2周目 第1話 夢

第1話 夢①

 森の空き地。


 夜空がとても綺麗だ。




「……」




 さくらは目を覚ました。


 夢を見ていたような気がした。


 いや、夢を見ていた。


 あの女と戦い、敗れ、殺された夢を。


 起き上がると、隣にはクオンが丸まって寝ていた。


 クオンはさくらが幼少期に出会い、家族になった白猫だ。


 今ではたった一人(匹)の大切な家族だ。


 クオンの頭を撫でて、さくらはもう一度眠りについた。






 夜が明けた。


 焚き火の火も燃え尽きていた。




「……」




 さくらは目を覚ました。


 今度はあの夢を見ることは無かった。


 クオンは既に起きていた。


 さくらはすぐに立ち上がり、近くに置いてた大きめのあずま袋と聖剣。魔法杖を持って、クオンと共にこの場を後にする。








 旅に出てから十年が経った。


 さくらは十五歳になった。


 この十年、生易しいものではなかった。


 地獄……この一言に尽きる。


 生まれ育ち、あの女に滅ぼされた村。


 村を出ると、すぐに森が広がる。


 最初の地獄だ。


 クオンと共にしていたとはいえ、当時はまだ五歳だ。地獄と呼ぶのに十分すぎる。


 森を抜けるのに数日はかかった。


 村で生活している時に散々「森には危険な生物がいる」と聞かされた。


 幸いにもさくらたちは遭遇することはなかった。




 森を抜けた先には、草原が広がっており、遠くには町が見えた。


 そして、森を抜けたすぐ近くに小池があった。


 村を出てから、まともに食事も水分も摂取していなかった。


 さくらは、迷うことなく小池に向かっていった。


 小池の周りには実のなっている木が何本もあった。


 クオンのサポートもあり、木の実を採ってすぐに食べる。


 あまりの美味しさに、クオンが木の上から実を落とし続けている間も夢中になって食べていた。


 大量の木の実を落としたクオンも、さくらと一緒に食べる。


 満腹になった後、さくらは上着を脱ぎ、その上着を袋代わりにして、まだ落ちている木のみを割と多めに詰め込んだ。


 上半身下着だが、まだ日が差しており、季節的にも下着だけでも暖かい。寒さの心配はない。


 空腹を満たし、街の方へ向かい歩き続ける。


 街に用は無かったので素通り。そもそもお金を持っていなかった。




 それから数日歩き続ける。


 野盗に絡まれた。


 五歳の女の子に力など無く、捕まってしまった。


 この時はよくわかっていなかったが、今思えば奴隷行きまっしぐらだったのだろう。


 野盗の乗る馬車に無理矢理乗せられそうになったところ、その野盗の首が飛び、倒れた。


 何が起きたかわからないさくらの目の前には、刀を持った和装の男性がいた。


 男性は、残りの野盗連中を片付けると、さくらをジーッと見始めた。




「小娘、強くなりたいか?」




 いきなりそのような事を言ってきた。


 怪しすぎる男性だが、さくらの現状、野盗に捕まる程度には力不足であることがわかった。


 さくらは、男性の言葉に一瞬で惹かれ、迷いなく頷いた。


 後にこの男性が戦いの師となり、師との五年間の修行が、第二の地獄となってさくらに襲い掛かってくる。








 修行を終えた後、クオンと共に様々な地を旅した。


 森や海に砂漠、町や都など……現在に至るまでの五年、この期間が第三の地獄だ。








 さくらたちが現在いる所は、エリアスの森。


 別名――迷いの森。


 土地勘のないものがエリアスの森に入ったが最後、森を抜けることが容易ではなくなるということから、そういった別名が付いた。


 旅をしていると、迷いの○○のような場所にはよく訪れた。


 ただし、一度も迷ったことがない。


 なぜなら、クオンが出口まで導いてくれるからだ。まるで最初から出口までの道のりを知っていたのかのように。


 何はともあれ、クオンのおかげで余計な苦労をすることなくここまで来た。


 そしてさくらは、エリアスの森を抜けようとしている。


 今までと同じく、クオンがさくらを導く。


 森を抜けると町が見えた。


 少し歩けば辿り着く。


 街の入り口に着くと、門番が立っていたのだが、特に治安が悪いと言う訳ではないのか、普通に入ることが出来た。








 エリアス――この町の名前だ。


 エリアスの森のエリアスは、この町の名前から来ている。


 時間的にはまだ昼を回っていない。


 さくらたちは初めて訪れたが、特に何かあるという訳でもない。


 真っ直ぐ宿に向かい、すぐに受付を済ませる。


 その後は観光をするでもなく、受付でもらった鍵に記された番号の部屋に向かう。


 部屋に入ると、荷物を入り口の横に置き、そのままベッドで仰向けの状態になる。


 クオンも、さくらの顔に近づいて横になる。


 ボーっと天井を見る。


 特に何もない真っ白な天井。


 野宿が続いたので、久しぶりの宿であり、ベッドだ。


 ふかふかのベッドが、さくらとクオンに最大級の睡魔を与える。








 目が覚めると、すでに夕方になっていた。


 クオンとベッドから同時に起き上がり、最低限の荷物を持って宿を出る。


 この宿は、値段が安い代わりに食事は各自で済ませろというスタンスだ。


 始めて来た土地なので、歩きながら食事できる場所を探す……と思っていたが、宿の前の道の向かい側に食堂があった。


 普通だったら、もっと良い所はないのかとか、観光がてら歩き回ったり、町の人に聞いて回ったりするのだろうが、さくらは空腹を満たされればそれで良いので、即決で向かいの食堂に行く。


 食堂に入ろうとしたら、隣の路地裏から言い争っているような声が聞こえた。


 さくらは空腹なので、正直そちらには興味が無い。


 しかし、クオンは違った。




「クオン?」




 クオンがさくらの袴を引っ張る。


 路地裏に行けと言っているかのように。


 こういうことはたまにある。


 普段だったら興味が無いので、無視をするのだが、今回は今まで以上に引っ張る。


 ……いや、一回だけあった。


 まだ幸せだったあの頃に。


 もし、クオンに付いて行っていなければ死んでいたかもしれない。


 今回もそうなのではないかと考えたさくらは、クオンの頭を撫でて「行こうか」と言って路地裏の方に行く。

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