第3話 

 カフェ・一善に戻って一息ついていると、ドアベルの音と共に誰かが入ってきた。


「すみません、今準備中で--」


 お客さんなら断ろうとした私は、途中で言葉を止めた。


「--ってなんだ、大雅たいがか」

「どうもー!」


 大雅は、前に町内でちょっとしたいたずら事件を起こしたのだけど、それを貴兄たかにいに丸く収めてもらってからこの店に出入りするようになった中二男子だ。


「なんだってことないでしょ。冷たいなぁ。ところでアニキ、似合ってますね!アニキのお子さんですか?」


 貴兄が翔太君を抱っこしているのを見た大雅が突っ込む。


「全くもって、違います」


 貴兄が憮然と答える。


「じゃあ姐さんの?」

「ちょっと!私を幾つだと思ってるの?!」

「中学生だろうが高校生だろうが、できるもんはでき……」


 私と貴兄が二人して睨みつけたので、大雅は最後まで言えなかった。


「そんなに睨まなくてもいいのになぁ。俺、兄貴の探偵としての凄さをあちこちに宣伝してあげてるんだけどなぁ」

「僕は探偵じゃない。勝手に宣伝しないで欲しいですね。宣伝するならこの間出した本の方を--」

「いやそんなことより、アニキ!気づいてましたか?何日か前から怪しい女がこのお店の周辺をウロウロ嗅ぎ回っててさ。さっきもいたから、なんか用か、オラ?!って凄んだらサッサと退散したんで、俺のこと褒めてくれます?」


 大雅が誇らしげに言っだけど、貴兄は露骨に眉をしかめた。


「全く余計なことをしてくれますね」

「貴兄、それってこの子の…」

「可能性は高いね」


 私はいても立ってもいられず立ち上がる。


「まだこの辺にいるかも知れない!私探して来る!」


 そう叫ぶと、店の外に走り出た。

 店を飛び出すとすぐに、近くの電柱の影に隠れる人影が目に入った。

 電柱に隠れているつもりらしいけど、全然隠れられていない。

 やっぱり今朝私が助けたお姉さんだった。


「あのぉ、朝はどうも。もう身体は大丈夫なんですか?」


 私が声をかけると、その人はビクッとして、次におずおずと電柱から顔を出した。


「その節はどうも……」


 今朝は紙みたいに真っ白だった顔色は今はよくなり、そうして見ると若々しく見える。と言うか、若い。


「あの、赤ちゃんを迎えに来たんですか?あの赤ちゃん、お姉さんのお子さんですよね?」


 私が聞くと、お姉さんはガバッと頭を下げた。


「すみませんでした……!!翔太は元気ですか?!」


 翔太くんていう名前なんだね。


「元気にしてますよ。今兄が寝かしつけてます」


 お姉さんはホッとしたように息をついた。

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