熱帯夜に焦げる。(まつり√)

第22話 「モノが足りねぇ」

 ふかふかのベッド。キングサイズ。広い部屋。流石に一人で一部屋使うのはなんか寂しくね? ということになったわけだが……。

 四人一部屋はベッドが狭い。公平のために二人で一部屋を使うということになった。


「私は介助を人に頼まざるを得ないわけで、私と同じ部屋にするのは少し心苦しいです」

「友達だろ、気にすんなよ」

「まつりに同意だけど、私にできるかが少し不安だな……」

「まぁ車いすに座る一瞬くらいなら立てない訳じゃないですし、別に……」


 石山姉に頼むのが安パイなのだが、正直納得いかない。

 足の障害とか、目の不自由さとか。あるいは……分かんないけど。友達で集まってるのに、そういうものがハードルになって少し寂しい思いをするのはなんだか良くない気がする。


「狭くなっても、四人一部屋でいいんじゃない?」


 気軽なあさひの言葉に、便乗する。


「私も同感。せっかくだしあさひとまつりといさりさんも仲良くなればいいよ」

「……そうだな。キングサイズだもんな」

「まぁ、皆さんがいいならそれで」


 部屋割りは決定した。私たちは荷解きを始めた。

 全員が、私の方(正確には私が持っている寝間着。なんか色々出しているときにたまたま手に取ったやつ)を見てきた。


「なに?」

「いや……」


 目をそらすまつり。


「その、まぁ別にいいんですけど」


 はぐらかすいさりさん。


「流石に着ぐるみパジャマはあざといでしょ」


 看過できないことを言うあさひ。


 着心地がいいから持ってきただけで、あざとさとか狙ってないんだが?????

 小学校高学年から身長が伸びてないだけともいえる。寝間着なんかなんでもええやろと適当に突っ込んだ結果がこれである。

 クソが! ぐっすり眠ってやるもんねー!(不眠フラグ)



 それはさておき、長旅に疲れた私たちは昼まで自由行動の運びとなった。


「ゆかり! 宿題しよ!」

「ゆかり、適当に庭でも見て回ろうぜ」

「……これ、私もなんか誘った方がいいですかね? マリカでもします?」


 さて。どうするか。

▷あさひと勉強する。

 ゆかりと散策する。

 みんなでマリカ!


 ……いけない、ついギャルゲ的選択肢が脳内に出てきてしまった。

 いさりさんの選択肢がない。いさりさんルートは無いのか!? いや、現状あさひルートしか開けてないしあさひルートも私としてはない。私が好きにならないと思う。私の性的対象が男か女か、今は分からないけど。

 なんとなく。私があさひに持つ感情は、ひどく絡まって、麻のように乱れているのだ。好きだけど、嫌いで。尊敬しているけど見下していて。理解できるけど信じられなくて。――そばに居たいのに、遠ざけようとしている。


「着いていきなり宿題はないでしょ。広いお屋敷……ログハウスだし、色々見て回りたいかな」

「よし、ついてこい。案内してやる」

「まつりも初めてでしょ。――私は……せっかくですし、あさひさんと遊びましょうかね」

「へ、まあいいですよ? 私マリカなら負けませんよ。ゆかりの十倍は強いから」


 対戦ゲームは苦手なのだ。私は平和主義だからな! 二人の会話を横目に見ていると、まつりが私の首根っこを掴んで部屋の外へと出ていった。


「迷子になったらメッセージで知らせてください。姉が向かいます」


 そんな声を聞きつつ、私たちは二人で廊下へと出ていくのであった。ずんずんと前を進んでいく中、まつりが呟いた。


「なんか、お前の幼馴染……あさひは、いいやつだな」

「――私なんかより、よっぽどね」

「自虐的だな。私は、単にいいやつよりひねくれたやつの方が親近感がわくな」

「ふぅん……じゃ、意外とあさひにも親近感わくかもね」

「なんだお前。妙に突っかかるじゃん」


 私にもわからない。ただ、屁理屈を並べたい気分だった。


「あさひのめんどくさいところ、まつりには話したでしょ。私も十分めんどくさいけど、あの子だって変わってるから。いいところだけ、見ないでほしい」

「短所も見ろってか? お前はやっぱりひねくれてるよ。私好みのひねくれ方だ」


 ――言っていることは、そうなんだけど。私が言いたいのはそういうことじゃなくて。


「わかってるよ。上っ面だけで友達を評価されたくないんだろ」

「……」


 分かられると、それはそれで気に食わない。というか、どうして私の内心が分かるんだよ。エスパーか?


「私だって、ゆかりが上っ面で陰気なだけのつまんねぇオタクだと思われたら嫌だからな。それと同じじゃねぇかと思っただけ」


 唇を歪めて笑うまつりの心情が、悔しいが私にもわかってしまう。自分の気持ちを過度に他人へと投影してしまっていることが愚かしいと思っているのじゃないか。そして、それくらいわかり合えているという幻想に浸かり切っている自分に嫌気がさしてもいる。


「ま、お前は私を見た目で判断してキンピラと呼ぶらしいけどな」


 いやらしい皮肉をいうまつりの肩を殴ろうとして――腕を掴まれる。


「実力行使するにはモノが足りねぇ」

「クソ、キンピラめ……! まつりの外面じゃないところ、私がぶっちゃけたらどうなるかわかってんのかよぉ!」

「さぁ、どうなるんだ?」


 消してやるぜそのにやついた面を!


「死ぬほど恥ずかしい思いすることになるよ。私、まつりのこと本当に――」

「やめろバカ!」

「ん゛ん゛ッ゛」


 掴まれ続けていた腕を思い切り捻られ、苦悶の声を漏らす。

 本当に――本当は、なんだろう?








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