第7話 国鉄官僚の来訪

 彼らの近くのテーブルに、国鉄の幹部職員が、たまたま居合わせていた。

 岡山鉄道管理局に局長として赴任している人物だった。

 局長氏は丁寧に、老紳士に始まり、若い人たちにも一通り名刺を配り、挨拶した。

 その後、蝶ネクタイの青年に声をかけてきた。

 この局長は、国鉄官僚の山鹿信一氏。本社旅客局から岡山鉄道管理局長として赴任してきた人物であり、川崎龍二郎氏の秘書をしていた当時の長崎氏と、国会内外で少なからずの縁があった。


「長崎君じゃないですか。今日は一段とシャキッとした身なりで、どうされた?」

「あ、山鹿さん、お久しぶりです。川崎の秘書時代、大変お世話になりました。今、岡山の局長ですか?」

「そう。『飛ばされた』と言ったら岡山の人に怒られるけどな、まあ、ちょっと、何だその、修行しに来ているわけよ(苦笑)」

「それはそれは、ご苦労様です。私、明日、東京に戻ります。総裁にも、よろしくお伝えいたしておきます」

「お願いだから、はよ戻せと言っておったとか、言わんといてな(苦笑)。あの古機関車さんは、あんたの同郷の、と言っても、距離はいささかあるみたいじゃが、同じ愛媛の出身の方だからね。川崎先生とも懇意のようであるし、ともあれよろしく」

「わかりました。それにしても、何で私と?」

「その風貌で、目立たないようにという方が無理だぞ(一同爆笑)。東京の国会近辺でさえ目立つものが、岡山程度の街中で目立たないはずがなかろう。長崎君がそちらで話しておって、すぐにわかった。秘書時代からそんな調子で、年中選挙でもしておるかのような話ぶりは、正直、私にはかなわなんだわい」

「まあその、あの世界は、常時戦場、でありますから」

「君が戦場にいるのは構わんが、私らまで戦場に道連れにされるのは、ちょっとしんどすぎるわな。それはともあれ、君らしくて良かったぞ、今の話」

「え、聞かれていました?」

「ああ、聞いておったよ。そちらの森川先生にも、この度は鍛えられたようですな。そうそう、森川先生、この若者は、政治家として必ず大成しますよ。今日のお話、傍でお聞きしておりまして、まあその、聞き耳立てたことについては申し訳ありませんでしたが、長崎弘君の話ぶりを見て、なかなか、良く力をつけておられるなと思った次第です。この度のユニオンズさんの解散は残念でしたが、彼は、野球の人たちとのつながりを得て、ますます、成長しておることは、間違いありません」


 話は、老園長へとふられている。老紳士は、国鉄官僚の山鹿氏に述べた。

「そうですか、山鹿さん、長崎君は、東京でもそんな調子でしたか。まあその、この度こちらの大宮哲郎君の御紹介で、この数年来長崎君に出会ってこの方、彼を見て参りましたが、確かに、成長いたしておりますぞ。あなたのおっしゃる通り、彼は政治家としても成功する素養が出来上がっておるなと、今日のことで確信が持てました。こういう若い人が、私の関わっている児童福祉ばかりではなく、この国全体をよくしてくれることを、私は心底、願っておるのです」


 やがて山鹿局長は、丁重にあいさつし、近くの局庁舎へと戻っていった。

 老紳士は、レストランのウェイターを呼び、コーヒーのおかわりを頼んだ。

 程なく、すべてのカップに珈琲が注がれ、それに続き、新しい氷水の入ったグラスがやってきた。

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