Ⅴ. 22世紀

 ああ~、もう、何なの、あいつ!


 私の部分的記憶喪失装置を奪い取ったから、また、AIに手伝ってもらって作り直さなきゃならないじゃない!

 AIは万能だけど、私は、AIの力添え無しでは、無力なんだから!


叶愛のあん、午後のスイーツタイムよ!」


 部屋の壁に有る大型スクリーンに母の顔と手作りの焼き菓子が映し出され、バターの甘い香りが届いて来た。


「今日は、宿題がたまっているから要らない」


 いつものように私自身の画像は、母達の方には写さず、声のみで返した。


「そうなの? 仕方ないわね。舞穂まいほと私だけで楽しむわね」


 母と同じ褐色の瞳をした、妹の舞穂まいほが手を振っている画像で切れた。


 家族で緋色の瞳を持つのは、私だけ……

 

 その原因は、私が睨んだ通りだった!

 やはり、あの時代だった!


 天津あまつ昂佳こうか


 私の先祖。


 私を師匠呼ばわりする、あの好奇心の塊のようなバカっぽい少年のせいで、私がずっと周囲から迫害を受ける事になった!


 天津あまつ昂佳こうかが、22世紀まで禁じられていたはずの目の日光浴を既に21世紀初期のあの時点で習慣にしていたから、私がこんな緋色の瞳で生まれてしまった。


 この瞳のせいで、私は物心ついた時から、他人はともかく、親類や家族からも、どれほど貶され不気味がられてきた事か!


 22世紀の今でも、緋色の瞳は数憶分の一という劣性な遺伝しかしない稀有な存在だが、22世紀に解禁された目の日光浴により、23世紀以降は急激に増加すると科学者は予測している。

 

 私がもう少し遅く生まれていたら、これほど排斥的な扱いを受けなくて良かったはずだった。


 あの天津あまつ昂佳こうかが、当時の禁忌を破りさえしなければ、私も、家族と同じ茶褐色の瞳で生まれていた。


 この緋色の瞳で生まれたものの苦しみは、本人にしか分からない。


 あの異物を見るような視線、聞えよがしな嘲笑、私はこれまでも、これからも、ここでこの瞳をして存在し続ける限り、それらを浴び続けなくてはならない。

 こんな思いを抱えながら、私は存在し続ける意味など有るのだろうか?


 家族ですら、私と過ごす時間は耐え難い表情を浮かべている。

 私は、自分達と同種のものしか受け入れようとしない心の狭いあの家族も大嫌いだ!

 

 いなくなってしまえばいい!!


 私も、あの家族も、最初から存在していなければいいんだ!!

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