第13話 それから、31年後・・・

「まああのときは、思うところ大だったね。そうそう、米河君、君は大学に現役合格しているようだが、いつ合格したのかい?」

 西沢氏の質問に、最年少の米河氏が答える。

「昭和63年、西暦で1988年です」

 その回答に、年長者たちの間に何とも言えない空気が流れる。


「昭和63年で大学かぁ・・・。今、何歳になる?」

 今度は、最年長の井元氏が尋ねる。

「今年の9月で、49歳になりますから、現在48歳です」


「49か、まだまだ、若い、のう・・・」

 そういう声こそ上がらないものの、そう言いたくなるような空気が、その場を支配している。


「とはいえ、こちらの米河君は、あの頃の太郎君や三郎よりもはるかに年長になっている。これは、厳然たる事実ではありますね」

「確かに、ねぇ・・・」

 大宮氏の弁に、西沢氏と井元氏が頷く。

「打倒大宮哲郎は、その時達成できたと言えるかな?」

 西沢氏が、大宮氏と米河氏に尋ねる。

「そんな意図で私、O大学を受験したわけでもないですから、それで打倒できたわけでもないでしょう。司法試験に合格できたわけでも、ないですし(苦笑)」

「司法試験がどうこうはともあれ、追いついたとは、言えるだろうね(苦笑)」

「せやとすれば、あの三郎君の念願は、米河君と、もう一人、Z君だっけな、その二人がかなえた、ってことになるやろな。森川先生はその頃亡くなられておられたみたいやが、後継者の大槻君が園長されていたのだっけ、よくぞやってくれたと、森川先生もさぞかしお喜びやったろうね・・・」

 西沢氏の弁に、大宮氏と米河氏は、特に何か意思表示をしたわけではないが、その弁に賛意を示すような表情になっていた。

 ここで、井元氏がかの慰霊塔の話を切り出した。


 実は、なあ、その慰霊塔、わしも、森川先生と一緒に、お参りしたことがある。

 あれは確か、新幹線ができた年。昭和39年の年明け頃やったかな。南海球団のスカウトになって間もない頃で、わし自身は名古屋出身やからね、それで東海地区担当やったが、クロスチェックをということで、スカウト部長の宇野さんと一緒に岡山に来ていて、せっかくだからということで、よつ葉園さんに久々に寄ったのよね。

 そのときうちの松本球団社長から厳命が下っていて、といっても、その依頼元はといえば、やっぱり、長崎さんやった。あの人は、すでに国会議員になっておられて、ちょうど選挙区の松山から東京への戻りがけに、岡山に寄られた。そこで合流して、よつ葉園さんに寄って、それから、わし、宇野さんと長崎さんに連れられて、森川先生と一緒に、その慰霊塔に、参ったのよ。

 あのハゲチャビン社長、長崎さんからその話をかねて聞いていて、それなら、おまえも宇野さんと一緒に寄付に寄ったら必ず参ってこいと言ってこられた。

 もし正当な理由なく行かなかったことが判明したら、即刻クビやで、とか、そこまで言われたら、行かんわけにもいくまいに、ってことでな。

 まあ、クビになりたくなければ墓参りしろってわけだからな、それはまあ、無理難題ってこともないから、出向きましたよ。


 今度は、最年長の井元四郎氏が、かの慰霊塔に参ったときの話を始めた。



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