第18話 挿された鞄の外で回る、2輪のかざぐるま

 再びタクシーに乗って、以前西沢君らが行かれたのと同じ墓地へ向かった。

 あの旭川を超えて、しばらく南へ走ったら、そこに、墓地があった。

 この時期は特に出店なんかも、なかったね。


 実は、タクシーに乗る前に、森川先生から、かざぐるまを2本とも持ってくれと言われて、自分のカバンにその2本をうまいこと挿して、タクシーに乗込んでいた。

 わしは一番若いから、タクシーの助手席に座って、あとのお三方が、森川先生を挟むようにして、乗られた。

 わしは特にその間、何も話さなかったが、後ろでは、長崎さんと宇野さんに、森川先生、しきりに、何やら言っておられた。


「いやあ、長崎君、宇野さん、ホンマ、あの子らは、かわいいのよ。今もってなお一層かわいいのじゃ。あんたらから見れば、「クズ」の子らかも、しれんが・・・」

「先生、「クズ」は、ないでしょう。大宮君に聞かされたことを思えば、確かに、大いに手のかかる子らだったとは思いますけど、とはいえ、それは・・・」

「いや、長崎ちゃんの言う通りですよ、先生。わしかて、一歩間違えれば傷痍軍人とか何とか称して、荒くれた生活に入ったかもしれんのです。野球のおかげで、そうならなかっただけじゃ。親分はじめ先輩らには、大いに感謝しています」

「そうかな・・・。宇野さんのところの親分さんは、しっかりされとる方じゃのう。人情にも厚く、面倒見もよろしいようで、あんたも、ええ人に出会ったのう」

「阪神と南海の、関西球団でお世話になってきましたが、ホンマ、野球という芸のおかげですわ、私なんかがこうして無事生きておれるのも・・・」

「私にしても、同郷の川崎龍二郎に目をかけてもらえねば、今頃、田舎でくすぶったままか、ひょっと都会に出ても、ろくな方向に行けていなかったでしょう」

「長崎ちゃんは早稲田の法科をまともに出ておられるからええけど、わしなんか見てみ、確かに六大学かもしれんが、ろくでもない野球馬鹿じゃったからねぇ。こうして人買いのスカウトくらい、それでもわしには十二分にありがたい限りやけど、仕事させていただけるのは、ありがたい、ホンマに、ありがたいことです」


 わし、スカウトになってこの方1年ほど、宇野さんに結構鍛えられておったのね。

 それも最初は、野球がどうこう以前のところから。何や、時刻表を読んでみせろとか、デパートやスーパーの食料品売場に行って値段を見て来いとか、週刊誌を買って来させられて、読まされてその感想を言えとか何とか・・・。

 こんなことと野球の何が関係あるねんと、最初は思っておった。

 それこそ今なら、そんなわけのわからんことより、それこそ、スピードガンの使い方教えてくださいとか、生意気なこと言っておった口やないかな(苦笑)。

 けど、それで数か月も鍛えられたら、自分でも不思議なくらい、人を見る目ができてきておった。それでは野球を見る目がお粗末になったのかというと、そんなことはなくて、そちらを見る目も、実は、磨かれていたのよ。


 わし、何でかわからんけど、このときは、外の景色なんか目に入らんで、鞄に挿したかざぐるまばっかり、見ておった。

 緑と白に塗り分けられた、2輪のかざぐるま、やった。

 クルマの揺れに身を任せながら、先輩方の話を耳にしつつ、そのかざぐるま、見ておったらな、うちのホームのユニフォームを着た野村克也が、本塁打を放って大阪球場のダイヤモンドを一周する姿と、ダブって見えたのよ。

 なんでかは、今もって、わからん。

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