第26話 たりない

 あさひは、私の気配に敏感になった。元々はそうでもなかったが、いつの間にか随分と私のことが分かるようになったらしい。私以上に、私を知っている。そんな気がした。

 それが恋なのか。私には分かる由もないが……。あさひの気持ちは、あさひだけのものにすればいい。

 宿題も四割ほど片付いたところで(なんか、めちゃくちゃ多かった。一日もあれば全部終わると思っていたのだけれど……数学難しすぎ)。合宿らしく、夕飯はカレーを作ることになった。


「ゆーかーり。そこのココナッツミルク取って」

「あいあいさ」

「いいねぇ……カレーって匂いがしてきた」


 なんで本格派の辛口南国風よくわからんカレーを作っているのだろうか。ゆかりちゃんわかんない☆彡

 まつりが、得意げに言った。


「合宿と言えば、カレー。カレーと言えば、素人でも素材さえ集めれば凝ったものができる」

「そうは言っても、香辛料の多い料理は好き嫌いを選ぶでしょ」

「一食抜いた程度で、人は死なん」


 まさかの「嫌なら飯抜き」のスパルタ合宿であった。


「今時そんな体罰めいたもの、許されないよ……カップ麺も買ってあるから食べたい人はどうぞ」

「辛いの苦手な人、いる?」


 あさひの問いかけに手をあげる者はいない。とりこし苦労でござった。私の人生が無意味であるように、杞憂であった。人生杞憂民です。これからの人生どうしよう。

 なんつって。

 食欲をそそるスパイスの香りに、腹が鳴る。


「大盛にしてやろうか?」

「ジョーダンきつい。そこまで食えないし」


 適当に話しながら、ちらとあさひの様子を窺う。いさりさんと適当な話をしながら、カレーをよそっている。いたって普通。普通過ぎる。――あさひが普通でない、ちょっと様子がおかしいときなんて。あのとき、私の家に来てからしか知らない。


 でも、あさひはきっともっと前から悩んでいた。だから、私には他者の気持ちを推し量る能力が足りない。人間としての力が乏しい。私は、人間風でしかないのか。

 カレーを口に頬張る。カレーの辛さはとんでもなく辛いのに、私はこの下なく薄っぺらい。

 水を飲む。辛さは、消えない。




 

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