第9話 「リスク」という言葉のおかげで・・・

 まずは、太郎。享年は、満で22になったばかりじゃった。

 弟の三郎は、同じく、19。成人にもなれぬまま、じゃ。


 両親が神戸に出ておって、港の倉庫で働いておったのじゃが、空襲に遭って家を焼かれて、それですさんでしもうたのか、悪さを働いて、警察に捕まった。終戦間もない頃の話、じゃった。捕まってしもうて、その後は、どうなったかわからん。

 母親のほうは、実家のある岡山に戻ってきて、まあしかし、もともとお世辞にも裕福でなかったうえに、そういう状況であれば、母の手ひとつで子どもらを育てるわけにもいかんがな。じゃから、兄弟3人、あとこの子らには、妹に清美という者がおって、それが今、17じゃ。わしも思うところがあって、彼女には、高等学校に行くことを勧めた。で、今は定時制の商業高校に通いながら、住込みで働いておる。

 この3人の兄弟を、うちは、引受けることにした次第よ。

 まだ「孤児院」だった頃で、園長は古京友三郎さんという、岡山市長もされた方が勤めておられた頃じゃ。

 それから、まあ、いろいろあったわな。それは、この後申し上げよう。


 先だって、これまあ、ユニオンズさんがこの岡山でキャンプ中の2月の半ばくらいやったかな、うちに、来たんじゃよ、清美が。それで、何じゃ、もっと条件のええ職場があるから、そちらに移りたいと相談に来た。じゃが、せめて高校を終えるまでは今のお店に勤めておれと、わしは申した。

 そのときは確か日曜で、わしが哲郎を呼んでおって、同席してもらったのよ。

 で、じゃ。

 哲郎君の仰せでは、その店は、A高校時代の同級生の女の子の店だそうじゃが、あまりに忙しくて人手が足りんで、募集しておったのよ。若い人を。清美がたまたま何かの縁でその店を通って、募集の紙を見かけてじゃな、なんか条件がよさそうであって、哲郎にも確認したら、彼女と数日前会ったらしく、状況を聞いておったみたいでな、彼女本人から。

 何か、思うところがあったようじゃ、この子なりに。

 それは確かに、エエ条件じゃった。しかし、聞けば、よくよく聞いてみるほどに、忙しい折に高校まで行くだけのゆとりはなさげな、そんな話でもあった。その娘さんは哲郎と同じくO大生で、教育学部の方でな、うちにボランティアで来られたこともある人じゃ。彼女も、空いている日にはうちの手伝いをしておるらしい。

 清美は幾分不満げではあったのう。

 ただ、高校を途中で辞めねばいかんようになるとか、そういう「リスク」を考えたら、今のお店でお世話になっておいた方がよいのではないかと、まあ、哲郎君も、かく仰せではあるし、その「リスク」という言葉に少しうろたえたようじゃが、清美は結局、今の店を続けていくことにしたわけよ。


 まあ何じゃあ、兄二人が、あんな死に方をした後だけに、いろいろ、あの子も思うところがあったことは、想像に難くないのではあるが、のう・・・。

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