第21話 nowhere
到着したのは翌朝であった。ログハウス、というから丸太小屋を想像していたのだが。石山さんちのログハウスは山一つ分の柵付き番犬欲張りセットの森の奥にある大豪邸であった。木造の。
「ログハウス……?」
「なに? 余生はここで過ごす、みたいなあれ? 皇帝の離宮かなんかか?」
「……ちょっと豪華なだけです。私もログハウスと聞いていたのですが……」
家が金持ちって、ひょっとして小金持ちじゃない!? そんな俺様ヒロイン財閥跡取りみたいな人を虐めたのか……なんかすごいな……。治安0の中学だったんだなぁ。
さりげなくいさりをお姫様だっこしながら車いすに下ろしているまつり。顔も涼しげなので相当いさりさんが細くてまつりが怪力ゴリラなんだろう。顔がいい女が顔のいい行動をするな。なんかむかつくから。
「ね、ね、ゆかり。私にもお姫様抱っこさせてよ」
「あさひさん? 起き抜けにそんなことできるんですか?」
「いいからいいから――っ」
私の首根っこを掴みながら足を払う。私は当然の如くバランスを崩し転びそうになり、あさひはそれを受け止める。そして、ふんっという何ともかわいげのない声とともに、私を持ち上げる。
「うぐぐぐぐぐぐ……無理だぁ」
「ま、いさりさんと私じゃ体重も違うんじゃない」
私をおろして、がっくり肩をおろすあさひ。私は肩をすくめつつ応える。可愛げのない声をあげたわりにかわいいあさひである。
「あさひはまつりと張り合いたいワケ?」
「別にそういうわけじゃないけど……なんか、わかんない」
もしかして:嫉妬 か……? それとも対抗心? うーん。劣等感は分かるけど、そういうのは分からない。申し訳ないが私じゃ役に立てなさそう。
「まつりにはまつりの良さがあるし、あさひにはあさひの良さがあるんじゃない」
「何の話だ?」
「まつりには関係ない話」
「水臭いこと言うなよ。ま、ゆかりにもゆかりなりのいいところはあると思うよ」
私はあさひに向き直る。
「こういうのがまつりのいいところ」
「……むぅ」
唇を尖らせる。やはり、様になる女である。こういうところは、あさひのいいところかもしれない(外面が良いのはまつりも同じだが)。なんか敗北感。私はキメ顔すら様にならない。気がする。
あさひのいいところは、私が知っていればいいなんて。ちょっとだけ思っている。私だけが知ってることも、多分ある。
「私は足が悪いです」
いさりさんの呟き。きついって。きつい自虐ネタはきついって。なんというか、本人は大丈夫でもいたたまれない気持ちになるから。シーンとしてるやん。やめーや。
「……私は顔が悪いです」
場の流れを変えようとして、咄嗟に口に出したが、ますますいたたまれない、という顔になっている。おいこら、いさりぃ! お前までそんな顔してんじゃねぇ! あさひぃ! 悪いって程じゃないよって言え! まつりぃ! お前の突っ込みを信頼してたんだぞ!
「ゆかり、後でメイクの仕方教えてあげよっか?」
「あさひさん、気の遣い方がマジできついっす」
いさりがげらげら笑っていた。石山姉(運転手)はぽそりと呟いた。
「今時容姿ネタとか、さすがに叩かれるよ」
荷物を執事(石山姉曰く、セバスチャン)に持たせ、私たちはログハウス(豪邸)の中に入る。インターネット完備である。
ちなみに、PCもフルスペック。私が持ってくるべきだったのはデータだけかもしれない。
「ゆかりさんはオンゲーしますか?」
「うーん、ノベルゲー中心のオタクだからそこまで……」
「そうですか……」
「いや、まぁやらないわけじゃないですよ? 有名タイトルはそこまで触らないけど」
いさりさんとの会話が終わる。く、くそ。私のコミュ障な感じ(得意な分野でしかペラペラ話せない)が出ている……!
得意なこと。まつりとあさひを煽ること。ご、ゴミカス……。自分がすっからかんであることを他人と関わることで学んでいく。
「ちなみに、ノベルゲーって何をするんです?」
「エロゲとか乙女ゲーとかBLとか百合とか……」
「全ジャンルじゃないですか。今何歳です?」
「……別に、守ってない人もちょくちょくいますやん?」
「あんま良くないことしてますね……ま、今更ですかね」
「私がいつ悪いことをしたんですか」
私の問いに、いさりさんは小さくため息をつく。
「不登校とか……?」
「それ、悪いことって断定できませんよ。特定のSNSでは不登校を叩くのは炎上するんですよ」
「炎上したくないから悪いことって言いたくないんですか?」
「そうですとも。みんながどう思うかを考えて動くのが正しいのです」
「あっそ」
事実である。他人の感情を逆撫でしていいことなど一つもない。人から嫌われ、動きづらくなり、色々言われる。巧言令色を使ってこそ。自分の意のままに人を動かすのは、どちらかというとあさひ。私にできることは人の意に反せずに動くことくらい。
「……それであなた自身は、どこにいるんです?」
私自身の場所など、私が聞きたい。
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