第5話05
現在の私は、複数の上位生命体に包囲される寸前で、遮蔽物に隠れていても、後ろから下の階層から、過去や未来から撃たれるようになれば終わりだ。
しかし敵は鈍足で反応も移動も遅い兵器。人類が操縦しているので、時間軸を戻ったり進んだりも出来ないのだろう。
一旦上位生命体が認知した内容を、接続端子である寄生体に伝え、さらに男の子に伝え、それを人類が作った機械で読み取るか、口頭で指示して軍人が操作するという、お世辞にも兵器としては運用が遅すぎる三流品。
移動にも操縦者と天使体と操縦席を、4次元の底で3次元の上側にしか設置できないで、ヒッグス粒子が降り積もっていない、行けば減圧死する上位空間にまでは上げられない。
宇宙服のような4次元服と言うのは無く、人類に4次元空間は数式以外に表現できず、概念として思考表現する手段がないので作成不可能である。
操縦席を引き摺って動かすのにも手間がかかって、発射までにも数人の許可と、操縦士以外の監視員による射撃修正が必要な、自走も可能な移動式砲台でしかない。男の子を合わせれば、3人か4人乗っている。
無原罪で知恵の実を持たない男の子を材料にして上位生命寄生体に接続、そこで高い知能を持ってしまわない程の知的障害者。
寄生体を乗せた時点でも、人類に反逆しない従順な実験動物。もしくは現在の人類には存在する価値がないと悟って、破滅させようと思考しないマヌケ。
そんなただの接続用端子に近い子供、仲介用の機器を必要としている兵器で、用兵側も頭が悪い愚の骨頂。
そのような指示は、上位世界から下げ渡されたマニュアルにも記載されていないし、禁止事項にも近い愚行だ。
そのモラルハザードで作り上げられた兵器。軍の希望要望に答えて、手近な鹵獲兵器を作ってしまった因果(カルマ)が、巡り巡って私という反逆者で、天使降臨実験全ての破壊者を誕生させた。
無知無能だから、それは無関係だとでも思っているのだろう?
否。教会関係者も兵器製造の実態を知り、研究員も子供の飼育員も、白痴の子供の脳に直接端子を繋ぐ者も、そうと知って部品を製造する者も、明らかに実験自体がおかしいと気付いてしまった。
当初の志のように、衣食住さえ無い、できないマヌケな子供を救って、天使を降臨させ、神の使いが降りてきた素晴らしい世界を構築する、目的で悲願を自分で否定した。
人類を導いて征く羊飼い、預言者を再び現世に呼び出し下生させ、モーセ、イエス、ムハマンド、ブッダのような預言者によって、現在のような混乱を極める宗教戦争を止める存在。
ただ一柱の神ヤハウェを同じく信仰しておきながら、宗派と預言者が遺した言葉の違いだけで、数百世代数千年の殺し合いをしている人類に、争いを止めさせようとした、高邁な思想で願いは、もう失われてしまったのだ。
その時からカウントダウンは進み、カルマによって破滅は約束されていた。
別のカウントダウン、減数も終了し、行動(ポビジーニア)447に従って、地平線の彼方に有るツヴォーリ実験場と核施設が消滅した。
反逆者に核燃料をメルトダウンさせられ、回収不可能なドリルで地殻に穴を開けられる前に、爆弾を爆破処理して安全に燃焼させるように、ウラン燃料を一瞬で核爆発させないよう順次分裂させて処理した。
例え地表に汚染は残ったとしても、この場所の地下や地球の中心にまで、超小型の太陽を落として事象の水平線を開いて、惑星のコアごと分解させるような破滅を防いだ。
どちらの破壊手段も間に合わなかったようだ、また別の施設で探そう。
大陸間弾道弾も潜水艦発射弾道弾も到着しなかったが、予め設置されていた核兵器が、証拠隠滅と私の消滅のために点火されて核爆発をした。
GODJIRAやKAIJYUと同じ待遇を受けられたのは光栄に思うとしよう。
あの場所でグズグズして、勝鬨を叫ぶような真似をしていれば、私も核分裂によって焼かれていたか、重度の汚染に暴露されていただろう。
混乱した早漏共が早くも私に向けて発射してしまい、私をこの場所に呼び寄せたマヌケに感謝してやろうではないか。
奴らも、正気で知性を持った天使が降臨するのが、ツヴォーリ実験場の破滅を意味すると知っていただろうが、横の連絡は不正確で、始末屋には出現を確認次第殺すよう命じられてしまった。
上位の幹部にも知らされていたが、末端の兵士や教会関係者、研究員には何も知らされずに、施設まるごと消滅させられた。
マリアと、残されていた姉妹達も、上位生命に入り込んでヒッグス粒子の底から上がっていなければ、無駄死にした事だろう。
潜水艦物の映画なら、深ければ深いほど水圧が高いので安全だが、その最下層のマリンスノー、ヒッグス粒子の圧が高過ぎて船体が持たないし、低次元での爆破の影響を受けてしまう。
ツヴォーリ施設近郊、軍事基地
「降伏せよ、武器をすべて捨てて降伏せよ……」
奴らは私が、自分の足でも引き千切って命乞いをするとでも思ったようだ。タコのように自分の脚でも食うか?
現在の私の手駒は、死ぬまでのタイマーが設置されている、2体の上位生命体。
予め死ぬまでの時間が決められていたのか、一度死んでしまえば鹵獲されても復活しないように、全身が破壊されるように、アポトーシスの指示が決められていた死体。
「行け、ウィンダム、ミクラス」
自分が指示できるKAIJYUを2体持てたので、3次元に降ろされている操縦席を引き千切って上昇する。
時間軸も移動して、未来側から攻撃をしてやれば、奴らには認知できないはずだ。
鹵獲兵器から3次元に出現させた天使体により、再び音響兵器を作動させる。
この小規模な軍事施設に接近した時には、もちろん天使の聖歌を聞かせてやり、遠くからでも魅了してやり、近くに寄れば混乱させ全員破滅させて、最接近した時には耳をつんざく大音量で身動き一つできない所まで制圧して、耳を破壊して血を流させて、三半規管も粉砕してやった。
『主よ、わが魂を導き給え~』
耳を塞ぐ、鼓膜を破る、外部と逆位相の音を出して無音状態を作り出すヘッドホン、等と言った回避手段では、この大音量を妨ぐ事は出来ない。
骨振動で内耳を直接響かせ、人類全てと逃げ遅れた動物を恐慌状態に陥らせて、どんな勇者であろうが、訓練を受けた軍人でも、丸まって震えながら涙とヨダレと鼻水を垂らすだけの、負け犬に変えられる音圧兵器だ。
『お前達も死ねっ、本物の神の前で申し開きをして来いっ!』
こちらの施設には、作業員軍人の家族が住んでいるようだ、民家が存在するが気にしない。いずれ人類全て消す予定なので、それが今日でも構わないだろう。
「ああっ、天使がっ」
民家や市街地でも、逃げ惑う天使型の下等生物が舞い踊る。さぞや驚いて混乱している事だろう。
『眠るが良い、我が子らよ~、祈りを捧げ、跪き、悔改めよ~』
「空からも聖歌がっ」
「ああっ、この世の終わりだよっ、神様あっ」
どうした? お前達の家族や、友人知人を盾にしてやれば、さっきのような激しい十字砲火は出来ないか? ならば後腐れがないようにしてやろう。
「やめろっ、やめろっ!」
「ここには民間人が居るんだぞっ!」
接地した脚以外数本を、高く掲げたのを見て、叫び始める敵の乗員。
何を言うか? 交戦規定やジュネーブ条約が遵守されるのは軍人だけ。ワシントン条約や南極条約が通用されるのは人類だけ。
私は生まれたときから一度も人間になったことが無いし、そう扱われたことも無い。
殺したのはお前達だ、ここに私を呼び寄せ、終末の日で約束の日で、裁きの日を行わせたのはお前達なのだ。
足踏みをするだけで巨大地震が起こり、すべての建物は崩れ去り、愚かな者たちも全て裁きを受けた。
光の速さで数本の脚を振り下ろすと、様々な粒子や空間ごとヒッグス粒子が吹き払われ、この地獄の底にも一瞬の天国が訪れ、光に満ち溢れた浄化の炎に焼かれた。
『光あれ』
重さ、つまりヒッグス粒子により移動を制限されていた物質が、ほんの一瞬だけ光速を超えて移動した。
特に、地面に設置していない移動しやすい物体から。
「ああっ、それだけはっ!」
この場の物質と粒子と空間が破砕され蒸発して、異空間にまで到達した。
ロシア全土とは言わないが、遮蔽物に邪魔されない位置。この世界の地平線と水平線までの電子機器が焼き尽くされて、空間異常と重力異常が起きた。
大半が水入りの袋で、脂身とタンパク質で構成されている物体も、この場に近い物は電子レンジの中と同じで、卵のように爆発したのでは無いだろうか?
「ああっ、あああああああああっ!」
奴らの操縦士や観測員、頭が悪い子供まで悲鳴を上げて、この死に泣き、憤っていた。
「町がっ、家族がっ」
「母さんっ、父さんっ!」
奴らが楽しげに、現世から救われた家族に対して祝福の言葉を漏らす。次はお前達の番だ。
「畜生っ、畜生~~っ!」
「こっ、殺してやるっ、お前だけは必ず殺すっ!」
聖なる言葉を紡いで、私への感謝の言葉を捧げる操縦者達。
その場に伏せて多少深い場所に潜って無事だったようだが、長生きなど出来まい、すぐに家族が待つ場所に送ってやろう。
『眠れ我が子よ~』
私は姑息卑怯にも、姿を表してやらず、送り込んだ鹵獲兵器だけで応戦してやる。
銃撃戦だが、その目で青い炎を光を見て、どれだけ生きていられるかな?
(ライカ…)
不快な名で呼ぶ声が聞こえる、無理に聞かされる。
(後ろ…… 今から…)
敵は言語すら理解できない個体だ、気にすること無くデカイ声で喚けば良い。
『気にするな、奴らは言葉すら理解できない馬鹿だっ』
4次元空間で響き渡るロシア語、またはキリル文字。深海の底なので、音声のような衝撃波や思念波が奴らの耳でも聞けるのかどうかは知らないし、この下等動物の口が高等言語を話すとも思えない。
「そのまま伏せて隠れていてっ」
堂々と喋った奴らは、後ろに回り込もうとしていた奴に、そいつの体と同じサイズの棘を叩き込んで、上位生命本体を潰した。
どうやら降臨実験を受けた姉妹の中から、1名だけの生存者が出たようだ。
そいつは大穴が空いた死体にも油断しないで、後ろ向きに泳いできてシャコのようなハンマーで頭を砕いてから、ロブスターのような巨大な爪で頭部を切って破壊した。
巨大カニモドキのような短い跳躍と、緊急回避の無理な泳法を組み合わせた物ではなく、ツヴォーリ施設からずっと4次元空間を泳ぎ続けて来れる、航続距離が有る泳ぎだ。
マリアでは無いだろう。あの子はこんな気が利く子でもないし、精神が回復しても、私を救いに来たとは思えない。
どちらかと言えば、司教や教会関係者に命令を受ければ、命の恩人のはずの私に襲い掛かって来るぐらい勤勉実直で、ある意味馬鹿がつくほどの無能だ。
『救援部隊が早すぎる、騎兵隊はもっと遅れて来るものだ』
まあ、私への脅威としては、前方にいる馬鹿共よりも、コイツの泳ぎと巨大なハンマー、そして投げ寄越された巨大すぎる棘の方が脅威だ。
棘を投げ込んできたのも、ハンマーで頭を破壊したのも、体が覚えている射撃だとしても、余りにも正確すぎる。
取っ組み合いの喧嘩に持ち込めば、大きい分だけ私にも勝ち目は有るが、さっきの巨大すぎる棘なら、オブイェークトの圧力容器でも私でも破壊できそうだ。
「大丈夫、ライカ?」
エビモドキの中にいる、たった一人の勝者。
いや? もっといる。表層人格に少なくとも3人、下層人格に予備人格が11人いる。
この馬鹿は自分が勝者にならず、あの場所に居た福者の、ほぼ全員を救出、さらに実験を受ける前の適合者全員を、自分達の触手で捕食して、人体まで食らい尽くして自分の物とした。私達の飼育係まで居る……
自分が何を仕出かしたか理解しているのか? いずれ苦しんで死ぬことになるか、自殺する羽目になるだろう。
でも、こいつを殺したくはない。この子はあのシスターや神父共からでも、愛(アガペー)を受け取って、人類を救うべく降り立った、本物の天使となったのだ。
人間共も運がなかったな、この子を最初に選んでいれば、お前達が望む天使を受け取れていたのだ。
決してそうならないよう、サイコロにまで細工がされ、書類でも収集されたデータすら改ざんされ、一番に人類を破滅させる悪魔が選ばれたのだ。
神はサイコロを振る。それは事実だ。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、怖くて隠れていたの」
巨大な棘を打ち出した方の、恐ろしすぎる魔獣で怪獣、マリアも生きていた。
喜ぶべきなのか、もしくは……
目覚めて最初に命令を受けたのが、司教や私ではなく、多重人格になって合議制で動くエビモドキだったので、そちらに言われるままに従ったようだ。
例えば、殴る蹴る、今までの行動をなじる、馬鹿にする、寂しがり屋で自分が一番大事で気位が高いプリンセスだとか、誰のお陰で今も生きているのか?と、上位世界の天使が持つ知性を動員した、多数の人格から罵詈雑言を受けて、蔑む罵る嘲笑うなどなど、あらゆる汚言症にまみれた言葉と思念波の全てを散々下げ渡され、そこで耐えられずに立ち上がったのか、大声で喚く相手が怖くてその通り従ったのだと思う。
せめて自由意志に従って立ち上がったのなら良いのだが、そうでは無いだろう。
現在の「天使マリア」は、大きさでは私を数倍上回る軟体動物で、捕食者から逃げる以外は、接地もせず泳ぎ続けられる。
その上、敵や捕食する生物を刺し殺す、毒の棘を多数放出できるようだ。
こいつと喧嘩しても勝てる気がしない。会話している間の一手間で、さっきと同じ手口で別の敵と、正面の敵を建物ごと簡単に葬った。
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