第18話 「」
古い日の話をたまにはしてみようかと思う。小学四年生。私が、たしか水族館で働く主人公を描いた小説を紹介したときだったか。興奮気味に魚がどれだけ繊細な生き物かを語る私にあさひは珍しく興味津々であった。
「私たちもつくろ! 水族館! アクアリウム!」
私たちは近くの排水が流れるドブ川に二人で赴き、たくさんのメダカ(実際にはカダヤシ。メダカに似た外来種である)を捕まえ、学校に水槽をそのまま持ち込んだのだ。
それから私たちは毎日ドブ川でミドリガメやナマズ、コイなどを捕まえて小学校に持ち込みちょっとした水族館が本当にできたのだ。
あさひはそうした迷惑行為を先生に得意げに説明し、理解を得てとうとう地元の新聞にミニ水族館は取り上げられる運びとなった(余談だが、生き物紹介テキストみたいなのは私が書いた。その光景も小さくだが新聞に載っている)。
新聞に取り上げられるまでわずか二ヶ月しかかからなかったということ、そしていまだに小学校ではアクアリウム生物のの飼育管理が高学年の役割となっているらしいということ。これは私たちの偉業だと勝手に思っているが……。
あさひは、私以外の友達とも週に三回は遊び、毎日塾に通いつつミニバスケに週末はいそしみながら水族館つくりも主導していたのだ。
人間じゃない。バイタリティの塊とでも言うべきか。
なんの話をしているかというと、あさひは普通にすごいということ。なんでもできるということ。そして、完全にアウェイであることなど気にせず即断即決をできる人間であるということ。
我が幼馴染にとっていさりさんとまつりの計画する合宿に他の全ての予定をキャンセルして入り込む程度のことは朝飯前……喫茶店のサンドイッチ前なのである。
「……部活も行かないんですか?」
「うーん……ま、大会はまだだから大丈夫! 私別に結果とかいらないし」
勝手についてくるだけのやつは言うことが違うな(ダブルミーニング)。僻みである。
「ま、別に広さは十分あるわけだし、別にいいんじゃないですか」
「……誰も言わないから忘れてたんだけどさ。ゆかりの保護者さんに連絡はいらないの?」
ちら、とみるとあさひの顔がやや強張っていた。何百回と言っているけど、「気にしてない」んだけど。
はぁ、と小さくため息をついてからまつりに返事をする。
「別に、私から言っておくよ。決定事項みたいに一週間の外泊なんて普通親同士が仲良かったりしないと無理だからね」
「あっそ。ま、ゆかりがいいならいいんだけど」
――私に家族などいない。なんて、突っ張っていた時期もある。でも、そんなものを感情の表に出したところでなぁという気持ちが今となっては強い。別に、愛情があるかどうかとか。そういうのはもうどうでもいい話なわけで。
私が愛されて育ったところで陰気だったと思うし、別に家庭環境がどうのこうのという話はまつりにもいさりさんにもするつもりはない。あさひにはバレただけ。私の家にあるのは、恐ろしいほどに空っぽのものしかない世界で、私自身も――。
「とりあえず、今日の夜いつものとこ集合でいいか? ゆかり?」
「ん……いや、車か何かで行くんでしょ? 荷物もっていくのめんどくさいよ」
「じゃ、私に住所送ってください。拾いに行きますよ」
なんで副会長さんが連絡先知ってるの。そう言いたげなあさひ。色々あったんだよ。察してくれ。
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