第23話 heavy heavy complex
庭に出て、まつりと私は日差しに目を細める。夜行性の人間には堪える眩しさである。すぐに戻った。ログハウスの中の、少し広い部屋のソファで並んで座る。ベンチよりかは座り心地がいい。ぽてん、とまつりが頭を傾けてきた。黒と青が入り混じった髪のにおいに、少し驚く。どきっとするというよりは。ぎょっとするというべきだろう。
「……なぁ、ゆかりはさ――ここに来るの、嫌じゃなかったか」
「戸惑いこそあれ嫌ではない」
「そっか、ごめんな」
「何を謝られているのか。わかんないな」
「……そうだな、これは私の問題だな」
ふっと自嘲気に笑うから、目に指を突っ込みたくなる。
「何の話をしているのか知らないけど、まつりはしょーもないことまで抱え込みすぎだともう」
「しょーもないかどうかは、お前が決めていいことじゃない」
「そうかもね。でも、私はまつりが臆病者だって知ってるから――っ」
引っ張られて、無理やり馬乗りの形にさせられる。私が上。胸をすごい力で引っ張られているから、逃れられない。
「私は、自分の思いを形にするのが怖い。形にしてしまうってことは、取り返しのつかないことだからだ。はっきりしてしまえば、希望は持てなくなる」
「希望を捨てたくないから、あやふやに生きたいの? 意外と女々しいね」
「雄々しいやつが不登校になるかよ」
吐き捨てるような言葉に、まつりが抱える何かを感じた。まつりは私にとって――。
「もし、思いを形にしてとんでもないことになっても。私はまつりのとなりにいようと思う」
「お人よし」
「まつりのためじゃない。いさりさんに昔言ったけど――」
まつりの隣にふさわしいのは、私だ。今でも、譲れないものがある。行き場を失ったわけじゃない。後ろめたいだけで、日数にすれば一週間もなかった。でも、それでもあの公園でいた時間は私にとって――。
「もう、いいよ。お前の気持ちはよく分かった。――一週間だ。この友達合宿は、一週間ある。一週間は短いけど、それまでに色々考えてみるよ」
「考えるだけ?」
「形にしなくても、すっきりするかもしれないだろ」
ごもっとも。何でも口に出せばいいというものでもない。人間には隠していたいものあるし、隠すべきじゃないものある。でも、そんなものの正誤を誰が決められるというのだろうか。たとえ間違っていると思っても――そんな「正しさ」のために人と真っ向から対立することは。私にはできない。そんなことばかりしていても。何が残るわけでもないだろう。
私が生きている中で、私とかかわってきた人間はほとんどいないから。私はきっと重い友人なんだ。そうだ。そうなのだ。
「私、重いかな」
「軽い方だよ。――ほら、な?」
とん、と私の身体をどかし、すっと抱きかかえて見せられる。恥ずかしい。やめろ。私は歩ける。そう言おうとして――。
「せっかくだし、皆の前まで運んでみろよ」
「やってやる」
せっかく恥をかくのなら、なるべく大きくかくといい。そう思った。そんなわけあるかぼけ!
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