第28話 「……ホントにバカだよ」

 まつりは、私の顔を一瞬だけ見てから目を細めた。


「ふぅん、今日は泣いてなかったんだ」

「毎日泣いてるみたいな言い方辞めてもらえますか」

「似たようなもんだろ」


 否定はしない。涙もろいと言われれば、そうだ。まつりは、名残惜しそうに煙草を見てから灰皿に火種を押し付けた。煙を上げて、火は消える。


「まつりはさ。煙草なんてやめた方がいいよ」

「そりゃ、続けるよりはやめた方がいいだろうな」

「喫煙者の肺は真っ黒なんだよ」

「なら、今から真っ白にはならねぇよ」


 いつから吸っているんだ、このチンピラ。煙草は、真っ赤なパッケージ。オッサンの絵が描いてある。肺は黒いのにパッケージは赤い。


「ま、私は健康な人生なんて推奨してないけどね」

「なら、私の好きにさせてもらお」

「その代わり……今度一本」

「私は、健康な人生を推奨しています」


 卑怯者め。私に毒は吸わせたくないと。あれ、言葉だけだと健全だぞ!? なんかここは俺に任せろ的男気を感じる。ずるい。


「わ、私もまつりにはエロゲ―なんてさせてあげない!」

「……別にしないが」


 あきれ顔。ずるい。バカ。卑怯者! 罵倒は頭の中で並ぶが、完全に初めから負け戦。なんというべきだろう。何の勝負だw


「……お前は、バカだな」


 まつりが追い打ちをかけてくる。私はソファから立って、部屋に戻る。


「今度こそ、覚えてろよ!!!!!」


 最後の最後まで、呆れがお。

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