第32話 人間もどき。
私がまつりを好きだと思うのは、どういう意味なのか。
このことに踏ん切りがつかない私に、気持ちを伝える資格があるのかは分からない。何で好きなのかも、或いは分からない。
考えれば考えるほど、袋小路で。楽しいバーベキューの夜に、案の定私はベッドを抜け出していた。
「……」
アルコールを入れた後は、あまり風呂に入らない方がいい。飲み慣れていない人間は特に。
まつりにそう諭され、私は朝にお風呂に入ることになった。自分は入ってるあたり、なんというか……家でも飲んでるのか。飲み慣れてやがるのか。
曰く、「通販は何でも買えてしまう」。私も身に沁みている。最近はエロゲなんかも未成年には売ってくれなくなった。
中学の頃はなんだかんだ暗黙の了解みたいなのがあった。多分。たまに買えなかったりした。
ルールをまもらない子どもに、なぜ大人は厳しいのか。分別がついてないから。……理屈では分かっていても、心は追いつかない。
私のことをわかった気になっている教師なんかに。分別なんかあるものか。
エロゲが、エロ漫画が、18禁グロゲームが。悪影響なんて。
私がこんなになったのは、誰かのせいにするならあんたらの方で。
私にとっての本当の意味での「先生」は、創作者だった。それが分からないやつの分別なんて。私にはいらない。
何を考えているか分からないんじゃない。アンタらなんかに、分かられたく無いんだ。
背伸びをしている。身の丈に合わない服を、サイズの合わない靴を。無理やり着ている。履いているような精神。そう思われているのだろうか。
「そういうの」に憧れる時期がある。なんて。過去形でばかり私の気持ちを「知った気になる」。そんな人が嫌い。
何より嫌なのはいずれ自分もそうなるかもしれないということ。
人の気持ちを推し測って、勝手に納得して、勝手に浸って、勝手に味方になった気になって。そして、勝手に分かり合えたと思う押し付けがましいクソな人間に。
本当にわかりあうことができる人間同士なんて、存在しない。
酔いは醒めたはずなのに。やけにセンチメンタルで。だから。
「ねぇ、まつりはさ。何があっても……私の味方でいてくれる?」
そんなメンヘラじみた言葉を、苦い煙を漂わせる気配に投げかけた。
「そーゆー言葉はさぁ、目を合わせて言おうぜ」
煙草を咥えたまま、隣にどさりと座る。
「で、まぁ。返答としては……約束できない。お前のことがこれからずっと好きかどうかは分かんねぇしな」
「好き、って?」
「……お前が向けられたくねぇ感情だよ」
「別に、向けられたくないわけじゃないよ。嫌気がさすだけで」
自分に嫌気がさす。人に好きだなんて言われる価値はない自分に。性的なことに忌避感がある自分に。そんなのの癖に、人を騙している自分に。
「うじうじしてる、臆病なところが好きなわけじゃない。自分のことは棚に上げて人を焚きつけたお前が好きなわけでもない。へらへら笑って人を煽るお前が好きなわけでもない。音楽の趣味が合ってるから好きなわけでもない。そーゆーところを全部併せ持った、お前のことをもっと知りたい……私にとっての好きは、こうだ」
知りたいってことは。近づきたいってことで。隣を見ると、ほんのり顔の赤いまつりがいた。
「もっと知って。嫌いにならないかな」
「ならない。私が嫌いになる人間と、お前は真逆だ」
「もっと知って、好きは薄れない?」
「薄れるかもな。お前次第……だし、私次第だ」
「私は、まつりのこと好きになれるかな?」
「……今でも、私のことは嫌いじゃない……よ、な?」
咄嗟に、好きだよと言える人間なら良かったのだけど。
「私はっ……まつりのことが大事だけど。この気持ちが何なのか、まだ分かってない」
「気持ちはわかるもんじゃねぇだろ」
「……まだ、待ってほしい」
「私がお前のことを好きじゃなくなる時は、諦める時だと思う。今はまだ、諦めたくない」
……。追い詰められている。決断を迫られている。いつかそうしたように。そうさせたように。
唾を飲み込んだ。まつりが口を開く。
「この合宿が終わったら……私とお前だけの場所で、答えを聞かせろ」
私みたいな人間もどきが。人を好きになれるのだろうか。
まつりが煙草を灰皿に押し付ける。煙の香りが、ひどく心をざわつかせた。
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