第3話 かざぐるま。あれが、植物に見えるかね?
その碑の前に着いて、そこに書かれている文字を見て、ぼくは、はっとした。
岡山県児童福祉施設供養塔
写真を撮ってもらったこともあるし、現にその写真、持ってきているけど、この写真のあるなしに関わらず、忘れもしないよ。
ああ、そういうところに足を運んでおけということだったのか、って。
着いたらまず、森川先生が、おれらに言うのよ。
「そのかざぐるま、川上君にまずは預けて、君たちは、掃除を頼む」
そりゃあもう、慰霊塔の掃除くらい、やりますって。
先生も、長崎さんも、一緒に掃除を始めたよ。
だけど、掃除していて、何か、引っかかってきた。
掃除が一段落したとき、ぼくは、園長先生に聞いてみたのよ。
「あの、園長先生、ちょっと、よろしですか?」
「どうされたかな、西沢君?」
「ところで、どうして今日は、花を買われていないのでしょうか?」
その答えは、意外だった。
「それなら、すでに買ってあるのじゃが」
「え? 下の出店でも、花屋さんあったのに、そこは素通りされましたよね?」
「確かに、したのう・・・」
「こういうところに来られるなら、園長先生ほどの御方なら、必ず、お花をお持ちになると思っておりましたが・・・、でも、持たれていませんよね」
なんか、そろそろ、怒られるかな、とも、思った。
ところが、森川先生は、今度ばかりは、目が、怒っていなかった。
それを言うならむしろ、優しい目つきに、なっていた。
「西沢君。君は、今日ここに手向ける花のうちの1輪を、持ってきている。そのことに君は、気付いておられんようだな。そんなテイタラクで、家業をまともに継いで行けたものかとまでは言わないが、な・・・」
益々、こちらは、ちんぷんかんぷんやで。
怒って言われるならあきらめもつくが、もう、目まで、笑っていらっしゃる。
正直、なんのこっちゃ、かなわんで。
テイタラクなんて言われても、もはや、反論の気力も失っていると来たものや。
「まさか、あの、大宮君と持ってきて、今、川上さんにお預けしている・・・」
この後の森川先生のお言葉が、ふるっていた。
「さあ、どうじゃろう。あれは、かざぐるま、である。西沢君にはあれが、植物に見えるかね?」
何とか、反論、したで。
「いえ、見えません。というか、そもそも、セルロイドでできた、かざぐるまです」
「そのとおり。あれは、かざぐるま、である。セルロイドでできているということであれば、わしの眼鏡も、そうじゃな(わっはっは)」
「かざぐるまは、植物やないでしょ。花って、先生、植物ちゃいますのん?」
もう、普段封印している関西弁やで、ここまで来たら。
「当たり前じゃ、垢も身の内というが、それ以上に、花は植物のうちじゃ。そこにあるかざぐるまが植物じゃねえこともわからんようになるほど、わしはまだ、モウロクしては、おらんわい!」
そう言って、森川先生は大笑いされた。
こっちが関西弁やったら、先方はもう、岡山弁と来てはるで。
目も顔も、大笑いよ。
長崎さんと哲郎はというと、もう、唖然として、ぼくと園長先生のやり取りに入るに入れない感じで、感心しているやら、呆れているやら。
そんな中、川上さんだけは、黙って、そのやりとりを聞かれていた。
そこで、一言、川上さんが、おっしゃったの。
「西沢君、ここで慰霊されているのは、どんな人たちか、わかる? まずはじっくりと、その慰霊塔に書かれている文字、読んでみられぇ。話は、それからじゃ」
って、ね。
そこで、急に、周りが静かになった。
オレ、改めて、目の前にある慰霊塔に書かれている文字を、読んでみた。
おかやまけん、じどうふくししせつ、くよう、とう・・・・・・
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