第13話(閑話) Match on rain, shine or storm.
遠ざかる背中に、少女はふぅとため息をついた。店長の声が後ろからかかる。
「サボりは終わりか? 石山」
「接待でしたから。サボりはいまからです」
「……ま、うん。どーせ客も来ないしな」
――別に、一切歩けないわけではない。日常生活が困難で。リハビリだってやっている。でも。足は都合よく動いてはくれない。常人のそれよりはるかに遅くて、しかもすぐに動かなくなる。それでも、だからどうした。知ったことか。あんな連中のために、自分の人生が左右されたまるか。そう思ったから。バイトもするし、生徒会だって入ったのだ。
だが、そうやって強がっても。ただ一人の気がかりだけが心を曇らせた。――私のために、人生を棒に振ろうとしていたあの子の隣にも、立ってくれる人がいるなら。私はそれでいい。
そう思った。でも、わざわざ煽り立ててモノを抜かしてきた後輩に、苛立ちはある。
動けないやつは動かないでいればいい。
そう言っているに等しい言動に、何も知らないくせにと怒鳴りそうになる。だが、他方で今自分がまつりと出会えば、お互いに消せない傷を作ってしまうのではないかというおそれがあったのも事実で。動けなくて、動かなかった。それは腹立たしいまでに私を見透かしていた。
ぶっきらぼうな言葉だったし、煽りでしかなかったが……それでも、不器用な子だ。
ふと机を見ると、メモが置いてあった。……電話番号だった。ふぅ、とため息をつきそうになる。連絡先を交換したいなら、QRコードとか使えばよかったのに。
走り書きで書かれた汚い文字。いつの間に書いたのか。
「雨が降っても電話は切るな!」
……暗号である。訳がわからない。何か意味があるのだろうか。
足が治れば。すぐにでも会いに行きたかった。なんて、いまさら。言い訳。でも、本気だった。リハビリすればいずれ歩けるようになる。そう聞いて、涙がこぼれた。
私も、まつりも。心に苦いカスみたいなものを残して再会するべきじゃないと思っていたから。
いつもみたいにクソ真面目なまつりを馬鹿にして、ヘラヘラ笑いながら。
なのに、足は動こうとしなかった。
だから、偶然を恨んだ。申し訳なさをいっぱいに、姿を消してしまったまつりにも言いたいことはあった。
クソ真面目にも程がある。こうなりたくなかったから、足を治したかったのに。
空気の読めなさそうな、少しだけ自分に似ている少女が残した電話番号をスマホに打ち込む。
あの子は、足の代わりになってくれるだろうか。
そんな思いとは裏腹に、誰も電話に出ない。
メッセージが送られてきた。
『先輩、今電車なので出れません!』
「なんなんですか、お前」
呟きに応えるように、返信が来た。
その内容は……。
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