第30話 閑話 決壊前の朝。
いさりとゆかりが庭先でバカみたいな会話をしている一方。あさひとまつりは部屋の中でスマブラをしていた。終点アイテム無し。エンタメ性の欠片もないふざけたルールである。
「はいメテオ。復帰の仕方がワンパターンすぎますね、先輩」
「ッ、かわいさの欠片もねぇ……」
コントローラーを構えなおし、小さく息を吐く。まつりが集中する前によくする動作である。
「次は負けねぇよ」
「次も負けません。というか、まつり先輩別に強くないですし」
手加減されてるの、気付いてます? という煽りをつける。ゆかりから聞いてた話と違う、とまつりは内心で思う。誰にでも優しいクラスの人気者。やさしさのおこぼれをもらっているだけに過ぎないなんて。
(こいつ、めちゃくちゃゆかりの事好きじゃねぇか)
否。告白されたことも知っているが……。だが、想像ではもっと人当たりのいい人間だと思っていた。以前ゆかりと話した時に言っていたこととはそういうことだろうか。
「随分強引だな――っと、その手はもう食わねぇよ」
「ゆかりよりは学習が早いですね」
画面に食いつき、お互い無言であった。お互いコンボが決まれば復帰は絶望的。戦いは、最高潮に達していた。
先に動いたのは、あさひであった。均衡を崩すために相手に近づき――だが、フェイント。攻撃範囲のギリギリで急停止し、ガードキャンセルで後ろに回り込む。
「んなっ――」
その刹那。吹っ飛ばされ、大きく画面に映るGAME SETの文字にがっくりとうなだれるまつり。あさひは短くも雄々しく、吠える。
「っっっっしゃ!!!!!」
「くそがよぉ……」
「これまでの戦いで私があの攻撃を苦手としてると意識づけられてたことに気づけなかったのがダメですねぇ、結局人間は目の前の都合のいい勝利ルートに縋りついちゃうんですよ。特に先輩みたいな猪突猛進タイプは」
「言いたい放題言いやがって……」
敗者に鞭をうち、得意げにぺらぺらと喋るさまは何となく誰かを彷彿とさせた。どや顔で人をおちょくって、最後には殴られる。まつりは笑った。さわやかに。
そして、あさひの鼻を思い切りつまんで捻った。
「ん゛ん゛ぅ゛っ゛゛!?!?!?!?」
「生意気な後輩はシメる」
顔を抑えながら、涙目でまつりを睨みつけるあさひ。反抗的である。
「――私、先輩とも仲良くなれそうです」
「そうか。やっぱお前、良い性格してるじゃん」
触れたい話題がお互いにあるはずなのに、結局言い出せないまま。
「もう一回やろっか。つぎはアイテムありな」
「NPCもつけますか」
「あり」
一方そのころ。庭先では。
「で、結局あの二人はなに話してるんですかね」
「うーん。案外なんも話してないかも……まつりもああ見えてビビりですからね」
「肝試しとか嫌がりそうですよね」
「分かる……」
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