第27話 向き合いたくないのは、お前じゃなくて

 あさひは、酔っぱらっていて。その上私はあさひの気持ちなんて何一つ理解してなくて。狭量で、ろくでなしで。でも、私がされたことは私が悪いから何をされても良いって話ですらなくて。

 ――嫌なことは、嫌なことで。そして。実際のそれをさせられて、クソみたいな気持ちになった。


 アレが男でも、女でも。関係なく、嫌だった。


 どっちの趣味とか、そういう話じゃなくて(そもそも趣味って言い方が違う気はする)。私は、そういうものとかかわることなく生きる方がいいんじゃないかって思う。

 あさひだってきっと、あんなことするつもりはなかったんだと思う。だって、あさひは私のことをそれなりに大事にしてくれているから。

 だから――。どうして?


「おぇぇ――ッ」


 トイレで、吐いた。つんと酸っぱいにおいが鼻を突く。吐瀉物まみれの顔を洗う。これで私もゲロインの仲間入り。なんて。

 笑える話でもなく。泣ける話でもない。

 最悪の気分で。――糞野郎は、私一人だけでよかったじゃん。


「っ、なんでだよ」


 どこで間違えれば、こんなことになるんだよ。クソ。クソ、クソ。ふらふらと、寝室に戻ろうとして――。外に出て、夜風に当たった方がいいかなと思った。


 どうして、あんなことをしたくなるのだろうか。ギャルゲとかをやると、女の子同士の絡みというのもあって、胸囲格差なんて話がときたま出てきて。ヒロインが恥ずかしがったり、乳繰り合ったりするシーンがあるのだが。

 そういうシーン、目撃することがない。実際にあんなことを友達同士ではやらない。私は人間関係の構築に成功していない方だけど……。あさひも、知る限り更衣室とかでやらない。同性同士でも相手の身体をまじまじ見ることって正直ない。だから私はそういうシーンを見るたびに没入感がなくなるというか、「あー性的対象を見る眼で描いてんなぁ」みたいな妙な疎外感をいつも抱きながら読んでいる。あるいは、プレイしている。


「なんか、そーゆーお約束っていかにも『物語的』でつまらなくない……? いや、つまらないというか、その場しのぎみたいな嫌さを感じるってか……」


 言葉にして呟く。初めて胸を揉まれた。――自分の胸について、大きいなぁとか。小さいなぁとか。そういう気持ちは無くて。膨らみ始めたときに、「あっ、自分も『女性』なんだな」って無理やり意識させられたのを覚えている。

 あさひは、こんなもので興奮するのだろうか。手始めに、揉んでみる。


 バストアップ、バストアップ。なんつって。揉んでも。柔らかいなぁとか以前に。自分の身体ですね、としか思えない。思うところが何もない。――なんだったのだろう。あの嫌悪感は。嫌悪じゃない。あの時感じたのは、恐怖っていうか。

 あさひが本気を出したら、私は敵わない。それを、理解させられた。でも、友達同士だからって。甘えていたのかもしれない。それは、殴られたりけられたり犯されたりすることを許すってことじゃなくて。


 「友達だから」「幼馴染だから」「あさひはあさひだから」なんて、薄っぺらいハリボテを沢山立てて、あさひが本当にどれだけ悩んでいたかを、無視したこと。関係性に甘えたこと。

 私は、昔っから何も変わっていないクズだってことを。無理やり、理解させられた。


 だから。――私が本当に向き合いたくなかったのは、あさひじゃない。


 浅ましくてろくでなしな、自分自身だ。


 でも――あさひが私にやったこと。簡単に許すのは違う気がする。てか、多分無理な気がする。でも。失いたくない。なんて。


 人間の振りして悩むのは辞めろよ、柊ゆかり。

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