第17話 駄菓子屋での老紳士
「よお。春樹君、げんきにやっとるかな?」
森川先生が、店番をしていた若い人に声をかけられた。
その店は駄菓子屋さんで、いつもは子どもがようけ来ておるところやが、学校の時間だからか、特に客はおらなんだ。まあ、駄菓子屋とは言っても、煙草とか飲み物とか、いろいろなものを売っておられる、そんな店じゃった。
「ええ、おかげさまで。早いところ自分の店が持てて、良かったです。やっぱり先生のおっしゃった通りで、高校、行っておいてよかったですよ。おかげで、帳簿がきちんとつけられていますからね」
とまあ、そんな話をされて。
その吉沢春樹さんって方やけど、確か、西沢君と同じ年で、定時制の商業高校に行きながらテキヤやらなにやら、いろいろ職業経験もあって、20代で自分の店を持てるほどにまでなっておられたそうな。森川先生との接点はと言えば、よつ葉園に居たわけではないけど、よく遊びに来ていて、ある時森川先生に声かけられて、話しているうちに、それならちゃんと高校に行っておけと、そう言われたらしい。なんせ、実家も商売しているならなおのことじゃと、そんな感じで親御さんも説得してくれて、それで、中学を出て慌てて働くよりも、とにかく、仕事したけりゃすればいいけど、学校でも学んでおいた方がいいということになって、わざわざ高校に行った。
それで、高校で学んだことがなんだかんだで活かせる仕事に巡り合えたってわけ。
わしには、吉沢さんのような根性、なかったなぁ・・・。
野球なら、それなりに根性あって度胸よくやれてはいたが、実社会は、グラウンドのようにはいかんわ、なぁ・・・(苦笑)。
それで、まあ冬ではあったけど、ちょっと、景気づけにということで、先生がぼくら一人一人に、ラムネを振舞ってくださった。
吉沢さんも一緒にラムネを飲みながら、いくらか話したのね。タクシーの運転手さんも、いったんメーターを下ろしてくれて、休憩と称して店に招かれていたっけ。まあその、森川先生の知合いの運転手さんで個人タクシーの方やったから、別に問題なかったみたいね。
ラムネの瓶で乾杯して、ぼちぼち飲んで、さあ、行きましょうという段になって、森川先生は、かざぐるまを置いてあるところに出向かれて、これというのを2本ほど持って、吉沢さんに、この2本と、ラムネの代金だということで、幾分多めのお金を置いて、釣りはいらんと言われた。
吉沢さんは、我々がどこに行くのか、すでに気付かれていたな。
「今日も、網本町の『墓参り』ですね」
「そうじゃ。それで、寄らせてもろうたんじゃ。ラムネも、な、あえて春樹君には申し上げなかったが、あの子らへの、お供えのつもりで、飲ませていただいた」
「そうですか・・・。それじゃあ先生、皆さん、どうぞ、お気をつけて」
吉沢さんに見送られて、わしらは、網本町の墓地へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます