吹き払う。
電磁場攻撃で何千何万人死んだか知らないが、これで移動砲台なら電子機器が潰れて、瓶詰めの男の子の誘導さえ分からなくなるはずだ。
それでも追尾してきたのなら、敵は天使だ。
私のコピーも姑息卑怯に、川沿いの大都市の中に入り、多数の人民を背後にして回避運動に切り替えて、遮蔽物に入って休んだ。
最初の射撃から50キロは走って、地平線の向こうまで来た。
まだ敵が追尾して来る、奴は間違いなく天使だ。
ここでは仏(ブッダ)とか神々言うのだろう。
できる事なら相手の状態を聞き、知力や思考力はどの程度に達したのか、4次元世界でのミトコンドリアとは対話できたのか確認したかったが、ここでもお互いの言葉が理解できない呪いの残滓によって、私はロシア語と異世界のミトコンドリアの言葉しか理解できない。
『ちゃjdfrg、ちzかだfrgrぇうぃkっ!!』
何を言っているのか分からないが、「止まれ」だとか、「よくも人民を殺したな!」と叫んでいるのだろう。
私はチベット人とか東トルキスタン人を解放に来たんだがなあ?
『dsddrちhtdじぇさjg;sssg!』
非常に興奮しているのか怒っているのか、ずっと何かを喚く仏(ブッディスト)。
確か奴らにはたくさん種類がいたな、西洋では悪魔として扱われる少数民族の異教徒の神も、仏に帰依して仲間になっているとか。
『あfhsgdtlhtjhさghdta!』
そうか、お前は仲間を殺されると困るのだな? 大都市が背後になれば、下方向には決して射撃は出来ないし、マインドコントロールで人民を粛清殺害できない。
私がロブスターのような数本の足を高く掲げていて、この都市を消滅させようとしているのを、まるで自分の痛みのように恐怖しているな?
『降伏(ホールドアップ)しろっ、武器を捨てて這いつくばれっ、でなければこの大都市も消滅させるぞっ!』
奴も知っていると思われる、簡単な英語で伝えてやると射撃が止まった。ハリウッド映画は結構見たんだ。
私は奴に自由に射撃できるし、遮蔽物に隠れて半身になって、お前が姿を現せばいつでもお前を殺せる。
奴の仲間は何体だ? どれだけの天使がどこに配備されている? 聞きたいことは山ほどあるが、まずは死んでくれ。
このボディーは奪取に失敗して、アポトーシスで死ぬ体だから早駆けで先行させ過ぎた。
地雷除けにするのに走らせたが、せめて2,3体集めてからじゃないと仲間を呼ばれてしまえば殺られる。
『早くしろっ、全員殺すぞっ!』
都市の端の方に威嚇射撃をして数千人あの世に送ると、奴にも意味が分かったのだろう、足を上げて反抗の意思がないのを示した。
『出てこいっ!』
奴もエビかカニのような、外骨格を持った仏(ブッディスト)だったが、取り合えず致命傷になるように、甲羅がない胴体部分に3発叩き込んでやった。
『kfwsりghspsgsrdh!』
卑怯者だとか喚いているのだろう、知るか。人質を取られて困るような馬鹿は今すぐ死ね。
『お前の仲間は何体いる? どこにいる?』
『あsjsdgrさげrfdsdf』
答える気がないようなので、足を振り下ろして都市を半分吹き飛ばしてやった。
『sdふぉいgdhせsdrtghdtjhdsrhsdrghsががgshsgawfwfawfaweせdfhrgへいhうぇrw;がsghshdthsdっさssss!!』
鬼だとか悪魔だと言っているのだろう、その通りだ、私は悪魔(ジヤボール)としてこの世に生を受けた。
尋問は後から来る奴らに任せよう、私のコピーもイヴァンカのコピーも来る。
こいつらの拷問は、生きたまま皮を這いでやって、ケツから竹を刺すんだったか?
中国語を覚えておけよ、私。アカシックレコードからでも知識を引き出してこい。
『先に行ってるぞっ!』
聞こえたのかどうか知らないが、仏(ブッディスト)の足を踏み潰して、大半をへし折ってから先行する。
止まっていれば地平線の彼方からでも射撃される。
走りながら、地震の元になったダムを決壊させながら黄河を下る。そこにも天使降臨実験の実験場があるかもしれない。
四川大地震と言うのも、長江を堰き止めてしまった三渓ダムのせいで起こったダム地震だ。ネパール大地震も勿論ダムなどの開発で起こった。
8万人の死者を出し、3億2000万トンと言う人力では到底運べないような量の水を堰き止め、断層の上にダムを作って、わざと地盤をかち割って人災を呼び寄せ、大地震を起こした大馬鹿どもがいた。
おから工事と言う手抜きで、鉄筋が入っていない小学校も作って子供から殺し、40歳超えの両親がやり直しができないようにしてから殺した。
そこまで苦労して建設したダムも一瞬で土砂で埋まり、10年持たずに利水も発電も出来なくなり、浚渫するのも不可能で、爆破するか決壊するのを待つばかりになった三渓ダム。人間共らしい頭が悪過ぎる、国家100年の計で立てた大事業だ。
国を亡ぼすためにわざとやったんだろう。四川省の核施設も同時に破滅した。パンダ園も閉鎖。
距離は離れすぎているが、年度的にはインドネシア、アジア大水害の元になった、タイ沖の地盤が動いたのもこの手の開発が遠因ではないかと思う。
フクシマなども余計なことをして、自分で自殺用の引き金を引いた。いずれ地震は起こったかもしれないが、あれだけの規模で自分の立っている地盤を破壊したのは人間だ。
その上、原子力発電所を海岸の地盤に設置させるために、25メートルも土を撤去して地盤に直付けで設置。
リアス式海岸と言うのは、小学生でも習う津波の爪痕だと言うのに、そのど真ん中で海水面と同じ高さに原子力発電所を建設。
廃炉が決定されていたのを、リベラルでクリーンなイメージが好きな首相が宣言したように二酸化炭素排出量を下げるために稼働させ続け、自滅した馬鹿の集まり。
これを自殺と言わず、何と表現するのか私は知らない。
メイソンの指示で日本を自滅させたか、アメリカの資本主義世界の保護(ショーケース)から抜け出して、中国人にすり寄った奴(アホウマヌケ)を処刑するためにHAARPが起動したという説もある。
他でも山を削って住宅地に変え、せっせと土砂を海に運んで人工島を数個作り、長い橋を架けて岩盤に目釘を入れ、潮の流れさえ変えて堰き止め、見事に地盤を割って新しい断層まで建設して大地震を起こし、自国民を殺しまくった馬鹿の巣窟もある。
ハンシンアースクエイクと言うそうだ。
その残滓で残骸も、私たちの手で、足で決壊させてやろう。
のちの被害を公表して逮捕され、非国民よ売国奴と笑われて強制労働させられた博士の慧眼に敬意を払い、下流の人民を全員水没させてやる。
仏(BADDEST)も救助に駆り出されたなら、私達を追走するものが減る。
『光あれ!』
轟音を立ててダムが決壊する。
2か所目の実験施設のように、数千人しか住んでいない僻地のダムではなく、川を生活の移動手段として使っている場所で、河の両岸にある都市に近い所に設置されて、利水と農業用水に利用されているダムを決壊させる。
もう私がいる場所は見つかってしまったから、可能な限り破壊を作り出して、救助や復旧の手間を作る。
破壊の度合いが少なかったような気もするが、足りなければ後続が破壊するだろう。
スーパーマンが救援に来ても、時間を遡ってダムの決壊を防がないと、恋人が事故に巻き込まれて死に、私を殺すためのミサイルが都市に着弾するぞ。
さっきの天使は、この事故を「観測」してから、時間軸を遡ってダムの決壊を防ぎに来たのかもしれない。
それは決定された出来事なので覆すことは出来ない。
もっと上流では氷河湖が決壊して、長年降り積もった雪が、山頂からの熱と雪崩で溶かされて、爆発して斜面を駆け降りて来ている。
私は時間線も遡っているから、低速の洪水と濁流を追い抜いてきたが、もうすぐ黄河流域も長江流域も地獄へと変貌する。
暖かいからと言って、水があったからと言って、こんな所に何億人も住んでいるのが間違いなのだ。
上流で破滅が起こった時、どれだけ死ぬか考えもしなかったのだろう。
二つの大河を上流で連結して、北京に水が来ないのをどうにかしようとしていたが、そんな大工事、破滅で終わるに決まっている。
『ハレルーヤ』
もう私の周囲を敵弾が飛び交い始めた。大半が鈍足の移動砲台だが、仏(ブッディスト)も居る。
上位生命体が死の恐怖に震えているが私は楽しんでいる。体も足もガタガタと震え、手元も狂ってまともに射撃もできない。
多数の足が縺れて転んだり、川の中を外れて地上を踏み潰す。
それは奴らも同じなのか、禄に訓練も受けていなかったのか、脳が足りないままなのか、奴らの攻撃は当たりもしなかった。
この体は多少だが泳ぎ続けられる。イヴァンカ程の長距離ではないが、走り疲れれば4次元空間を泳ぎ続けて移動砲台をかわすこともできる。
泳ぎ疲れれば接地して、地上目標を破壊して走る。地べたを這いずって抵抗がある泥(ヒッグス)の中を進む。
泥の中なら直撃を受けても距離によって減衰するが、4次元空間だと減衰量が少なすぎるので、直撃を受ければ死ぬ。
移動砲台達も仏も、私の後についてくる天地開闢のような破滅や大洪水には対応できずに死ぬだろう。
純粋な質量による打撃の連続なので防ぐ方法はない。3次元の上位に設置された操縦席も、これだけの衝撃波やGには耐えられない。
巻き込まれてしまえば私も同じなのだが、土石流で洗濯されないうちに4次元的上位に乗り越えるか、平野を走り抜ければ大洪水に踏み潰されず、洗濯機の中より酷い濁流と瓦礫に押し洗いされずに済む。
体が重いので、同類の死体から外した足を、一かじりしてから捨てた。
『私はまだ生きているぞっ、始末できるのならやってみせろっ』
2つ目のダムを蹴散らし、まだ坂が急な黄河を駆け降りた。
そろそろ替え馬が必要な頃かも知れない。この上位生命体も心臓のような場所が限界で、足が2,3本死んで脱落しそうだ。
どうせ死ぬ体なのだから、まだ起動していない移動砲台があれば、私が抜け出して頂いてしまおう。敵味方識別装置で中国軍所属だと表示される個体があれば助かる。
この体には私本体のようにコピーを制作する機能がない。
後方の味方を待って、またどこかの都市を人間の盾にして決戦してみるか?
またダムに接近すると、移動砲台が設置してあった。起動中なのかまだ撃ってこない。
『ヒーーーーハーーーーーーーー!』
4次元方向に泳ぎ上がり、人間の操縦者には認識できない未来側に移動する。
発電所か配電車に繋がっている、まだ始動前の移動砲台に取り付いて、周囲の人間を衝撃波と大音量で蹴散らす。
『私の物になれ、化け物っ』
操縦席を掴み上げ、私の三次元体を捩じり込んで移植する。人間の操縦士がすでに乗っていたが、聖歌で制圧して瓶詰めの子供と入れ替わる手続きをする。
私に繋がっている神経組織、操り人形の糸を千切って無理やり次の体に繋ぐ。
「君は誰?」
『お前と入れ替わりに来た悪魔だよ、体を寄越せ』
活線状態での乗っ取り、こいつも死に始めるかも知れないが、それでも構わない。接続されていた瓶詰めの子供を引き千切って捨て、私の3次元体と人格を接続する。
古い体よ、よくこまで走った。ここに放置して射殺されるのも良いが、囮としてもう少し役立ってもらおう。
『このまま川沿いに走れっ、その程度ならできるだろう』
私が定着するまでの盾にして、それからは死体を下流に走らせた。
首を切り落とされた鶏のように、最後の指令通り壊れるまで前進するだろう。
素晴らしい、この新しい体は敵の射撃を受けない。奴らのモニターや電球の表示では、私は中華人民共和国の仏(ブッディスト)として、友軍表示なのだ。
胸や背中に書かれた赤い星が、敵味方識別装置の信号が、何と悪魔を守ってくれているのだ。
後続の奴らにも是非お勧めしたい、無線機と操縦席は引き摺ったままだが、その間に中国語を覚えないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます